21.バハムートになってみました
恐らく相手の龍の集団はテルサムを連れに来たんだろう。
だから俺達を襲ってきた。
あれっ?
でもこの空中都市ってステルス機能ついてたよな?
どうしてまるでこの場所が見えているかのように攻撃してきているんだ?
そもそもテルサムがいない所に無意味に攻撃するはずもない。
そしてこの場所をピンポイントで攻撃してきている。
それはつまり―――
「テルサム、まさかお前、他の仲間達に追尾されているんじゃないか!?」
「うっ……そうかもしれないです」
話を聞いてもらう為にテルサムの好きな肉を差し出しながらそう聞くと、やはりそう言ってきた。
こいつ、こうなることを分かって……
「とにかく、早く仲間の所に行け。そうでないと俺達はお前の仲間に殺されちまう」
「で、でもっ!? やっぱり嫌なんです!」
「嫌でも何でもいいからとりあえず話し合うんだ!」
「いやっ! 絶対にいやっ!」
こいつ……
こうなったら無理にでも仲間の所に連れて行く必要がありそうだ。
となれば。
「目+縄+(し)で”しめなわ”!」
俺はテルサムの周囲にぐるぐるまかれたしめ縄を出現させ、ぎゅっと縛り上げた!
そして仕上げに……
「バンド+(い)で”バインド”!」
俺はテルサムに魔法をかけ、身動きとれなくした。
「ら、ライクさん、こんなの酷いですよ!?」
「黙れ。こっちは死活問題なんだっつーの。お前をとにかく連れて行かないとこちらは町全体を滅ぼされるんだよ」
いくら言っても聞かないなら、もう強硬手段に出るしかないよな。
だってこのままじゃこちらが滅びるのを待つだけだもの。
そんなのはまっぴら御免だ。
だが問題はテルサムをどう相手の龍達に引き渡すかだよな。
そもそも話し合える距離まで近づかないといけない。
あと、この巨大なテルサムを持って空を飛ばないといけないんだよな……
そんな事が出来る奴なんてここにはいない。
俺がサタンになっても厳しいだろう。
体格差がありすぎる。
だけど何とかしないといけないよな。
体格の大きな龍を運べる存在。
それに俺がなるしかないだろう。
また三日間戻れないのは面倒だが、やるしかない。
いくぞ……
「バー+ハム+(と)で”バハムート”!」
俺が叫ぶと同時に、みるみる俺の体は姿を変えていき……
「ど、どうなっているんですか、ライクさん……?」
そうポカーンとした顔で俺を見てくるテルサム。
今まで俺が見上げるほど大きなテルサムが、今や下に見下ろすようなちっぽけな存在に見える。
そう、今や俺はテルサムよりもさらに一回りも二回りも大きな、漆黒の鱗に覆われたドラゴンへと変貌を遂げていたのだ!
「じゃあさっき言った通り、お前を仲間の所に連れて行くからな。感謝しろよ」
「えっ!? ちょっ、離してください! 何でもしますからぁ!?」
俺は片腕でガシッとテルサムを掴み、そのまま赤龍達がいる方向へと飛んで行った。
「な、なんだお前は!?」
「貴様、テルサム様になんて事を!」
俺が赤龍の群れの近くまで近付くと、赤龍達はそのように怒りをあらわにして言ってきた。
まあ大事な王子様をこんな締め付けた状態になっているのを見かけたら普通怒るわな。
「待ってくれ。俺はお前達と戦うつもりはない。お前達はテルサムを取り返しに来たんだろう? ならテルサムは返す。だから危害を加えずに帰ってくれないか?」
「黙れ! そのような戯言を誰が信じるか! お前達、砲撃準備! 発射!」
そう赤龍のうちの一人が言うと、赤龍達が俺をめがけて火炎弾を発射してきた!?
「ちょっ、危ないって! テルサムに当たったらどうするつもりなんだよ!?」
しかし俺の言葉は相手の赤龍に全く届いていない。
コイツら、一体何を考えているんだよ。
普通人質がいる相手に向かって攻撃なんて事はしないだろ。
なんて言ったって俺がテルサムを盾代わりにすることだって出来るんだぞ?
馬鹿なのか、こいつら?
別に俺はテルサムが傷つくことは望んでいない。
ただ町にいられるとこの赤龍達に攻撃されるから追い出そうとしているだけで。
だが交渉しようにもこれじゃ話し合いにすらならねえな。
仕方ない。
本当はしたくなかったんだが、威嚇射撃でもして一旦退いてもらおう。
あわよくば話し合いに持っていければ御の字だ。
とりあえず今は時間が欲しい。
赤龍達の攻撃を避けつつ、俺は体内に溢れるエネルギーを口元へ集める。
そして……
ズゴォーン!!!
エネルギーがそれなりにたまった所で、俺は赤龍達に向かってブレスを放った!
だが予想以上の威力、攻撃範囲が出てしまい、相手の赤龍達全員に攻撃が命中!?
あっ、やべ……
俺がそう思った頃には相手の赤龍達は黒焦げになって地面へと落下していった……
牽制させるだけのつもりだったのにどうしてこうなった。
バハムート強すぎだろ。
全力なんて出したら世界吹き飛ぶんじゃないか、これ!?




