20.何者かに襲撃を受けました
広さとしては住民全員住めるのだが、全員移住してしまうと元の町がゴーストタウン化してしまう。
なので結局移住を強く希望する半数の人だけを招き入れることになる。
赤龍に運んでもらうことで、数時間もしたら移住は完了した。
移住も終わり、それから数日間、何事もなく過ごすことができた。
一緒に住む人間と魔物もみんな仲が良い様子なので一安心だな。
龍引っこ抜きイベントが余程効いた様子で何よりだ。
ところで、最近その龍が挙動不審なんだが、どうしたんだろうな?
ちなみにその龍の名前はテルサムというらしい。
「テルサム、さっきから外が気になっているようだが、どうしたんだ?」
「えっと……いや、なんでもないです。まだ、大丈夫……」
「まだ大丈夫って、まさかこれから大丈夫じゃない事が起きようとしているのか?」
「えっ!? い、いや、そんな事ないですよ!? ぼくは元気いっぱいですよ!?」
怪しい。
というか焦るあまり話が噛み合ってないぞ、テルサム。
これはもう少し聞き込みが必要だな。
「お前って俺の空中都市に猛スピードで突っ込んできたけどさ。まさかあれって誰かから逃げていたんじゃ……?」
俺がそう言った瞬間、テルサムの顔が青くなった。
まるで青龍になったみたいだ。
どうやら図星みたいだな……
「えっ、あの……」
「怒らずに聞くからさ。正直に言ってみ? でないと対処できるものも出来なくなるだろ?」
俺がそう言うと、テルサムはどうするべきか色々葛藤していた様子だった。
そしてしばらくすると。
「本当に、怒らずに聞いてくれますか?」
「ああ」
「何を言っても、ですか?」
「ああ、約束する」
「では、話します……」
テルサムは深呼吸してから、今自分が置かれている状況について話し始めた。
その話を要約すると―――
・テルサムは龍国ヴェスバンの王子
・国をかけたイベント、王位継承祭がこれから行われようとしている
・テルサムはそれが嫌だったので逃げてきた
という事だった。
「おい、別に祭りなんだから参加すればいいだけの話だろ?」
「いや……周囲からの期待が凄くって……ぼくは別に王にならなくてもいいのに」
「立場が立場なんだから仕方ないだろ。それにその祭りの優勝者が王になるんだったら、あえて負ければ王にならなくても済むんじゃないか?」
「そんな事出来ないよ。ぼく達、赤龍族の掟に”勝負事、常に全力であれ”というものがあって、手を抜いたことが判明したらどんな目にあわされるか……」
そうなのか。
色々と面倒そうだな。
それに龍の中での話だし、俺が首突っ込んでいいことでもなさそうだ。
「テルサム、今までありがとうな。とても助かったわ。じゃあみんなの期待に応えるために頑張ってこいよ!」
「えっ、何でそうなるんですか!? ダメですよ、そんなの! ぼくは意地でもここに居座りますからね!?」
「ダメだろそんなの。王子としての責任を果たさなきゃ」
「イヤです! 絶対ぼくはてこでもここから動きません!」
そう言ったテルサムはどしっとその場に座り込んだ。
どうやら本当にそこから動くつもりがないらしい。
……なんか厄介な事になりそうだな。
今の所は何もないからいいんだが、大丈夫か?
すごい不安だ。
~~~
さらに数日。
テルサムの話を聞いてからまだ何事も起きていない。
テルサムの心配のしすぎなのかなと安心しかけていた所で……
「ライク、何か強大なエネルギーがこっちに向かってくるような気がする……」
ネルシィがそう俺に言ってきた。
ネルシィにはスキル”危機感知”がある。
そんなネルシィの言う事だからたぶん本当に近いうちに何か来る!
「レティダ、念の為最大出力でバリアを張っておいてくれ」
「了解です。指示を出しておきますね」
レティダはそう言うと無線で連絡を取り始めた。
何が起きるか分からないから準備は万端にしないとな。
ズドーン!!!
な、何だ!?
俺は音がする方を見ると、大量の赤い何かが空からやってくる様子が見えた……
「おいっ、テルサム! あの赤い奴ら、お前の仲間だろ? 探しに来たんじゃないのか!?」
「ぼくは何も知らない。何も覚えていない。ぼくは龍じゃない。ぼくは人間……」
お経のようにブツブツと何かを言っているテルサム。
というかお前人間じゃないだろ。
自分で刷り込みしようとしてどうする。
こりゃ何言っても駄目か……
「ライク様、先程の攻撃は龍のブレスだそうです! その一撃でシールドは10%損傷! 修復に入っています!」
げっ!?
一撃で10%も削れるのかよ!?
こりゃ何発もブレス撃たれたらたまったもんじゃねーわな。
このままじゃ町は龍のブレスで焦土と化すのも時間の問題だ。
どうする、俺!?




