29.レースの勝者が決まりました
「見えたわ! あの水の塊が青龍達じゃないかしら!?」
「あっ、もしかしてあれは……」
その水の塊から何か赤いものが弾き出される様子が遠目に見えた……
「ミリナ、ちょっと助けに行ってくる!」
「あっ、ちょっと!? 私も行くわよ!」
俺達は弾き出された赤龍のところへ近付き、回収した。
「へへ、すまねぇっす。ライクさん。おいら、頑張ったんすけどねぇ……」
「いや、無事なだけで良かったよ。そういえばテルサムはどうした?」
「テルサム様は全力で逃げている最中です。ですがこのままだとテルサム様も……」
「なるほどな、分かった。あいつらにテルサムの邪魔させない。ちょっと行ってくる! 雨+風+(ぼ)で”ぼうふう”!」
俺は荒れた強烈な追い風を発生させる。
あまりの勢いにバランスを崩しかけるが、何とか体勢を立て直し、そして一気に青龍達を追いかけていく!
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「いける、いけるぞ! 残り50キロ。そして憎きテルサムとは500メートル差!」
「すばしっこく逃げやがって……生意気だな。水流弾!」
青龍の一人が水の塊をテルサムに何発も発射する!
「ひぃぃぃ!? で、でもぼくはま、負けましぇん……っていやぁぁぁ!?」
悲鳴をあげるテルサム。
だがその言葉とは裏腹に、襲いかかる攻撃を避けながらも速度を落とさず、差を縮めさせない。
「ヒィヒィうるせえな。そんなに辛いならさっさと道をあけるんだな!」
「嫌です! ここで負けたらライク様に顔向けできないですからぁ!?」
「ライク? ああ、あの黒龍な。アイツはだいぶ後ろの方にいたぞ。アイツを頼ろうとしても無駄だ。追いついてやこれやしない」
「それでも……それでもぼくは、負けません!」
テルサムは先に見えるゴールを見据える。
もうゴールまではあと10キロをきった。
あとその距離だけ耐え切れれば、勝てる……!
「諦めの悪い奴だ。誰の助けもないってのに……いいかげん諦めさせてやる! オラオラオラ!」
三人の青龍は無数の水の塊をテルサムめがけて発射する!
「ちょっ、それはキツいですって!? あっ……」
頑張って攻撃を避け続けるテルサムだったが、ついに攻撃に当たってしまう!
そしてバランスを崩して、減速……
「くっ、ここまで来たのに!?」
「ハハハ残念だったな! じゃあせいぜいそこで俺達の勇姿を目に焼き付けるがいい!」
そう言ってテルサムを抜こうとする青龍達。
もうダメなのか……
せっかくここまで来たのに……
絶望に打ちひしがれるテルサム。
だが、その時だった!
「な、何が起きている!?」
テルサムよりも勢いがあったはずの青龍。
そのままの勢いでテルサムを今にも抜くかと思われたが、そうはならなかった。
「風……!? もしかしてライク様が!?」
青龍達に向かい風が吹いて進路を妨害し、テルサムには追い風が吹いて進路をサポートしてくれているのだ!
「とにかくこのチャンス、絶対にものにしてみせる!」
テルサムはこのチャンスを活かし、一気に青龍との差を広げる!
「くっ、このままではまずいです! ネメサル様だけでも行って下さい! おれ達がサポートするので!」
「分かった。アイツには絶対に勝たせない……どんな手をつかってでもな!」
青龍のリーダーは他の青龍のサポートを受けて、逆風エリアから抜け出し、一人テルサムを追う!
「トップにいるのは……なんと王子のテルサムだ! そしてそれを追うのは青龍のネメサル! 差はごく僅か! どちらが勝つのかぁ!?」
ゴール地点。
そこで観客は二人の龍の争いに注目する。
トップはテルサム。
そして僅か龍一人分ほど後ろに青龍ネメサルが続く。
テルサムにかかった風の加護はきれ、純粋に飛ぶ速さの勝負になっている。
飛ぶ速さの勝負であればテルサムに分がある。
そんな事はネメサルも分かっているので……
「ふふ、流石の速さだな、テルサム。だがこの距離なら……ストリームロード!」
ネメサルはゴールまで続く川のようなものを作り出した!
青龍は水の中であればただの空中よりも速く進む事ができる。
そして、それはテルサムよりも速く動けるということで―――
「悪いが、この勝負はもらった!」
ネメサルは勢いをため、そして一気にゴールへと突き進む!
その勢いは誰にも止められることなく……
「ゴール!!!」
ゴールを告げるアナウンスが流れるのだった。
「ハァ、ハァ、疲れたな。だがやってやったぜ。ずいぶんと苦戦を強いられたがな」
全力を尽くし、疲れを感じながらも続くアナウンスに耳を傾けるネメサル。
しばらく沈黙が続き、そしてついに勝者を告げるアナウンスが流れる!
「王位継承祭のレース部門、優勝者は――――――赤龍チームのテルサム!」
はぁ?
予想だにしない結果にネメサルは訳分からなくなり、その場で倒れこんで気を失った。
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「ネメサルの顔に張り付いてそのままゴールするとはな。全く恐れ入るわ」
「へへ、めっちゃ苦しかったですけどね。でもそれで勝てたんですから良いですよね?」
「ああ、よく頑張った。ありがとうな、テルサム」
俺はテルサムをそう言って褒めた。
テルサムの奴、青龍のネメサルが作り出した水流に飛び込んで、ネメサルが直進してぶつかってきても、そのままネメサルの顔に張り付いていやがったんだと。
進む事に夢中だったネメサルはそんな事に気付かず、そのままゴールしたそうだ。
ゴールした瞬間、テルサムは水流の勢いに飛ばされてどっかに行ってしまったので、ゴールの場に優勝者不在という不思議な展開になったのだとか。
「それにしてもライク様もスゴイです。なんだかんだで三位をとっちゃうんですから」
「結構ギリギリだったけどな。あと少し遅れていたら間に合わなかっただろう。みんなに感謝だな」
「ハシクも六位をとってくれたし……これでぼく達の点数は170点、青龍達は140点ですね」
つまり、俺達は無事にトップにたてたということだ。
とはいえ、青龍達との差はたった30点。
決闘大会で逆転されることは十分あり得る。
「青龍達って決闘大会は得意としているのか?」
「はい。出場する三人ともそれなりに強いので上位に来るでしょうね。ネメサルは優勝候補にまでなっています」
「なるほど。それは厄介だな……」
「ぼく達がこのまま優勝するにはライク様に決闘大会で優勝してもらう他にないんです。期待していますよ!」
そうなんだよな。
決闘大会は優勝者100ポイント、準優勝者50ポイント、ベスト4で30ポイント、ベスト8で20ポイントがもらえる。
もし青龍が優勝してしまったら、その時点で青龍に100ポイントが入る。
他の青龍二人でポイントがさらに加算されるかもしれない。
俺達の一人が準優勝、他の二人もベスト4に入った場合でも、獲得ポイントは110ポイントで優勝できるかは微妙だ。
そもそもテルサムが戦力外なのだから、そんな考えは現実的じゃないんだけど。
だからこそ、決闘大会で優勝しないとまず総合優勝できないってことなんだよな。
「決闘大会はいつ行われるんだ?」
「明日の昼頃です。それまではじっくり休んだ方がいいですよ。城に戻りましょうか?」
「ああ、そうするか」
さっきのレースで色々ありすぎて疲れちまったわ。
ということで、さっさと城に向かった俺達。
城の中にある俺用の部屋に入ったら俺はすぐに眠り込んでしまった。




