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3.家も一瞬で作れます

「着いたわ。ここがあたし達の町よ」

「これはひどい……」



 町の様子を見た俺は思わずそう言葉が漏れた。


 そこかしらに出来たクレーターみたいな穴。

 積み上げられた瓦礫の山。

 俺たちはそんな破壊された町の中を進んでいった。



 しばらく馬車で進んでいくと、白っぽくて丸い建物が見えてきた。

 その丸い建物の近くまで行くと、そこには大勢の人達が俺達を待っていた。



「おっ、ネルシィ、例のモノは手に入ったのか?」

「ええ、バッチリよ!」

「本当か! これで家を作れるぞ!」



 ネルシィの返事を聞いて盛り上がる民衆。

 どうやらみんなネルシィの帰りを待っていたらしい。


 ネルシィが馬車の荷車から何かを一人の人に渡すと、その人はどこかに走り去っていった。



「ネルシィ、何を渡したんだ?」

「家を作るための素材よ。それがあれば簡易的な家を簡単に作れるの。王都にしか売ってないのが欠点なんだけどね」



 へえ。

 ネルシィが渡した袋みたいなものってせいぜいゴミ袋位の大きさなのに、それで家が作れるのか。

 きっとすごい技術が使われているんだろうな。



「おっ、そいつは新入りか? 今度の奴は元気そうだな!」



 民衆のうちの一人が俺を見てそう言った。

 話を聞くと、どうやら人によっては餓死寸前の人が運びこまれることもあるらしい。

 その時はバーグが持っている非常食をあげたりして何とかここまで持たせるそうだ。



「確かに言われてみればそうだな。そういえばライクって一文無しだよな? よく飲まず食わずでそんなに元気でいられるな」



 まあ普通に飲み食いしましたから。

 飲み食いしないで元気でいられるなんてどんな化け物だよ。



「こう見えても体は丈夫な方なので」

「そうなのか、それは頼もしいな。だが、飲み食いしないのは辛いのに変わりないだろう。おい、食事の用意は出来ているか?」



 バーグがそう言うと、一人の女性がこくりとうなづくのが見えた。



「サンキュ。じゃあライクとネルシィは俺について来い。しっかり栄養を取らないと働けないからな!」



 こうして俺達は馬車から降りて、白い建物に入ることになる。

 すると、美味そうな匂いが漂ってきた!


 よく見ると、どうやら熱々の食事が

 たくさん用意されているようだ。

 でも何でこんなちょうどいいタイミングで料理が?

 俺達が来る時間なんて分からないだろうに。



「ふふ、何で料理が熱々な状態で用意されているか不思議に思ってるでしょ?」

「ああ、よく分かったな」

「無理もないわ。なんて言ったって、ここに来た人はみんなそう思うからね」

「そうなのか。で、どういう訳なんだ?」

「スキル”気配感知”のおかげよ。料理担当のフィーリアはそのスキルに優れているの。そのおかげで、あたし達がここに来るタイミングを計って料理を作っておいてくれてるのよ!」



 そうなのか。

 スキルって色々あるんだな。

 隠密といい、気配感知といいさ。

 俺にはたった二つしかスキルがないから他のスキルの事が全然分からないんだけど。



「みんなそういうすごいスキルを持っているものなのか?」

「いや、そんな事ないよ。フィーリア並みのスキルを持つのはごく一部の人達だけ。そういう人達はこの町の外に出て活動することが多いんだけど、フィーリアは例外ね」



 そうなのか。

 まあ普通の人間が町の外に出たら危ないもんな。

 こんな物騒な世界だしさ。



「ということは、ネルシィもスゴいスキルを持っているのか?」

「スゴいかどうかは分からないけど、誰にも見つからない自信はあるよ」

「それって隠密能力があるって事か?」

「その通り! よく分かったね!」



 隠密能力がある、か。

 多分見つからないようにしないといけない仕事があったんだろうな。

 詳しくは聞かないでおこう。


 それから俺はネルシィとバーグと一緒に用意された料理を平らげた。

 食べた事のない料理だったが、なかなか美味かったな。


 料理を食べ終わった後、俺達三人は家の外へと出た。

 ちょっと歩いた所で俺はバーグに話しかけられる。



「さて、腹ごしらえも終わった事だし、働いてもらうとするか」

「ああ、何でも言ってくれ」

「あの辺りに平らな空き地があるだろ? あの辺りに家を三軒建てて欲しいんだ。出来るか?」

「大丈夫だ。任せておけ」

「ありがとう、早速準備を―――」



 ついにきたな、俺の初仕事!

