5.気付かれたくない相手に気付かれてしまいました
こうして町を丸ごと言語魔法で作ってしまった訳だが、何度か言語魔法を使っていくうちにだんだん使い勝手が良くなってきた気がするんだよな。
具体的に言えば、待ち時間が短くなったというかさ。
実際、一時間待たずに同じワードを使っても使える時もあった。
使い慣れた事によって何か変化があったのだろうか?
ちょっと確認してみよう。
「隙+(る)で”すきる”!」
すると一枚の紙がひらひらと目の前に落ちてきた。
うん、予想通りだ。
生成できる物は俺の想像に依存するから、スキルといってもスキルの内容について書かれた紙を想像すればそれが出てくるのだ。
もちろん書いている内容は知らない訳だが、それは分からなくても問題ないらしく、勝手に補完してくれる。
さて、内容を見てみるか。
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現在所持スキル
人語理解、言語魔法lv3
人語理解
人が話す言葉を自動翻訳された状態で聞くことができる。また、自分が話す言葉も自動翻訳された状態で人に伝えることもできるスキル。
言語魔法lv3
言語魔法lv1がさらに強化されたスキル。
lv1との相違点
元になる言葉を複数使って一つの言葉を作ることができる
元になる言葉を削ることで一つの言葉を作ることができる
ワード再使用時間が一時間から40分に短縮
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なるほど。
やっぱりワード再使用までの時間は短くなっていたようだ。
これは結構大きいな。
それに文を読むと、ワードの新たな作り方が二種類できたようだ。
多分前者の複数の言葉を使えるというのは多分こういうことだろう。
ちょっと小腹が空いたしエクレアを出してみる。
「エア+句+(れ)で”エクレア”!」
すると俺の目の前にエクレアが現れた。
うん、予想通りだな。
つまり、今までは元になる言葉はエアの一つだけだったが、これからはエアに加えて句など、二つ以上の言葉を使う事ができるのだ。
これは使用ワードの節約になりそうで便利だわ。
そして後者は長い言葉を削って別の言葉にするということだろう。
例えばそこに残ってるクレーターからターを抜くと……
「”クレーター”-(ター)で”クレー”!」
するとそこに残っていたはずのクレーターが消滅して平地になり、クレー、つまり粘土が出現したのだった。
ちなみにワード削除に関しては縛りがないらしい。
試しに時間を置かずに他のクレーターをまた粘土に変えようとしたら出来てしまったからな。
ワード再使用時間というのはワードを追加する時にだけ関わりのあるものらしい。
元々ある言葉を削るだけになるから作れるワードは限られるが、実質使い放題みたいなものだし、これはかなりのチートだよな。
積極的に使っていこうか。
ところで、すっかり様変わりしたこの町は評判を呼び、周辺の町に住んでいる人たちもこの町にやってきているようだった。
そしてみんな驚きの表情を浮かべ、町を観光したり、店でショッピングしたりして楽しんで帰っていくそうだ。
そして町に帰った人がまたその感想を他の人に伝える……
その繰り返しで、いつしかこの町は一つの大きな観光スポットとなるのだった。
まさかここまでの影響が出ると予想していなかった俺は、このことに驚き、そして喜んだ。
それは町の人達も同様で、みんな忙しそうにしながらも充実した表情を浮かべていた。
万事順調にいっているかと思われる町の復興計画。
だが、劇的なほどの急成長は、あまりのインパクト故、気付かれてはいけない者達にも気づかれることになってしまうのだった。
トントントントン!
強くドアを叩く音。
一体何なんだろう?
家の中でくつろいでいた俺は渋々ドアを開けに行った。
ドアを開けると、そこにはかつての食事担当、今や一つのレストランを経営しているフィーリアの姿があった。
汗をびっしょりかいていて、息を切らしている様子だ。
「フィーリア、どうしたんだ、そんなに息を切らして?」
「ら、らららライクさん、大変です! ま、魔物の大群が、す、すぐそこまででででで……」
フィーリアは体全体ブルブル震える余り、うまくろれつが回っていないようだ。
って、魔物の大群だって!?
まさか、魔王軍がこの町を滅ぼしに来たというのか!?
失敗した……
町を復興させたのはいいんだが、それがあまりに急過ぎた。
その上元の世界の高い技術をふんだんに使った町が一瞬にして出来たら注目を浴びるに決まってる。
人間相手だけであればまだいいが、そうなるわけもなく……
何らかの方法でこの町の事が魔王軍に知れ渡ったら魔王軍がこの町を放って置くわけがないもんな。
どうする、俺!?
「ライク、大変! 上空に黒い影がたくさんあるよ!?」
「ライク、どうなってんだ、あれは!?」
ネルシィとバーグも息を切らして俺の所に駆けつけてきた。
二人がそんなに焦るのも無理はない。
なぜなら、空を見上げれば、昼だというのちもう空が一面真っ黒に染まっていたのだから……
一体どんだけいるんだよ、魔王軍。
勝ち目がないだろ。
「ううっ、せっかくこんな立派な町になったのに……悔しいよ」
「ネルシィ、これは仕方ない事なんだ。むしろ短期間でここまで町を復興してくれたライクに感謝せねば。おれ達はおれ達で出来る事をしよう」
「そ、そうだね。ありがとう、バーグ。ここは危ないから、ライクは早くシェルターに行って待ってて。シェルターはフィーリアの家の地下にあるから」
「それじゃあとりあえずまたな、ライク。行くぞ、ネルシィ」
「うん、私達、頑張ろうね!」
そう言って二人はどこかへ走り去ってしまった。
……本当に何も出来ないのか?
このままで終わるのは後味が悪すぎる。
せっかく町を復興させてみんなに喜んでもらえたのに、それがまた魔王軍に滅ぼされてしまうなんて。
それが繰り返し起きたら、せっかく町を復興させても魔王軍に滅ぼされる絶望感で、町の人に何度も苦しみを味合わせてしまうことになってしまう。
そんなのは許せない。
だがどうすればいい?
いくらワード再使用時間が短くなったとはいえ、40分は再使用が出来ない。
そして、動物に対して直接影響を与える事ができないから、魔物に直接作用する事は出来ない。
……本当に詰んでるだろ、これ?
いや、諦めちゃダメだ。
もっと考えろ。
ここは発想を変えてみよう。
例えばどうなったら魔王軍に勝てる?
魔王軍に勝てるとしたら、そいつらを一掃できる圧倒的ステータス、魔法が必要だな。
反撃を許さないほどの。
だがそんな事を考えても何の意味が……
ん?
待てよ?
確か、言葉魔法にこんな特徴があったよな。
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・実在する特定の人や動物自体を変換することはできない
・ただし自分自身は例外とする
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それはつまり、自分自身ならば変換先に指定できるということ。
ハハハ、こりゃもしかしたら何とかなるかもしれないぞ。
こんな事ができたらチートにも程があるけどさ。
ダメもとで少し試してみるか。
「あっ、ライクさん、どこに行くんですか!?」
呼び止めるフィーリアの方を振り向かず、俺は人気のない方へと走って行った。