アラタ
連載物です。初めての投稿です。少しづつ彼女達の成長を描けたらなと考えております。よろしくお願いします。
「おばあちゃん!今日はどんなお話し聞かせてくれるの?」
「そうねぇ・・・。アラタはもう5歳になるから・・・七夕様のお話しにしようかねぇ。」
「うん!うんうんうん!」
「むかーし昔、それはそれは働き者の牛追いの男の子と、同じく働き者の機織の上手な女の子がいました。女の子のお父さんは男の子が一生懸命働くので女の子と結婚してみないかと勧めました。お父さんが二人を会わせてみると、直ぐに互いを気に入って結婚することになりました。」
「それでそれで!」
「ところが、結婚した後二人での暮らしが楽しくなり過ぎてしまった夫婦は、ぜーんぜん働かなくなってしまいました!」
「お金が貰えないね!おばあちゃん!」
「ふふふ・・それに怒った女の子のお父さんは二人を引き離して間に川を作りました。」
「怒った時のアラタのお母さんと一緒だ・・・。」
「悪いことをしたら叱られるのはアラタもわかるでしょう?さてさて、引き離されてしまった二人。女の子はとてもとても悲しみました。毎日毎日泣いてばかり。それを見かねたお父さんは一年に一回だけ二人が出会っていいという日を決めました。それが7月7日です。」
「ちゃんとハンセイしたんだね!」
「そうよう。そして、待ちに待った7月7日。川を挟んで向き合ったとき、カササギがその川に橋をかけて、めでたく二人は会うことができましたとさ。」
「パチパチパチ!よかったよかった!おばあちゃんはお話上手だね!アラタがホショーする!」
「ありがとう。みんなに自慢できるわ。あ、でもねアラタ、このお話にはまだ続きがあるのよ。」
「え?どんなお話しなの?」
「それはね・・・・・。」
・・・・・
・・・・・・・・・
「アラタ!アラタ!先生に指されてるよ!アラタ!」
「五橋!ねてんのかー?」
「ふぁっ!?ひゃい!?」
とっさに出た変な返事にくすくすと笑い声が聞こえる。アラタの頬と耳がほてっていく。
「寝てたな?」
「ねねね寝てたわけではありません!」
「よし、じゃあこれの答えは何だ?答えてみろ。」
「・・・・すすすすみません!」
「よーし、そのまま3分立ってろ。」
「は・・・はい・・・。」
俯きながら横を見るとミカは「やっちゃったねぇ」という顔をしていた。
・・・・・・・・・
夕方、終業のチャイムと同時にアラタは机に突っ伏した。
「はあぁぁぁぁぁ・・・・」
「アラタ~、今日も散々だったね!」
「ミカ~。ううう、私は悲しいの。みんなの前で変な返事しちゃうし恥ずかしいし・・・。慰めてくれる?」
「仕方ありませんなぁ。ではでは、おじさまが援助してあげよう!・・・カフェでもいこう!」
二人が学校をでると、外の景色が広がる。ビルがどこまでも立ち並び、緑が点でしかなく空も狭い。車が絶えず走り、人は多く、その歩く足もどこかせかせかとしている。アラタはこの街の風景が嫌いなわけではなかったが、すこし息苦しさのようなものを感じていた。いつも行く喫茶店は学校からまっすぐ歩いて数分の場所。少し喋りに夢中になってたらいつの間にか到着してしまう。
「いらっしゃいませー。」
「むう!?新発売BIGイチゴミルクフラペチーノシナモンシャーベット??むむむむむむむ。」
「ミ、ミカ・・・?力はいりすぎじゃない・・・?」
「店員サン!これ二つください!」
数分後、二人の前には薄ピンク色の塔のような塊が二つそびえたっていた。
「で、でかー!アラタちょっとまだ手をつけないで!何よこの東京都庁のようなものは・・・。まるでバベルの塔じゃない・・・。そうよ現代によみがえりしバベルの塔よ!一筋縄じゃ行かないわ。スプーン一本でこの建造物を解体しろなんてここの店員は最初からグルね?いい度胸してるじゃない・・・。ふふふ・・・。あ、よだれでてきちゃった。アラタ!ちょっと端っこいって!私が解体する前にこのピンク色の東京都庁を写真に収めてインターネットにアップしなければならないのよ!全世界に今から巻き起こる戦いを発信するのよ!」
特大スイーツを前にしたミカの興奮は一向に冷める様子がない。スマートフォンで写真を次から次へと撮っていく。
と、写真を撮り続けてたミカの表情が少し硬くなった。