 幸い最後にワードを使ってから一時間以上経っている。

 多分三軒位なら余裕で建てられるだろ。



「えっと、胃+(え)で”いえ”。絵+(い)で”いえ”。酸素+(う)で”さんそう”」



 俺がそう言うと、指定された場所にコンクリート製の一軒家が二軒。

 木造造りのログハウスが一軒が出来上がった。


 初めて言葉魔法で家を作ってみたが、なかなかの出来だな。

 これなら文句はないだろ。

 なあ、バーグ?


 家を作り終わった俺はバーグの方を振り向くと、そこには地面にへたり込んでいたバーグとネルシィの姿があった。



「お前、一体何をしたらこんな事が出来るんだ……?」



 どうやらバーグは目の前で起きた出来事が信じられないという感じらしく、腰が抜けてしまったようだった。

 そして話を聞くと、俺に家を三軒建てて欲しいというのは、先ほどネルシィが渡していた簡易的な家作成ツールを使用して作ってほしいという事らしかった。

 バーグはリュックを背負っているが、その中には袋がちょうど三袋入っていたのだ。


 早とちりしちまったな、俺。

 ま、まあ家には変わりないんだし、結果オーライだよな。

 なっ?



「この家、すごいな。作りがしっかりしている。基礎まで作りこまれているようだから簡易的なんてもんじゃないぞ……」



 俺が作った家を眺めたり触ったり叩いたりするバーグ。

 結局数十分はその場にへたりこんでいたが、ようやく今の状況を飲み込んで活動し始めたようだ。



「バーグは家の作りについて詳しいのか?」

「まあそこそこはな。これでも昔は家を作る職人やってたからな」



 職人か。

 なら俺が作ったこの家の出来もわかるんだろうな。

 聞いている限り結構しっかりしたものらしいから実に良かった。



「ライク、どういうスキルを使ったらこんな事が出来るの? いきなり家が出来るなんて聞いた事がないわよ?」



 不思議そうな顔をして俺の事を見てくるネルシィ。

 まあ、冷静に考えれば家三軒を一瞬で作り出せる奴なんて相当な化け物だよな。

 ちょっと感覚が麻痺してたけど。



「多分言語魔法っていうスキルのおかげだと思う。俺もよく分かってないんだけどさ」

「言語魔法? 言語話法ではなくて?」

「言語話法? それってどういうスキルなんだ?」

「自分の発した言葉が全種族に通じるようになるスキルの事よ。正直言ってあまり役に立たないわね」



 言語話法……もしかして王達って、俺のスキルをそれと勘違いしていたんじゃないか?

 確かに俺にあるスキルが言語魔法ではなくて言語話法だったら完全に役立たずだと自分でも思うわ。

 通訳にならなれなくもないだろうが。

 いや、自分の発した言葉が相手に伝わるだけだから、相手の言葉を聞き取れないし、通訳も無理だな。



「言語魔法ってどういうスキルなの?」

「既存の言葉に別の言葉を付け加えて別の何かに変える魔法なんだ。乱用は出来ないけど、結構便利なスキルだぞ」

「そうなんだ。それって色々とすごいことが出来そうね……」



 うん。

 俺でもそう思う。

 だからこそ使い方には十分気をつけないとな。



「ちょっと勘違いしちまったようだが、これでも大丈夫だったのか?」

「ああ。むしろ思っていた以上の事をしてのけた。正直ビックリだよ。ありがとな。……それにしてもこの素材、初めて見るな。鉄とも違うし、一体何なんだ?」



 俺に礼を言った後、バーグはコンクリート製の家をまじまじと観察し始めた。

 早とちりしてしまったが、どうやら役には立てているみたいで何よりだ。

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