45.ウワサを広めてみました
ナミラ町に着いた俺達は手分けして、人間の王が魔王であるというウワサをそこら中にばらまいた。
やはりこの話の内容にはかなりのインパクトがあるようで、人から人へと次々と話は広まっていった。
そしてそんなに時間が経たないうちに町全体でその話で持ち切りになった。
「この町はもう大丈夫そうだな。次の町に向かおうか」
こうしてナミラ町以外の町にも次々と移動し、ウワサを広めて回っていく。
ウワサの広がりの早さは他の町も同様で、やはりそんなに時間がかからずに町全体に広がっていった。
万事順調に見えたのだが、やはり魔王側も黙っていないようだ。
五つ目の町に入り、ウワサ話を広めまわっている時……
「おい、そこのお前、ライクという者だな?」
そう声をかけてきたのは全身甲冑に包まれた騎士だった。
なんで騎士が声をかけてくるのか?
「はい、そうですが、何か?」
「王がお前を呼んでいる。招集命令だ」
「招集って……なんで俺なんかが招集されないといけないんですか?」
「理由は私も聞かされていない。いいから早くくるんだ」
「嫌です! 離してください!」
騎士に掴まれた俺は必死に抵抗する。
だが離すまいと力を強める騎士。
ついに魔王が行動を起こしてきたか。
だが、ここは住民の目がある。
だから下手な事はできない。
ならばその住民の目をいかせばいいのだ。
嫌がる俺を無理矢理引っ張ってどこかへ連れて行く騎士。
広がっている王のウワサも手伝い、騎士が何かよからぬことを考えているのではと話す声があちこちから聞こえる。
うん、それでいい。
それが俺の狙いなのだから。
「おれの仲間に何しやがる!」
「ああ、ライクという者の仲間か。ライクには王からの招集命令がかかっている。そこを通せ」
「王からって、おいおい、魔王の間違いじゃないのか? 魔王が人間をさらっては殺そうとしているのってやっぱり本当だったんだな!」
「なっ、何を言う!? 無礼だぞ!?」
現れたバーグが騎士を挑発する。
そしてバーグと騎士のやり取りを聞いている住民はさらに騎士への不信感を募らせているようだ。
「王を侮辱するのなら、お前も連行することになるぞ!?」
「おう、やれるもんならやってみなって。ほら、かかってこいよ」
「くそっ、こいつ、一般人のくせになめやがって!」
騎士は俺を離し、そしてバーグに襲い掛かった!
だがバーグは騎士の攻撃をひらりとかわし、そして―――
「あんたこそ、ただの魔王のしたっぱのくせに偉そうにしてるんじゃねーよ。そらよっと」
バーグは騎士の背後に周り、そして回し蹴り。
すると甲冑を着て丈夫なはずの騎士はよろめいて、そのまま倒れこんでしまった!
「ネルシィ!」
「はいはい!」
するとネルシィが急に騎士のそばに現れ、そしてささっとロープで騎士を縛り上げてしまった!
「相変わらず手際がいいな、ネルシィ」
「ふふっ、もう慣れてるからね、こういう事」
どうやら二人はこういう事になれているらしい。
この二人、只者じゃないんだな……
バーグ達と騎士の戦いを見ていた観衆からは拍手喝采が起きた!
どうやら騎士の事をよく思っていない人がバーグ達を称賛しているようだった。
うん、これは良い傾向だぞ。
この雰囲気が盛り上がれば、王の打倒も支持してくれる人が増えていきそうだ。
せっかく騎士を捕えたので、今の王の城の状況を聞き出すことに。
とはいえ、ここでは人の目が多すぎて、騎士は話してくれる様子はない。
「騎士に恥をかかせるつもりか!?」といって聞かないのだ。
もう捕まっている時点で恥をかいているとは思うのだが……
人目のつきにくい場所ならば話してやらなくはないと言っていたので、町の中で適当に人目のつきにくい所まで移動することになった。
レティダとベスレと合流し、周囲に人が少ない場所に来て、腰をおろした。
「さて、ここまでくれば人の目もつきにくいだろう。で、約束通り話してくれるんだろうな?」
「フフフ、かかったな? 展開、転送陣!」
「は? 何言って―――」
何変な事を言い出すのかと思ったら、途端に俺達の足元に魔法陣みたいなものが現れた!?
そして次の瞬間―――
「おいおい、嘘だろ? こりゃないだろ……」
最初にこの世界に来た時にいた場所―――王の間に移動させられていたのだった……。
周りを見ると、俺達は部屋の中央部分にいるみたいだ。
そして、そんな俺達が来ることを分かっていたかのように騎士達が俺達を取り囲んでいて臨戦態勢をとっている。
こりゃはめられたな……。
中には騎士だけではなく、勇者と思われる人も混じっている。
騎士とは違って一般人の服を着ているようだが、王選りすぐりの強力な特殊能力を持っているだろうから、騎士よりもそいつらに警戒しないとな。
敵は数十人はいるだろう。
対して俺達は俺、ネルシィ、バーグ、レティダ、ベスレの五人だけ。
数の面では圧倒的に不利だ。
どうする、この状況?
戦わずに切り抜けるのはまず無理だろうしな……
「ようこそ、我が城へ。小汚いネズミたちよ」
声がする方を振り向くと、そこには高価な装飾の施された服を着た、俺達の宿敵、王の姿があった。




