15.町中犬だらけになっていました
でもたった一人の魔女に占領されるって凄いな。
よほどその魔女が強いんだろうか?
「魔女を追い出そうとはしなかったのか?」
「そうだな。できるならそうしたかったんだが……」
「何かできない理由が?」
「ああ。そいつに近付くとみんな、犬になってしまうんだ」
へ?
犬になるってどういう事だ?
さっぱり分からない。
「犬って、あの動物の犬か?」
「ああ、動物の犬だ。おれも最初は目を疑ったよ。何せ町中の人達が犬になっちまうんだからな」
町中の人達が犬になる?
全然想像がつかないんだが……
「そんな顔するのも無理ないよな。だが本当にそうなんだ。町に行けば分かる」
「町に行けば分かるって……もしかして今のみんなは犬になっているということか?」
「ああ。おれはそんな場所からこっそり抜け出してきたって訳さ。本当、今の町は異様すぎるぜ……」
はぁとため息をつくバーグ。
どうやら相当困っているらしい。
「バーグは町から逃げ出してきたみたいだけど、どこかいくあてがあるのか?」
「いや、特にねえよ。適当に時間をおけばなんとかなるかと思ってさ。そしたらライクに出会えたという訳だ」
「そうなのか。だったらもし良かったら町を案内してくれないか? 町の様子を見てみたいんだ」
「ああ。だがある程度の案内で良いか? アイツの近くに行くとまた犬になっちまうからな。そんなのはもう御免だ」
「ああ、できる範囲の案内で大丈夫だ。よろしく頼む!」
例の人物に一定範囲に近付くと犬になっちまうらしいもんな。
その人物のいる場所がおおよそ決まっていて、そこには近付きたくないとバーグは言っているのだろう。
別に俺はそこまでこの件に首を突っ込みたい訳でもないし、町の様子を見られればそれで十分だ。
こうして俺とバーグ、レティダとベスレは町へ向かう事にした。
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「ワンワン!」
「ワンワン、ウーッ……」
「ワオン、ワンワン!」
そこら中にいる犬、犬、犬。
犬の種類はそれぞれ違うようだが、町には犬がとにかくたくさんいた。
そんな犬達は俺達を見るなり近付いてきたり、うなっていたり、様々な反応をしている。
「こ、これは凄いものだな……いつからこの状態なんだ?」
「昨日からだな。例の奴……俺は勝手に犬の魔女と呼んでいるんだが、そいつがこの町に来ると、そいつの周囲にいた人達が次々と犬になっていったんだ。本当、あの時は何が起きているのか訳が分からなかったな」
「全く前ぶれみたいなものもなかったのか?」
「ああ、全くな。離れて様子を見た感じだと、犬に変えられてしまうのは魔女を中心におよそ半径10メートルほどの範囲だった。あと、人間に戻る為には恐らくそいつから1キロは離れないといけない。大体それ位の時に人間に戻れたからな」
「1キロか……確かに遠い距離だが、バーグ以外にも人間に戻ろうとした奴はいないのか?」
「あまりいないだろうな。なんて言ったって、犬になると魔女の精神支配を受けるようなんだ。俺でさえ、わずかに残った理性で何とか町の外に出る事ができたほどだ……」
なるほど。
10メートル以内って事は、遠目で見かけたら逃げれば何とかなりそうな距離だな。
だが一回犬になってしまうと精神支配も受けるので、戻るのはだいぶ困難だと。
なかなかえげつない魔法使ってくるな、おい。
油断しているうちに近付かれたらおしまいじゃないか。
「バーグは特定の場所に行きたくないような言い方をしていたが、その魔女の居場所は分かるのか?」
「ああ、移動してなければの話だが。町役場だ。そこを本拠地にしている事は間違いないだろう。観察している時にいつの間にか10メートル圏内に入っちまって、犬になっちまったんだけどな……」
「そ、そうなのか……」
俺は近くに寄ってきた犬を適当にあしらいながら道を進んでいく。
絡んでくる犬の数が思ったよりも多いからなかなか前に進めない。
そんな状況に嫌気がさしたのか。
「ライク様、あっしはもう我慢ならないです。お先に失礼するっすよ!」
「ちょっ、お前そっちは……!?」
そう言って一人ダッシュして犬地帯から抜け出したベスレ。
そんなベスレを止めようとしたバーグだったが、その手はすり抜けられて、通す事になってしまった。
すると……ベスレは倒れた。
そしてベスレの着ぐるみの頭部分が取れてしまう。
ヤバい!?
これではベスレが悪魔だという事が見られてしまうぞ!?
だが、着ぐるみの頭部分にベスレの頭部分はなかった。
どうしてだろうとその場で眺める俺。
しばらく待っていると着ぐるみの胴体の部分から……犬が出てきた。
えっ!?
これってもしかして……
「なあ、バーグ。今のって、例の現象か?」
「ああ、そうだ。あの辺りは危険地帯だからな。だから止めようとしたんだが……」
本当にただ近づくだけで犬になってしまうんだな。
目の前でその現象を見せつけられた俺は恐怖を感じた。
「おい、ちょっと待てよ? これ、マズイことになったぞ……」
「え? どうしたんだ、バーグ?」
バーグの顔が青ざめている。
何か不味いことが起きたんだろうか?
「今から犬から離れるんだ! でないと、このままでは例の10メートル圏内に押し込まれるぞ!?」
えっ?
押し込まれる?
それってまさか……
「この犬達が俺達を10メートル圏内まで押し込んで犬化させようとしているということか?」
「そういう事だ。犬の目の色が赤くなっているだろ? これは魔女が犬の精神に働きかけている証なんだ。つまり、この犬達は今や魔女の下僕って事さ。とにかく、早く抜け出すぞ!」
張り付いてきている犬がどんどん増えていき、そしてその犬達がベスレの向かった方向に俺達を押してくるのだ。
つまり、このままの状態でいると、俺達もベスレと同じ運命にあってしまうということ。
そうならないために俺達は必死に俺達は必死ににもがき続ける。
だが、犬の数があまりにも多く、その力は強力で、俺達は為す術なく押し流され続け……
「おいっ、バーグ、レティダー!?」
気付いたら俺以外に残った二人もその姿は見当たらなくなった。
恐らく二人とも犬に変わってしまったんだろう……
残されたのは俺一人。
果たしてこの状況をどうしたら良いんだろうか……?