「私としたことが・・・。これじゃいまいち迫力が伝わらないわね。興奮しすぎてすっかり忘れていたわ。冷静だったけど。アラタ、比較対象になんなさい。バベルの塔の間でダブルピースしなさい。」
「ええ!?嫌だよ!」
「あなた、自分の置かれている立場が解かっているの?」
「え?」
「援助しているのは誰?」
「あ・・・、ミ・・ミカ様です・・・。」
「一つ856円の巨大スイーツの会計をしたのは誰??」
「ミカ様です!」
「あなたの主人は誰!?」
「愛子 美香 様です!!」
「よろしい。」
「いやああああああああああああ!」
ミカは顔を真っ赤に染めたアラタを真ん中にそびえ立つ二つのかき氷的なものを写真に収めてご満悦だった。
・・・・・・・・・
「でさー?そのときヨウコが言ったのがね、タケル君の方がオサム君よりも今は好きなの!!だって!!」
「う、うそー!信じられない・・・。」
「でしょでしょ?あんなに前はオサムクンオサムクン言ってたのにさー。まぁまぁ?恋せよ乙女というじゃない?」
「そりゃそうだけど・・・。そんなコロコロ好きな人って変わるものなのかなぁ。」
「さーねぇ?そういえば、アラタはどーなのよ?この間一年生に連絡先聞かれたって言ってたじゃない。」
「あー・・・。少しやり取りはあったんだけど・・・私そーいうのまだ全然苦手で・・・。」
「まったく・・・。アンタちゃんと可愛いんだからそーいうの一つでも経験しといたほうが後々の為になるんじゃないかとは思うんだけどねぇ?」
アラタは一般的に美人と呼べる容姿だった。すらっとした細身の長身で、肩くらいまでの黒髪。目は大きく二重で、鼻筋が通っている顔立ち。もちろん、それまで全く男性に対して何かしらのアプローチをされなかった、というわけではなかったが、アラタ自身は少々そのような事を苦手――というより対応の仕方を知らなかったのだ。
「いーわよ。私は・・・。ミカこそどーなのよ!いるんでしょ?気になってる人!」
「ふふん。聞いて驚け!今度その男の子とデートに行ってくるのだ!」
「本当!?」
「これ見てよ!映画の前売り券!そのカイ君から貰ったのだ!」
「こ、この映画・・・今話題のアレじゃない!」
「そうよ。今週末にカイ君とあそこで切ない恋のストーリーをみてくるのよ!」
ミカは目をキラキラさせながら窓の外を指差す。その先には映画館と公開中の大きなポスターがあった。
「あらー!いいねぇ!私も誰かと見に行けたらなぁ・・・。あら?」
アラタがそのポスターに目をやると、そのポスターの前に赤い風船がゆっくりと上がってきた。どうやら近くの子どもか誰かが風船を手放してしまったらしい。
「あらら。風船飛んでいってしまったわ。誰か知らないけど残念だねぇ。」
ミカがそう言った次の瞬間、ポスターのほぼ中心に差し掛かったあたりで風船が消えた。
「え?あの風船の消え方・・・?」
アラタは何か違和感を覚えた。身体の奥からなんとも言えない気味悪い感情が湧き上がってくるのを感じた。
「ミカ・・・。私、ちょっと見てくる。」
「え?なに?風船がどうかしたの?シャーベット食べちゃうよ?えええ・・・?あれ?アラタ!?アラタ!!ちょっと待ってよ!」
喫茶店を出て、アラタは映画館に向かって走りだした。人混みをかき分けポスターに向かって走っていく。人混みを抜けて視界が開けると、映画館の入り口あたりで泣いている小さな男の子と、それをあやすお母さんらしき姿を見つけた。よくある風景を見たアラタは思い過ごしだったかなと、安堵の溜息をつき、ふとポスターを見上げた。
すると、突然ポスターを照らしていたスポットライトの一つが火花を散らして折れ、その親子に向かって落下し始めた。
「危ない!」
アラタは無我夢中で飛び込んだ。なぜ飛び込んだかは自分でもわからない。そうすべきと思ったのか、本能的に思ったのか。それでもアラタは迷いもなく飛び込んだ。直後に映画館の入り口の目の前で大きく、鈍い衝撃音と土埃そして女性の悲鳴が巻き上がった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。結末までのストーリーの構想は出来上がっているものの掲載は不定期になると思われます。なにとぞお手柔らかに、ご覧いただけたら幸いです。