17.ステルス機能が仇になりました
「それよりライク、どうしてその二人は着ぐるみを着ているの?」
着ぐるみを着たレティダとベスレを見てそう聞いてくるネルシィ。
まぁ普通気になるわな。
だけど町中で話すわけにはいかないんだよな……
「ちょっと事情があるんだ。ここでは話せないからちょっと家に来てもらってもいいか?」
「え、ええ。別に構わないけど……」
こうして俺達はこの町にある自宅に向かうことになった。
ちなみに自宅には静脈認証の鍵がついているので、誰にも入られた形跡はなかった。
「さて、ここなら話しても大丈夫そうかな」
自宅の部屋の中に入った俺はブラインドを閉めてからネルシィに事情を話した。
するとネルシィはうんうんとうなづいて、
「ライクってば相変わらずだねー。ということは、この二人は魔物なの?」
「ああ、そうだ。レティダ、ベスレ、着ぐるみを取ってみてくれ」
「やっと取ってもいいんですか。暑苦しくて息がつまりそうでしたよ……」
レティダとベスレはカポッと着ぐるみの頭をとる。
「あっ、本当に魔物さん……でも人間の言葉話してるよ?」
「ああ、こいつらには翻訳機持たせているからな。魔物の言葉で話していても翻訳されて聞こえるんだ」
「なるほど、納得納得」
ネルシィ納得するの早いなぁ。
まあその方が助かるんだけど。
「それにしても空中都市かぁ。今どの辺りにあるの?」
「多分この町の近くに浮かんでいるはずだ。レティダ、正確な場所は分かるか?」
「はい。ここから北東30キロ離れた所に浮かんでおります」
「北東? この一帯に空中都市らしきものは見当たらないが?」
「ああ、それも無理はない。何しろその町、ステルス機能を搭載してあるからな」
「ま、町全体を? うーん、でもライクならやりそうだよね」
バーグもうんうんとうなづいていた。
どうやら二人ともこの手の話には慣れているらしく、驚いた様子はなかった。
慣れって恐ろしいな。
「そこでなんだが、空中都市に誰か引っ越したいという人いないかな? 人間と魔物が共生する町を作りたいんだ」
「ふーん? そうは言っているけど、単にライク寂しいんでしょう? 人間はライクしかいなかった訳なんだし」
「うっ、それもなくはないんだが……」
「私はそこに引っ越してもいいよ。町ももう充分復興してくれて私の役割は終わってるし!」
「おれも大丈夫だ。空中都市に浮かぶ町のその技術に興味があるからな!」
どうやらネルシィとバーグは乗り気なようだ。
でも二人とも町にいなくても良いんだろうか?
「二人とも町にいなくてもいいのか?王都で捨てられた召喚者を助ける仕事があっただろうに?」
「それは大丈夫だ。保護活動をやっているのはおれ達だけじゃない。二人位抜けたってどうにかなるだろう」
ふーん。
まあ支障がないならいいんだけどさ。
「魔物との共生っていうくらいだから引っ越し希望の人は多い方が良いよね? 良かったら他の人達にも聞いてみよっか?」
「ああ、そうしてくれると助かる!」
「おれも手伝おう。だが人数が多いから聞くのは時間がかかりそうだな。返答は明日でもいいか?」
「ああ、別に構わないぞ」
「了解。それじゃネルシィ、行くか!」
「ええ!」
そう言ってネルシィとバーグは外へと出て行った。
さて、俺はこれからどうしようかな?
明日まで待つ必要があるし、特にしないといけない事もないからなぁ。
「ライク様、する事がないのであれば、一度空中都市に戻りませんか? 周りの状況が気になります」
そうだな。
設備を揃えた空中都市であれば、周りに危険があればいち早く察知してくれるし。
そこで待っていた方が安全だろう。
「そうだな。一回戻るとするか!」
こうして俺とレティダとベスレは復興の町の外へと出た。
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「この上空辺りにあるはずです」
外をしばらく歩いていると、そうレティダは言った。
じゃあ飛んでそこまで行くか……と思ったけど、そういえば今の俺には翼がないんだった。
「レティダ、ベスレ、今の俺には翼がないから二人のどちらかに乗せてもらえないだろうか?」
「そうですよね。分かりました。じゃあベスレ、偉大なるライク様を貴様の醜い背中に乗せておやりなさい」
「えっ、何すかその言い方!? それに何であっし何すか? レティダ様の方が適任でしょうに!?」
「ベスレ、まさかお前、か弱い乙女にそんな事をさせるつもりか?」
「えっ、だってレティダ様はその辺の男よりも断然―――」
「張っ倒されたいのか、貴様!? とっととお乗せする準備をせい!」
「ひ、ひぇぇぇ!?」
ベスレは着ぐるみを脱いで、翼についたホコリを急いではたいている。
ベスレの発言に問題があるのは分かるけど、レティダ様怖えな。
俺も迂闊な発言しないように気を付けよっと。
「ら、ライク様、準備ができやした! 背中にお乗りくださいませぇ!?」
「ベスレ、そんなに焦らなくていいぞ。むしろ落ち着け」
「あっしはお、落ち着いてますとも! 大丈夫、ええ、大丈夫ですとも!」
明らかに大丈夫じゃなさそうだが……
まあ、任せるしかないもんな。
頼むからしっかり飛んでくれよ、ベスレ。
レティダの無言の圧力を受けながらも何とか俺を乗せて飛び立つベスレ。
かなりフラフラで危なっかしいのだが、これ以上何か言うとベスレの心が折れそうなので何も言わないことにした。
そんなこんなでだいぶ高い位置にまで来た俺達。
そろそろ空中都市に近いんじゃないか?
「レティダ、そろそろ空中都市に近いんじゃないか?」
「ええ、あと20メートルほど高度を上げれば着陸できるはずです」
レティダは無線機を使って何かのやりとりをしている。
多分詳しい位置情報を管制塔にいる部下とやりとりしているんだろうな。
でないと着陸場所なんて分かんねえもん。
ステルス機能があるのはいいが、それだと外から戻ってくるときに不便だよなぁ。
全く見えないからこれじゃ空中都市にぶつかる空の生物もいるんじゃ……?
ふと遠くを見てみると赤い粒みたいなものが見えた。
なんだろうなぁと眺めていると、その粒はみるみるうちに大きくなっていき、そして……
チュドーン!!!
赤い何かが一瞬にして俺達のすぐそばまで近付き、そして見えない空中都市に当たってそのまま地面に墜落した!
って、早速犠牲者が出ちまってるじゃねーかよ!?
どうすんだ、これ!?




