47.魔王と一騎打ちの勝負をしました
本日三話目。ラストです!
「少しは効いたようだな」
「ああ、本当やってくれる……」
魔王の語気からはいらだちを感じられる。
多分魔王がこのような形でダメージを負うこと自体滅多にない事であり、屈辱的な事なんだろうな。
「そもそもお前をここから逃がしたのが間違いだったか。”言語話法”と勘違いした俺様のミスだ」
「やっぱり勘違いをしていたんだな」
「フン、そのせいでこの有様よ。本当やってられないな。まあだがそれも問題ない。紫龍の加護!」
そう叫んだ魔王の周囲には薄紫色の膜みたいなものが現れた。
「お前の”言語魔法”は直接攻撃はできなくとも、物を作り出し、そしてそれを利用して間接的な攻撃はできる。だがその攻撃は紫龍には通じなかった」
「まさか、あの時の事を見ていたっていうのか!?」
「フフ、俺様を誰だと思っている? その程度の事はお見通しよ」
王位継承祭のレースでの出来事。
俺が紫龍のムスレヌに服を着せようとしてもできない事があった。
つまり、紫龍には言語魔法の影響を及ぼせないという状況を魔王は見ていたということになる。
紫龍の加護というものをあえて使ってくることからしても、そう言えるだろう。
紫龍の加護がある今の魔王には言語魔法は効かない。
とても厄介だな―――
「だが言語魔法を封じても、お前にはそのドラゴンの強靭な肉体がある。力押しでこられたら俺様としても不利だ」
「そうだろうな。なら、負けを認めるか?」
「フフ、そんな愚かな真似を俺様がすると思うか? 真・偽装魔法!」
そう叫んだ魔王。
するとみるみるうちに魔王の体が変化していき―――
「ウソ、だろ……?」
今の俺と全く同じ、バハムート姿の魔王がそこにはいた。
「ハハハ! 驚いたか? そしてこれは見せかけではない。正真正銘、今のお前と全く同じ性能の肉体だ! それはつまり、肉弾戦でも俺様は負けることがなくなった!」
偽装魔法を使えるとはべクタルから聞いてはいたが、まさかこんな事もできるなんてな。
全く……魔王って反則な生き物だな。
俺の力の根源、言語魔法を封じた上に、さらに身体能力の優位性まで奪ってくるなんてさ。
こんなんでどう勝てというんだよ!?
「フフ、お前はドラゴンの身体能力に任せた戦い方が目立っていた。だが、そのドラゴンの身体自体をうまく使いこなせてはいなかった。つまり、全く同じ能力の相手ならば―――後は分かるな」
「くっ、卑怯だぞ、魔王……」
「ハハ、何とでも言うがいい。勝負の場は常に冷酷なのだ! さあ、覚悟するがいい!」
魔王はそう言うと一気に俺に襲い掛かってくる!
バハムートの機動力の凄さは何となくは分かっていたが、こう相手にするとどんなに厄介なのかを思い知らされるな。
魔王はドラゴンの身体の操り方を心得ているのか、バハムートの体を自在に操っている。
俺が攻撃しようとしてもひらりとかわし、そしてさらに背後から反撃の一撃を繰り出す!
反応の早さに俺は対応できず、一方的に殴られ続けることになってしまう……
いくらバハムートの身体が強靭なものとはいえ、攻撃してきている相手が同じくバハムートなのだから、一撃はしっかりと体にダメージを残してくる。
こんな攻撃が何発もきたら、そう長くは耐えられないぞ……
このままじゃ一方的に殴り倒されてジエンドだ。
そんな屈辱的な負け方ってあるかよ!?
何とかできないのか?
考えろ、考えるんだ俺!
