現実
「アラタ・・・。何があっても、どんなことがあっても、最後に決めるのは自分の心。迷った時、悩んだ時、その時は自分の心に従いなさい。」
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「お母・・・さ・・・ん・・・。」
「アラタ!アラタ!気がついた!よかったぁ!今、看護師さん呼んでくるからね!」
どのくらい眠っていたのか、何月何日なのか、アラタにはわからなった。今見上げている天井は見慣れないほど白く、周りの匂いも普段嗅いだことのない匂いだった。しばらく虚ろなまま天井を見ていると看護師とミカが部屋に入ってきた。
「五橋さん、気分はどうですか?お名前と生年月日言えますか?」
「五橋 新です・・・。20XX年8月5日生まれです・・。」
「はい、ではバイタルとりますね。そのまま楽にしててください。血圧と酸素と・・・。さっき先生呼んできたから、もう少しで来ると思うわ。」
「よかったねぇ・・・アラタ・・・あたし・・・うぅ・・・。」
看護師の横でミカが泣いていた。アラタはその涙に痛く胸を締め付けられた。
「ミカ・・・ごめんね・・・シャーベットとけちゃったかな・・・。」
「バカ!バカバカバカ!死んだと思ったのよ!シャーベットの間でダブルピースしてるアラタが遺影になったらあたしが恥ずかしいわ!バカ!・・・うぅ・・・ぐぅ・・・ぐすっ。」
そう。確かにあの時、ほぼ間違いなく。あの親子をかばった時に巨大なスポットライトの下敷きになっていたはずだ。意識は朦朧としてはいるが、おそらくそれは長い時間眠っていたからだろう。自分で確認できる限り身体に痛みはなく、歩こうと思えばたぶん歩けるとアラタは感じていた。
「外傷が・・・ないんですか?」
アラタはやってきた医者に今回の経緯の説明を受けていた。人目が多いところの事故だっただけに、救急車がすぐに到着し搬送されたが、その時の救急隊からの報告では心拍正常、呼吸正常、外傷無しとのことだった。またその時、アラタがかばっていた親子も外傷がないどころか、意識もしっかりしていて二人ともピンピンしていたと。大事を取ってその親子も病院に搬送されたが入院せずにそのまま帰宅したらしい。気を失って倒れていたのはアラタだけだった。
「なんともあの事故で全員無傷というのはにわかに信じがたいものがあってね・・・。医者としての知見から君の容体は全く問題ないと解かってから、私個人で少しあの事故を調べてみたんだが・・・。」
「は、はぁ・・・・。」
医者はそう言うとおもむろにタブレットを取り出し一枚の写真をアラタにみせた。
「今はインターネットでSNSをたどればその事故現場などすぐに見つかるからね。いいか悪いかは・・・道徳的にはよくなのかもしれないがな。だが、この写真をみて私は奇跡としか思えなかった。何か別の力が働かない限りこうはならないだろうと。知り合いの物理学者も首をかしげていたよ。」
アラタはその写真をみて奇跡というにはあまりにも不自然なもの感じた。スポットライトは粉々に砕け散り、アラタを中心として半径2m程のクレーターのようなものができ、そのクレーター内にはアラタと親子が折り重なるように倒れていただけだった。その円の中に何かの破片は無く、地面が抉られただけのものだった。
「なにこれ・・・。ねぇ・・・ミカも見たの?」
「あたしアンタが潰されたって思ってパニックでそれどころじゃなかったわよ・・・。それにしてもよく見たらあたしもその光景に見覚えはあるようなないような・・・。」
「まぁ、これがどんな意味を示すかはわからないが、君が助かった経緯は君自信が知っておくべきだろうと思ってね。心配しないでくれ。君のお父さんに言われて君の搬送先はマスコミに漏れないようにしておいたから。プライバシーも問題ない。」
「そう・・・ですか・・・。お父さんが・・・。」
「問題がなければ、明日一日経過観察をして、明後日には退院できるだろう。それまでゆっくり休んでおきなさい。」
そういうと医者と看護師はお大事にと声をかけ部屋を出た。と同時にミカが話しかける。
「アラタ・・・?アラタのお父さんて・・・。ここの部屋、この病院で一番高そうな部屋じゃない?」
「うん・・・。私のお父さん・・・経済界に通じる何か偉い人なんだって・・・。だからマスコミがどうこうって言うのもお父さんなら少し納得できるし・・・。」
「そっか・・・。その喋り方だとあんまりお父さんの事好きじゃなさそうね、アラタは。」
その問いかけにアラタは小さくうなずいた。
「いいわ!これ以上聞かない!アラタが退院するまであたしがお世話してあげる!それでいいでしょ!?ここの部屋のテレビおっきいし、うちには縁がない高そうなソファーもあるし!仕方ないなぁ、アラタがどうしてもって言うから、ミカ様がここに居座ってあげようじゃないか!うむうむ。」
「ミカ・・・。ありがと・・・。ほんとありがと・・・。」
アラタの目から涙が零れ落ちていた。