43.衝撃の事実を聞かされました
本日六話目。
どうやらだいぶ前からベクタルが魔王として活動していたらしい。
まあ魔王として戦う事なんてないから、実際の戦闘力は求められてないのか。
「それにしてもよく私達を騙せましたね? 感じ取れる魔力は魔王のものなのに」
「それは魔王様がかけてくださった偽装魔法のお陰ッス。魔王様の偽装魔法の質はとても素晴らしいものですから!」
偽装魔法か……
つまり、姿をその者に似せるだけでなく、見かけの魔力なども似せる事ができるって訳だな。
そんな事をしてくるのか、魔王って。
「っていう事は、あれこれ私達をこき使っていたのはあなたのせいって事ですよね?」
「いっ、痛い! 痛いです、レティダさん!? おれだって好き好んで命令していたわけじゃないんスよ!?」
「好き好んで命令していないって、どういう事ですか?」
「うっ……それは……」
ベクタルは困ったような表情をしている。
どうやらそこにも事情があるらしいな。
「ベクタル、お前が悪くない事は分かっているんだ。だからこのまま無意味にお前を責めるのは心が痛むんだ。頼むから事情を説明してくれないか?」
「あっ、はい、ライク様がそう仰るなら!」
「あなたって本当、気持ちに素直なのね。まあライク様相手ならそうなるのも無理ないですけれど」
露骨に対応を変えるベクタルに不満気なレティダ。
まあこんな反応されたら誰だってよくは思わないわな。
「実は今までおれが魔王としてやってきた事は全て王に命令されてやった事なんです!」
「王に? そりゃ魔王から命令されたんだからそうなるだろ?」
「いや、そうじゃないんです。えっと正確に言えば……人間の王に化けた魔王がおれに命令していたんです!」
えっ……?
人間の王ってまさか、俺を召喚した奴って事か……?
何だよそれ、聞いてないぞ。
それになんで魔王が人間の王なんてやっているんだよ!?
ちょっと経緯の説明が必要だな。
説明書さん、お願いします!
俺はいつもの要領で説明書を呼び出すと、目の前に一枚の紙きれが現れた。
そしてその説明書にも現在の人間の王はかつての魔王が務めていると書かれている。
どうやら十年ほど前からその状態らしい。
べクタルの言っていることは信憑性が高そうだ。
「どうして魔王が人間の王なんてやっているんだ?」
「うーん、そこはおれも詳しくは分からないんスが、そうした方がおれ達魔族に有利に働くんじゃないッスか?」
人間の王でいることの意味―――王は魔王討伐できる勇者を集めていた。
普通そんな活動をしたら人間側は勢力を増し、魔物側の勢力は不利になるだろう。
だがそれにも関わらず、ナミラ町みたいに魔物の被害を受ける町があった。
もしかして魔族を倒せる勇者を飼い殺ししていたって事か?
それなら俺と一緒に召喚された二人の勇者が全然魔族の方に攻めようとしていなかった事も理解できる。
初めから胡散臭いとは思ってはいたが、何て酷いことをしてくれているんだ……
「俺個人としても殺されそうにされて恨みがあるし、とっちめないとな。早速行くか」
「あっ、待って下さい! 恐らくこのまま飛び込んでも色んな意味でヤバいッスよ!?」
「色んな意味でヤバいってどういう―――あっ、そういう事か」
「気付かれたッスか? 一応説明しておくと、例えば今回みたいなことを人間の町でしたらそれこそライク様が悪者になるッス。おれ達はそれで死なないから良いんですが、人間はそうはいかないですよ?」
確かにそうだよな。
復興前のナミラ町にたどり着いた時、魔王軍がなんて酷い事をするんだと思っていた。
もし今回ベクタル達魔物にしたような攻撃をしたら、その酷さの比ではなくなるだろう。
危うく大悪党になる所だったわ。
力の使い道って怖いな……
「確かにベクタルの言う通りですね。私としてもライク様が責められるような事は望まないです」
「ならどうしたら良いんだろう? 王である以上、会いに行くだけでも相当な人数の人と出会う事になる訳だが……」
「うーん、難しい話ですよね。一回空中都市に戻って他のみんなと相談しませんか?」
「……そうだな。俺達だけで考えても分からないし、それにそもそもこの事実を空中都市のみんなに伝えないといけなさそうだ」
王が実は魔王だった―――
それはかなりのスクープになるだろう。
というか、実はこの王が魔王であるという情報を広めるだけでもかなりの効果が見込めるんじゃないか?
人間達の間で王への不信感を持ってもらえれば、王を打倒する事が正当化されやすそうだもんな。
とにかく、今は空中都市のみんなと相談だな。
「あのぉ……ライク様。おれも空中都市に行ってもよろしいでしょうか?」
「あっ……そうだよな。城は俺が壊しちまったしな。悪かった」
「いえ、それは全然気にしてないッスよ? 所詮魔王が作った物ですし、壊れて清々するッス!」
ベクタルまで……本当に魔王って人望ないのな。
まあそのおかげであまり責められないで済みそうだから、今回ばかりは魔王の人望のなさに感謝だけど。
「じゃあみんなで空中都市に戻るか!」
「ええ!」
「はいっ!」
こうして俺達三人は空中都市へと向かっていった。