まず状況を整理しよう。
今の俺はバハムート状態。
対する魔王もバハムート状態。
全く同じ身体能力ではあるが、技量の差で魔王に分がある。
そしてその他の事といえば、多分魔王は魔法が使える。
まだ使ってきてはいないが、バハムート状態だからといって使えないことはないはずだ。
一方俺はといえば、唯一のとりえ、言語魔法を封じられている。
いや、封じられているというよりかは相手に通じないと言った方が正しいか。
言語魔法自体は使えるのだから。
だから魔王に対して服を着せるなど、魔王に影響を与えることはできない。
こんな所だろうか。
本当、どうすればいいっていうんだよ?
唯一できそうな事といえば、言語魔法を使う位か。
でもどうやって?
魔王に言語魔法は効かないんだぞ?
なら戦いを活かす為に言語魔法を使う方法は―――。
あっ、もしかしてこうすればいけるんじゃないか!?
でもそれだとまたああされてしまうんじゃないか?
いや、ああすればいける。
きっと大丈夫だ!
俺は自分であれこれ一問一答をやっているうちに、一つの解を導き出した。
もう時間的な猶予はない。
さっさと決めるぞ。
「ハハハ、どうした? どうやら手も足も出ないようだが?」
「………………」
「フン、口ごたえもしなくなったか。つまらん。もう遊び疲れたしこれで終いにするぞ」
すると魔王は俺から距離を置き、魔力を溜め始めた。
恐らく次の一撃で決めるつもりだろう。
望む所だ。
こちらも受けてたとうではないか。
「くたばれ! ダークカオスブラスト!」
魔王が放った魔法は、恐らく魔王が使える中でも最強格のものだろう。
そしてそんな魔法がバハムートの身体に秘められた膨大な魔力によって放たれる。
つまり、今の状態で当たれば死に至るほどの強力な魔法となる。
今のままなら、な。
「バハムート+(かくせい)で"覚醒バハムート"!」
俺がそう叫ぶと身体がメキメキと変化を始める。
そして俺はその身体で魔王が放った魔法を手で受け止め、握りつぶした!
そう、今のバハムート以上の力を持てば、その魔法も問題ではなくなるのだ!
「な、なんだと!? そんなはずは!? こうなったら―――」
「させるか! 認識+(そがい)で"認識阻害"!」
すると俺の周囲に何か膜が張られた!
「真偽装魔法! ……あれっ?」
「お前がそうしてくる事はもう織り込み済みなんだよ! 覚悟しろ!」
「くっ……おのれ……」
俺は身体に秘められた魔力を口元に集め、そしてそれを魔王に向けて放った。
その攻撃は魔王に当たり、そして城には大きな穴が開くことになった!
攻撃を受けた魔王の身体は高く空に舞い上がり、そして地面へと落ちた。
俺はトドメを刺そうと魔王に一気に近付き……
「これで終わりだ!」
そう言った俺は魔王の身体を引き裂いた!
俺の攻撃を受けると魔王の身体に残っていたわずかな力も失われる。
そして時は動き出す……
「企んでいるのです!? ……ってあれっ? 魔王が倒れている? 何が起こっているのですか!?」
話し途中だったレティダはあまりの状況の変化に戸惑っているようだ。
まあ確かに急に魔王が倒れたりしたらビックリするよな。
「魔王なら俺が倒しておいたぞ」
「ライク様……本当に、本当なのですか!?」
「ああ、間違いない。しっかりとトドメもさしておいたぞ」
そう俺が言うと、レティダはその場で泣き崩れてしまった。
よっぽど魔王を倒したことが嬉しいんだな。
「良くやったわね、ライク!」
「さすがライクだ、頼りになるな!」
「あっしも感動したっす!」
他のみんなも喜んでいるようだ。
うん、色々大変な事はあったが、これで一件落着だな。
魔王を倒したら安心したからか、どっと疲れが押し寄せてくる。
身体が重たいというか何というか。
でもそんな苦労も報われるってもんだな。
みんなの笑顔が見れるならさ。
泣いたり笑ったりして、でも嬉しそうな様子をしているみんなを眺めて俺はしばらく幸せな気分に浸るのだった。
これにて『言語魔法で異世界を駆け抜ける。』は完結です!
ここまで読んで下さった読者の皆様、ご愛読ありがとうございました!




