8.勇者を見かけました
別荘から出て、森の中を歩く俺と鬼。
ちなみにこの鬼の名前はメジナというらしい。
メジナとの二人旅は順調だった。
何と言っても、一匹たりとも魔物と遭遇することがなかったのだ。
森の中なんだから何かしらの魔物と遭遇しても良さそうなものだが……?
「なあ、メジナ。俺達って相当運が良いんだな」
「えっ、どうしてですか?」
「だってこんなに歩いているのに一匹たりとも魔物と遭遇しないじゃないか」
そう俺が言うとメジナはキョトンとした顔をする。
何か俺、変な事言ったか?
「まさか気付いていないんですか、ライク様?」
「えっ、気付くって何をだ?」
「魔物と遭遇しないのは運が良いからではないですよ。魔物達があなた様を避けているからそうなっているのです」
「俺を避けている? 一体どうやって?」
「どうやるも何も、あなた様から溢れ出る膨大な魔力を感じたらみんな反射的に恐れを抱いて逃げ出しますよ。こう見えても私、結構頑張っているんですからね!」
そういうものなのか。
だからメジナはずっと汗をかいているんだな。
やっと理由が分かったわ。
簡単に言えば今の俺って周囲を威圧し続けているみたいなもんだろうからな。
緊張で冷や汗が出るのも無理はない。
「膨大な魔力を抑える方法はないのか?」
「あるにはありますけど……でもそうしてしまうと魔王様らしさが薄れてしまうからやめておいた方がいいかと」
「いや、だから俺は魔王じゃないし、魔王らしさなんていらないから!」
「いえ、やっぱり魔王様は魔王様らしい方が安心するんです! 私、決めました。魔力を抑える方法は絶対に教えません!」
そう言ったメジナはぐっと口をつぐんで俺の事をじっと見てくる。
意地でも教えないぞという意思の表れだろうか。
ふふ、だが甘かったな。
俺にその方法は通じないのだ。
「爪+遺書+(せ)で”せつめいしょ”!」
すると俺の目の前にヒラヒラと紙が落ちてくる。
俺はその紙を取り、内容を理解した。
そして……
「えっ!? なんで魔力が抑えられているんですか!? 私、何も教えてないのに!?」
ああ、確かにメジナは俺に話してない。
だが俺には説明書さんという凄腕の情報屋がいるもんでね。
メジナ、相手が悪かったな。
俺が魔力の放出を抑えるようになったからか、俺達が森の中を進んでいくと、時々魔物を見かけるようになった。
だがそんな見かけた魔物も俺と目が合うと一目散に逃げて行った。
どうやら魔物にとって魔王とはそれほど恐ろしい存在らしい。
別に俺が何するって訳でもないのにな。
結局一切戦うことのないまま俺とメジナは森を抜ける事になった。
「やはり魔王さ……ライク様と一緒だと心強いですね。戦わずに森を通り抜けるなんて!」
「そう言うってことは、メジナは俺に会いに来るまで戦ってきたのか?」
「いえ、今回はライク様の膨大な魔力のおかげでどの魔物と戦うことなく来れました。ライク様のいらっしゃらない普段はいつも戦う必要があるのです」
そういえばそうだったな。
つい先程までは魔力がだだ漏れになっていたんだから魔物も寄り付かなくなっていたんだった。
という事は、周辺の魔物全員に俺の居場所が筒抜けになっていたということか!?
何だか恥ずかしくなってきたな……
「あっ、あそこに人間がいます!」
メジナが指をさした方向を見ると、そこには三人組の人間が歩いている様子が見えた。
「あっ、あいつらです! 私達の村を襲ってくる奴らは! まさかまた村を襲うつもりじゃ……」
「またって、そんな何度も襲ってきているのか?」
「はい。この前は三日前に襲ってきました。どうしてそんなに私達の種族を襲うのか理解に苦しみます。逃げ出して、何とか新しく作った小さい村もそうやって潰されていくんですよ。私達に力がないばかりにそのような行為を許してしまっています。私にもっと力があれば……」
メジナは悔しそうな様子でそう言った。
メジナの発言からするとあの三人組は頻繁にメジナの村を襲っているようだな。
一体何のために?
討伐依頼なんだったら、そんな定期的に倒す必要もないと思うんだが。
増えすぎた魔物や害を為す魔物を減らす目的で行われるんだろうし。
「あの中に剣一振りで村を真っ二つにした奴はいるのか?」
「そうですね……はい。中央にいる男がそうです」
中央の男……あっ。
コイツ、見覚えがあるわ。
えっと、どこで見かけたんだっけ……
分かった。
王の城で見かけたんだ。
というか、あいつ、武闘家の勇者じゃねえか。
なんで勇者がこんな所に?
見た所、もう一人の魔導師の勇者はいないようだが。
ちょっと跡をつけてみるか。
といってもこのままではいくら魔力を出していなくても気づかれるだろう。
何か姿を見られない工夫が必要だな。
となれば。
「透明+子+(ば)で”とうめいばこ”!」
すると何かがゴトッと落ちてきた音が聞こえた。
「えっ!? 何が起こったんですか!?」
メジナは突然鳴った音に驚き慌てふためく。
「うろたえなくていい。ただ中に入ると透明になれる箱を出現させただけだ。ほら、ここにあるぞ」
俺はその辺を探り、コツンと当たった物を拾い上げて見せた。
透明箱は見た目には見えないが、触った感覚はあるし、叩くとコンコンコンとしっかり音がする。
「そ、そんなものがどうして急に?」
「ふふふ、俺の力を見くびるんじゃないぞ?」
「そ、そうですね! 魔王様ならこんな事くらい出来て当然ですよね! さすがは魔王様です!」
いや、だから俺は魔王じゃないっての。
このツッコミ何回目だよ。
もうツッコむ気力もないわ。
「とりあえずこれをうまく使って跡をつけるぞ」
「了解です、ライク様!」
こうして勇者達の真意を探るため、俺とメジナは追跡を開始したのだった。