11.魔王の部下には不満がたまっていたようです
また転移しても追われるだけだから意味ないよな。
となると、逃げ切る事は厳しいか。
逃走が厳しいなら戦って気絶してもらう必要がある訳だが……
「ねぇ、聖魔王様、聞いて下さいよ! あのクズな魔王の奴、私達を散々こき使ったあげく、気遣いの言葉一つないんですよ! 本当、ムカつきますよねー!?」
こうやって魔王軍のリーダー的な悪魔が色々愚痴をこぼしてくるのだ。
普段どんだけストレスたまってるっていうんだよ。
とにかく、こんな奴を一方的に痛めつけるのはちょっと俺のビビリな精神ではできそうもない。
一時間待って洗脳が解けた頃にしっかりと敵対してもらうべきかな。
となると、戦闘しても問題ないような広いスペースが必要な訳だが……
「えっと、お前の名前は何ていう?」
「あっ、申し遅れました、聖魔王様。私はレティダと申します。この軍の長を務めております」
「レティダか。俺の名はライクという。これからは名前で呼んでくれ。別に俺は魔王ってガラじゃないしさ」
「あっ、そういえばあのクズな魔王と似た言い方では失礼ですものね。承知致しました。これからはライク様と呼ばせていただきます」
「そうしてくれると助かる。あと、ちょっと聞きたいんだが、この辺りに何もないだだっ広い荒地とかないか?」
「ございますよ。お望みであれば私がご案内致しますが?」
「ああ、是非そうしてくれ」
こうして俺は悪魔のレティダについて行く事にした。
ちなみに一時間経ったか分かるように時計を作成して、時間を測るようにしておいた。
洗脳が解ける時間が分かってないと危ないからな。
あっ、時計のサイズは今の体にらちょうど合うようにしてあるので、人間から見たら巨大時計になると思う。
少し飛んで移動して、ある地点で降り立つことになった。
「この辺りがライク様お望み通りの何もない荒地になるかと思います」
「そうだな、確かにここなら大丈夫そうだ……」
見渡す限りただの土と山しかない。
木はもちろん、雑草さえ一本も生えていない。
本当、不毛な地って感じだな。
まあ、その方が好都合なんだが。
「こんな所で何をされるおつもりなのですか?」
「いや、単にゆっくり休みたくてな。何か物があると邪魔で気が散ってしまうからな」
「なるほど、それは一理ありますね!」
どこが一理あるんだか。
自分で言うのも何だけど。
気が散るから何もない所にいたいなんて、そんな奴存在するんだろうか?
まあ、納得してくれたみたいだから別にいいんだけど。
「それより聞いて下さいよ、ライク様! この前デービイ村のナーズがですね―――」
俺はこうしてひたすらレティダの話を聞かされることになった。
途中からは他の魔物も俺に対して愚痴とか世間話をしてくるようになった。
コイツらってこんなにお喋りなんだな。
寡黙な魔物の兵士のイメージあったんだけど。
いや、普段話さないからこそ話したくなるんだろうか?
まあ、とにかく一時間の辛抱だ。
もう少し頑張ろう。
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一時間経過―――
「―――それでですね、ナーズったらあのクズな魔王に花をプレゼントしようとしたんです! 何と愚かな事をしているんでしょうね?」
「そう言ってるレティダ様も花の準備をしてたじゃないっすか」
「うるさい、ベスレ! それはただの気の迷いよ。今はライク様一筋なんだから!」
あれ?
時計を見る限り一時間経っているはずなんだが?
もう少し待ってみるか。
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三時間経過―――
「レティダ様ったらこの前悪魔ケーキと三時間もにらめっこしていたんすよ。さっさと食って運動すればいいのに馬鹿っすよねー」
「うるさい! そんな単純な問題じゃないのよ! 全くアンタって奴は乙女の心っていうものが分かっていないわね!?」
おかしいな?
全く変化がないぞ?
これ、完全に時計壊れてるだろ。
後は体内時計頼みって所か……
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この世界の太陽らしきものが一周。
つまり一日経過。
「本当、何でもっと早く気付かなかったのかしら? あんな奴に仕えていても良いことなんてないのに」
「本当っすよねー。せめて労いの一言位欲しかったっす。それさえもなかったですからね、あの人」
変化なし。
どうしてだ?
どう考えても一日も経っているというのに。
もう我慢できない。
何だかんだで飲まず食わずで一睡もしていないから我慢の限界だ。
というか、コイツらもよく耐えられるよな。
とにかく、本人達に直接問いただそう。
「なあ、お前達。何故洗脳が解けないんだ。もうとっくに聖なる光の洗脳は解けているはずだろ?」
俺がそう言うとレティダやベスレ達は一様にきょとんとした顔をした。
「えっ、ライク様、まさか私が洗脳されているとお思いだったのですか?」
「……? ああ、そうだ。だから魔王の事を悪く言って俺の事を崇めていたんだろ?」
「あら。そういえば確かに言われてみれば態度が変わりすぎですし、そう思われても仕方ないですね」
ん?
何かいまいち状況が掴めないんだが。
「つまり。どういう事なんだ?」
「えっとですね。誠に言いにくいのですが、最初からライク様の洗脳魔法は私には効いていなかったのです。悪魔は洗脳に対する耐性に優れ、私はその中でも上位の力を持っているもので。まあ配下の者はほとんど洗脳されていましたが。さすがはライク様です!」
「えっ、ということは今は正気ということか?」
「もちろんです。元々あのクズな魔王に逆らう機会をずっと待ち望んでいました。そこでお優しくて強いライク様の登場。それはもう配下になる以外にないですよね?」
優しい……?
全然優しくした覚えなんてないんだが。
少なくとも丸一日飲まず食わずだしさ。
「そういえばお前達、丸一日飲み食いしていないが、大丈夫なのか?」
「ええ、もちろんです。魔王の配下にいた頃は三日間、いや、一週間飲まず食わずを強要されたことはザラにありましたから、こんな程度!」
一週間って……普通死ぬだろ!?
いや、悪魔だから人間とは違うのか?
いや、それにしてもなぁ……
「とにかく俺はもう我慢できないから食事にしようと思う。お前達も食うか?」
「えっ……!? まさか私達にお食事を恵んで下さるのですか!?」
「あ、ああ。人数が多すぎるからあまり物には期待しないで欲しいが」
「ああ、なんということでしょう! ライク様。やはりあなたこそが私が仕えるべき本当の主なのです!」
なんかすごいオーバーなリアクションしてるな、レティダの奴。
というか他の奴らも驚きの表情をしたり、涙を流している奴までいるぞ!?
一体どうなってやがるんだ。
というか、そこまで感激させられるような物を期待されても困っちまうんだが……




