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26.他の龍と話してみました

「これより王位継承祭を開始する! 祭を大いに盛り上げ、見応えのあるものを見せてくれることを期待している!」



 パチパチパチ!


 開会を宣言する王の言葉に龍の民達が一斉に拍手が送る。

 かなりの数の住民がいるな、これ。



 現在、町の広場で王による王位継承祭開会式が開かれている。

 広場には国中にいる龍達が集まっているのだとか。

 ちなみに俺はその舞台裏みたいな所にいる。

 選手は開会式にお披露目会みたいな所で一斉に舞台にあがるようなので、その準備段階といったところだろうか。



「ううっ、ぼく達、こんな人達と戦うんですよね……本当に勝てるのかなぁ?」



 テルサムからそんな弱気な発言が出るのも無理もない。

 人間基準で見ればテルサムはかなり大きいのだが、どうやら龍基準ではそうでもないらしい。

 今いる舞台裏には祭出場者と思われる龍達がひしめき合っているが、そこにはテルサムよりもずっと大きな龍達がごろごろいる。

 俺よりも大きな奴らも珍しくないほどだ。



「ん? 黒龍とは珍しいな? どこのチームに出るつもりだ、お前?」



 大きな青い龍が俺の方に向かってそう言ってきた。

 そういえば黒龍チームっていうのはなかったよな。



「赤龍チームに出るが?」

「赤龍って、まさかあの腑抜けテルサムのチームって事か!?」

「ん? 腑抜けかどうかは分からないが、まあそうだけど」

「せっかく強そうなのになんであんな奴の所につくんだよ? お前も龍なら、さっさと赤龍をみかぎっちまえよ。俺様に協力してくれれば、それなりの地位は約束するぜ?」

「協力、ね。もしお前達が王になったらどうするつもりだ?」

「決まっているだろ。俺様達、偉大なる龍族が世界を支配してやるんだよ。力で全てが決まる、俺様達の世界に変えるのさ!」



 ……うわっ、本当にそんな事思ってるのか。

 それでうまくいくと思っているのが恐ろしいんだが。

 こんな奴を絶対に王にしちゃダメだな。



「テルサム、こいつのことは知っているのか?」

「はい。この青龍はネメサルと言って青龍のリーダーを務めています。いつもぼくに何かとつっかかってくるのです……」



 ああ、そういえばまた襲われたのかって王がテルサムの事を心配してきたが、コイツに襲われていたのか。

 弱い者をいじめるなんてロクな奴じゃないな。



「ネメサル、相変わらずお前はバカだな。世の中は全てカネで回っているのさ。力はカネを得る為の手段に過ぎない」

「うるさい。ガネヤイこそ、考えが甘ちゃんなんだよ。カネなんて手に入れても力で奪われたら意味がねえんだぞ?」

「あっ? やるのか、オラ?」

「へっ、いつでもかかってこいよ、この守銭奴が」



 青龍ネメサルと黄龍ガネヤイがそう言って火花を散らしている。

 ネメサルもそうだが、ガネヤイも大概だな。

 喧嘩ならよそでやってほしいわ。

 ここ狭いからすごい迷惑なんだけど。



「黒龍さんも災難ですね。あんな奴らに絡まれてしまって」



 そう言ってきたのは紫色のスラっとした龍だった。

 先程の青龍や黄龍のゴツくて大きな体とは対照的だな。



「あなたは征服をしようとしないのか?」

「征服ですか……そんな事してもいい事なんてないと思いますよ。ね、ミリナさん?」

「ええ、平和が一番です」



 紫龍と緑龍がそう言った。

 なんだ、征服を考えていない龍もちゃんといるんじゃないか。



「二人には赤龍達に不満はないのか?」

「今の赤龍さん達はよくやっていると思いますよ。ちょっと時々暴力的な所があって目には余りますけど」

「でも強いて言えば、もっと他の種族の方との友好を早く深めて欲しいわね。まだ見ぬ魅力的な殿方が私を待っているというのに……」

「ムスレヌさんは相変わらず愛に生きますね。あなたらしいですけど」



 この二人の龍にもそれなりに野望みたいなものがあるようだが、今の赤龍と比較的似た考えを持っているのかもしれないな。

 となれば、少なくとも青龍と黄龍を勝たせてはいけないということになるか。

 青龍、黄龍が勝っちゃうと俺の空中都市が襲われかねないからな。



「えっとご紹介が遅れましたわね。私は緑龍の長をやっております、ミリナと申します。で、こちらが紫龍の長たるムスレヌさん」

「ムスレヌですわ、お互い良い勝負しましょうね」

「ライクと申します。こちらこそよろしくお願いします」

「あら、礼儀正しいこと。あの馬鹿龍二人とは大違いですわね」

「ふふ、でも勝負は勝負ですから一切手は抜きませんよ。覚悟しておいて下さいね」

「ええ、こちらこそ望む所です」



 そう言葉を交わして、二人の龍との会話を終えた。



「ライク様、さすがですね。各龍のエースとお話するなんて」

「そうらしいな。青龍のネメサル、黄龍のガネヤイ、緑龍のミリナ、紫龍のムスレヌだっけ?」

「はい。それぞれ色々な方面の能力に優れていて厄介な相手ですよ」

「なるほど。でもうちのエースも負けてないんだろ?」

「……からかうのもよして下さい。ぼくがあの人達に敵うはずがないじゃないですか」



 ですよねー。

 体格差もそうだけど、なんか雰囲気とかあらゆる面でテルサムとの違いを感じるもんな。

 自分の考えを持っているというか。

 内容はともかくとしてだけども……

 こんな奴らに打ち勝つには一筋縄ではいかないだろうなぁ。



「では今回の王位継承祭参加選手の入場です!」



 どうやら出番が来たようだ。

 俺達出場者は王がいる舞台へと向かった。



 広場には相当な数の龍達がひしめき合っていた。

 そんな中で各龍の代表は意気込みを発表することになり、俺達の代表であるテルサムは緊張の余り声が震えていた。

 本当にこんなんで王になれるのか正直不安だな……

 まあなってもらわないと困るんだけどさ。



 開会式みたいなものを終えると、俺達は移動する事になり、港みたいな所までやって来る。

 そこの周囲には人だかりが既にできているようだった。



「広場も凄かったが、ここもすごい人だかりだな」

「そりゃそうでしょうね。ここがレースのスタート地点ですから。みんなレースのスタートを見ようと場所取りをしていたりします」

「ふーん、なるほどな。俺達がここに来たってことはもうすぐレースが始まるということか?」

「はい。あと数分もしたら始まると思いますよ」



 いよいよか……

 スタートダッシュは肝心だからな。

 気を引き締めないと。

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