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1.ことばの力に気付きました

「ハァ……何なんだよ、この状況?」



 俺は今自分が置かれている状況を考えて思わずため息をついた。


 今いるのは馬車の中。

 ガタゴト揺れてジメジメしたこの空間は正直気分が悪い。

 さらにここ数時間飲み食いしていないせいで腹は減るわ喉は渇くわで最悪だ。

 だがこの状況はまだマシなのである。

 だってつい先ほどまで一文無しで道端に放り出されていたのだから……



 やることのない俺はこれまでの事を思い出すことにした。



~~~~~~



 さかのぼること恐らく数時間。

 俺は城の中にいた。

 正直どうしていきなり城にいたのか俺自身もよく分かっていなかったが、どうやら俺は召喚されたらしい。

 王の命令によって魔王討伐を行う勇者を召喚する儀式が行われたようなのだ。


 召喚されたのは俺含めて三人。

 武術に長けた武闘家、魔術に長けた魔術師。

 そして俺というわけだ。


 二人とも勇者として呼ばれただけあって能力はとても高いようだった。

 二人にステータスを鑑定する石みたいなものを使われていたが、全ての能力が常人離れしているということ。

 さらに多彩なスキルまであるらしい。

 いわゆるチートというやつだろう。


 俺にもステータス鑑定石が使われる時がきた。

 俺だって召喚されたのだから、結構すごい能力があるのかと思ったのだが……



「鑑定結果ですが……全ての能力が並。スキルは人語理解、言語魔法lv1の二つのみです」



 はい、そんなことはなかったです。

 その結果が出た瞬間、俺には冷たい視線が注がれた。

 そして城から追い出せという王の命令で俺は城から追い出される事になった。

 一文無しの状態で。



 俺が召喚されたのは家で寝ている時だったようで、寝巻きの姿なんだよな、今。

 つまり、何の道具も持っていない状態だ。

 さらに召喚の影響か、元の世界で何やっていたかよく覚えてないんだよな。

 記憶喪失ってやつだろうか?

 一文無しの上に記憶喪失とか詰みすぎだろ、俺。

 これからどうなってしまうんだろう?



 だが良い話もあるってもんだ。

 俺が路頭に迷っていると、ある男が近くの町まで馬車で送って行ってくれるのだとか。

 その男の話によれば、王都ではもうまともな職がないので、働き口のある近くの町まで移動した方が良いとのこと。


 正直胡散臭い話だとは思っている。

 どうして何も持っていない俺なんかを助けてくれるのか不思議だしな。

 何かしら良くないことを男が企んでいるとも限らない。


 だがあの忌まわしい王やその配下の奴らがいる所から離れられるのだ。

 なら今の状況より悪くなる事はないだろうと思い、男の話にのることにしたのだ。



~~~~~~



 こうして今の現状がある。


 それにしても移動にすごい時間がかかるものなんだな。

 さすがに空腹に耐えられなくなってきたぞ。

 何か美味い食べ物がその辺から現れたりしないかな?

 例えばエクレアとかさ。


 甘くて美味いよな、エクレア。

 あーあ。

 その辺の物がエクレアになったりすればいいのに。

 例えば空気、エアに(くれ)という文字が付けば”エクレア”になるよな……



 そう俺が思っていると、空中から突然エクレアが現れた!?



 突然現れたエクレアを見て呆然とする俺。

 一体何が起きたんだ?

 というか、これ、本当にエクレアなのか?

 とりあえず食べてみよう。

 食べてみれば分かるだろ。


 ぱくっ。


 うん、美味い。

 このクセになる甘さは間違いなくエクレアだ。

 でも何で突然エクレアが現れたんだ?


 色々と考えてみたが、この不思議な現象の理由として、恐らく言語魔法というものが影響している可能性が高いだろう。

 俺にはスキルが二つしかないらしいからな。

 そのうち人語理解はこの世界の人の言葉が分かる能力だろうから関係なさそうだ。

 つまり考えられるのはもう一つの能力、言語魔法、ただ一つのみ。


 言語の魔法だから、言葉に関連して何かが起こる魔法なんだろうな、きっと。

 エクレアがエアから生まれたことから考えると、何か文字を足せばいいんだろうか?


 それを試すためにも、まず水を出してみよう。

 エクレア食べて余計に喉が渇いちまったしな。


 みずを出したいのだから……何かの実を想像して、実+(ず)で、”みず”!


 すると近くから水がドバッと降ってきて、俺はびしょ濡れになった。



 ……うん、俺が悪かった。

 入れ物がなければ水も飲めないものな。


 では、まず入れ物から。

 糸+(すう)で、”すいとう”!

 そして実+(ず)で、”みず”!


 するとステンレス製の水筒が俺の目の前に現れたが、何故か水は現れなかった。

 魔法に失敗したんだろうか?


 その後何回やっても水は現れなかったので、試しに他の飲み物、サイ+(だー)で”サイダー”を出そうとしたら、サイダーは出現した。

 なので出現したサイダーを今度は逃さずに水筒につめ、それを無事に飲むことができた。


 水は出現しなかったが、サイダーは出現した?

 さっぱり原理が分からないな。

 こりゃ説明書が欲しい所だわ。


 あれ?

 そういえば食べ物や飲み物が出せるなら、説明書も出せるんじゃね?

 やってみる価値はありそうだな。


 ではえっと……名所+(せつ)で、”せつめいしょ”!


 すると俺の目の前にヒラッと一枚の紙切れが突然現れて落ちてきた。

 その紙のタイトルらしき所に目を通すと……



 "言語魔法lv1説明書"



 きたな、ビンゴ!

 これを読めば言語魔法の事を理解出来そうだ。

 早速読んでみよう。



 ―――ふむふむ。

 つまり、まとめると言語魔法は次の特徴があるらしい。



======


 言語魔法lv1とは

・既存の言葉に文字を足す事で別の物を生み出すことができるライク固有スキル

・生み出される物は魔法使用者の想像を基とする

・足すために使った文字は一度使うと再使用までに一時間かかる

・魔力は消費しない

・既存の言葉は想像をするか、変化させる対象の物を意識する必要がある

・実在する特定の人や動物自体を変換することはできない

・ただし自分自身は例外とする


======



 ふーん、俺固有のスキルってことは、俺しか使えない魔法なのか。

 あっ、ちなみにライクというのは俺の名前のことね。

 漢字で”来駆”と書きます。

 名前だけは覚えているようで良かった良かった。


 足すために使った文字は再使用までに一時間か。

 それが水を出せなかった理由だな。 


 それにしてもあの王達、俺に固有のスキルがあるにも関わらず、全くその価値には気付いていなかったようだな。

 まあ他二人の能力やスキルの数々と比べたら見劣りするのも無理ないけどさ。

 一文無しで路上に放置とかいう酷い目にあわされた訳だが、魔王討伐とかいう厄介事をしなくても良い自由の身になったから、その点だけは感謝かもな。


 この魔法を使えばもしかしたら物に不自由しなくなるかもしれないよな。

 同じ言葉は一時間は使えないから使い過ぎ注意とはいえどもさ。

 なんか希望が見えてきたわ。



 キキィ!!!



 おおっと、何かすごい勢いで急停車したな。

 何があったんだ?


 俺は馬車の荷車からこっそり顔をのぞかせる。

 すると俺達の進行方向には他の馬車が立ち往生しており、進めなくなっているようだった。

 そして乗っている馬車の周囲には盗賊。

 どうやら盗賊に囲まれてしまったらしい。

 馬車の主人には刃物がつきつけられていた。


 これは―――言葉魔法の力の見せ所だな。

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