6.サタンになってみました
俺はひたすら走った。
そして周囲に誰もいないことを確認してから、こう叫んだ。
「タン+(さ)で”サタン”!」
すると、俺の体がメキメキと変化し始め、そしてしばらくすると変化がおさまった。
腕は真っ黒な太く強靭なものになっていて、そして目線が高くなった気がする。
多分体長が大きくなったんだろう。
黒い大きな翼も生えているようだ。
まさか本当に出来ちまうとはな、これ。
自分自身は例外だって書いてあるから、自分自身に対しては変換が聞くとは思ってはいたが。
それにしても体の内側から強大な力が溢れてくるのを感じるな。
何やらすごい力を手に入れたような気がするぞ。
これならいける!
そう、俺が選んだのは、自分自身をあの魔王軍に勝てる存在に変えて一掃するということ。
悪魔の王ともされるサタンだったら魔王軍の大群位なんとか出来てしまいそうだもんな。
サタンはこの世界の魔王とは違うかもしれないが、強力な事には変わりないだろ。
こうして俺は自身に生えた翼を使って空へと飛び立つ。
翼なんてもちろん使ったことなかったけど、何となくで飛べてしまった。
意外と何とかなるもんだな。
「な、何なんだあれは!?」
「魔王……魔王が来てしまったの!?」
上空を飛んでいると、そんな人々の声が聞こえるようだった。
まあ無理もないよな。
魔物の軍勢の近くに巨大な悪魔がいたら、そりゃあ誰でも絶望するわ。
魔王と見間違えるのも無理もない。
こりゃみんなを心配させないようにとっとと終わらせないとな。
俺は魔物達全体を見据えることができる位置で滞空する。
「本+茎+(や)で”ほんやくき”!」
こう言って手に入れた翻訳機を手に持つ。
そして、翻訳機を掲げながら、俺は魔物達に対してこう言い放った。
「おい、お前達! 早くここから立ち去れ! でないと、どうなるか分かってるな……?」
俺はそう言いながら空いた手で黒いエネルギーの塊みたいなものを出現させた。
って、こんな事出来るんだな。
何となく感覚で出来ちまってるけど。
サタンの力ってスゲー。
「ま、魔王様……? 何故魔王様がここに? 確か城におられているはずでは?」
大群の中から一人、悪魔っぽい奴が俺の前に出てきてそうたずねた。
魔王様って……
悪魔まで俺を魔王と勘違いするのか。
本物の魔王様がこんな所にいるかっつーの。
「俺が魔王な訳ないだろ。どこからどう見たらそう見間違えるんだよ?」
「いえ、どこからどう見ても魔王様にしか見えないのですが……」
どうやら俺は本物の魔王と勘違いされているらしい。
もしかして強そうな存在として適当に言ったサタンこそがこの世界の魔王だったのか!?
そうだとしたら何たる偶然。
「とりあえずだ。この人間の町を破壊するようなら容赦なく貴様達をぶっ潰す」
「ひっ、どうかそんな事はご勘弁を!? 事情は分かりませんが、心変わりされたのならばそれに従うまで! おい、お前達、ここは一旦引くぞ! 魔王様のご命令だ!」
悪魔っぽい奴がそう言うと、魔王軍は急いで町から引き返していった。
……あれ?
こんなはずじゃなかったんだけどな?
まあ、町に被害が出ていないみたいだし、とりあえずは良しとするか。
後は適当に遠くに移動して人間に戻るとしよう。
こうして予期せぬ形ではあるが、魔王軍を退けた俺は町から遠ざかるようにしてどこかへ飛んで行く事にした。
しばらく飛んでいき、人気の無い森の中へ降り立った俺。
周囲に何者もいない事を確認してから、人間に戻るべく、こう叫んだ。
「”一人”ー(り)で”ひと”!」
……しかし何も起こらない。
あれっ?
おかしいな?
言葉を削るタイプじゃダメだったか。
なら言葉を足すタイプやってみよう。
「火+(と)で”ひと”!」
しかし何も起こらない。
人じゃダメなのか?
じゃあ言い方を変えて……
「弦+(にん)で”にんげん”!」
「大臣+(げん)で”げんだいじん”!」
「補佐+円+(もぴす)で”ホモサピエンス”!」
これだけやっても何も起こらない!?
くそっ、どうなってんだよ!
こりゃ説明が必要だな……
「瀬+名所+(つ)で”せつめいしょ”!」
すると俺の目の前にヒラヒラと紙が舞い落ちてきた。
俺は黒いゴツい手でその紙をなんとか掴み取る。
そしてその内容を見ると……
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身体変化をした場合の注意点
身体変化をした場合、三日間は他の状態に変わる事が出来ない。
身体能力などは変化先の姿の能力に依存する。
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……そんな制約があるなら早く言ってくれよ。
という事は三日間もこの姿で過ごさないといけないってのか?
冗談じゃない。
町まで三日間は戻れないってことじゃないか。
あーあ。
しばらく戻れないと分かると愛しのマイホームが恋しくなってくるな。
まあ泣き言をいっていても仕方がない。
とにかく三日間だ。
三日間を耐えれば何とかなるだろう。
適当にその辺の空いたスペースに家でも作ってくつろぐとするか。
森の隠れ家って何か雰囲気出ていていいよな。
となると、やる事といえば……
「酸素+(う)で”さんそう”!」
定番の呪文を唱え、俺はあっさりと別荘を手にしたのだった。