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ある王からの相談

アルカト帝国十四代目国王ハセーティブ、御年53歳。20年前、隣国の姫に一目ぼれをし、であったその日のうちに交際を申し込む、最初は断った姫も彼の熱烈なアタックと彼の温厚な人柄に心揺れるものがあったのかそれを了承。一年間の交際を経てゴールイン。

 翌年、第一子であるトル―ト殿下が生まれる。


 彼は長い帝国の歴史を顧みても類を見ないほどの晩婚であり、結婚に年齢での制限はなく、15歳で成人として認められ、帝国の多くの者は20歳を超える前に結婚し、25歳までには子を作る帝国という国の風習からしてみてもそれが伺える。


―――—そう私の目の前にあるパソコンに書かれているハセーティブ殿下、その人が私の前に立っていた。


 


 時間は今から二時間前まで遡る。


 私が毎日やっている日課の一つに朝ごはんを食べるという物がある。朝ごはんと一口に言ってもその組み合わせには色々とある。白米、焼き魚、味噌汁でもあればそれだけでご機嫌な朝食となるのだが、異世界であるここでそれは望むべくもない。

 まあ最低でもパンとコーヒーでもあれば良しということにしている。

 

 今日もいつものように朝ごはんを食べに寝室がある二階から一階に降りると、同居人である半バンパイアのミュウリンガーが朝ごはんを作っていた。

 15歳ほどに見える彼女だが、長命種であるバンパイアの血が流れる彼女は優に私の歳を超えている。日本ではそのような見た目は少女! 年齢はババア!見たいな者のことをロリババアというのだと伝えると頬を二度もぶたれた、親父にもぶたれたことないのに。

 


 「ミュウ、おはよう」

 「あらダーリン、おはよう」

 「ダーリンはよせ、結婚している訳でもないのに」

 「あら、私はいつでもジュ・ン・ビ、出来ているわよ?」

 彼女はあまり豊かとは言えない胸をよせ、蠱惑的な笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 まったく、彼女は事あるごとに私のことを誘ってくるから困ったものである。


 朝は家庭菜園の水まきの時、夜は突然私の寝室に入ってきて、果てには戦闘中にまで。文字道理ことあるごとに、である。

 流石に戦闘中に迫られた時には肝を冷やしたモノだった。そんな場合ではないのもあるが何よりも、戦闘中の告白は死亡フラグと言って不吉なのだと伝えると、真顔で

 「ダーリンと死ねるなら私は本望だわ」と言われた。いつか無理心中を図ってきそうで今度はこちらに肝を冷やしたものである。


 

 今日の朝ごはんはと見ると、スクランブルエッグ、パン、たんぽぽコーヒーといった洋食でまとめられたおいしそうな食事がテーブルの上に並んでいた。


 ちなみにたんぽぽコーヒーとはたんぽぽの根を使って作られるコーヒーの事で、ノンカフェインであるので妊婦などのカフェインを摂らないほうがいいといわれている人でも飲むことが出来、さらには母乳の出を良くし乳質の改善効果もあるといわれている。


 まあ私が飲んでいるのはカフェインを摂ってはいけないからでも、ましては母乳の出をよくしたいからでもなく、単にコーヒー豆がこの世界ではまだ見つけられていないからであるが。



「あなた、朝ごはんにしましょう」

「あなたもギリギリアウトだ」

 そう言いながら私はテーブルに着く。

「うふふ。それじゃあ召し上がれ」「いただきます」


 一緒に暮らし始めて毎朝のように目が覚めると先に起きて朝ごはんを作ってくれている彼女には頭が上がらない。正直な話すでに完全に胃袋は掴まれている。

彼女と一緒に食事をとるようになってからしばらくたつが、日本でひとり寂しく食事していた時には感じることが出来なかった、親しい間柄の人物とする食事の喜びという物が未だに私の心の中であふれ出てきそうになる。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

 私たちは食事を終えると、私は自分の食器と彼女の食器をシンクで洗う。

 最初は私がやるからとミュウには遠慮されてしまったのだが、流石にこれぐらいはさせてくれと頼みこんだ。それから皿洗いは私の仕事である。



 ちりんちりん。


 皿洗いを終え、さあこれから仕事をするぞと白衣に手をかけると、玄関から玄関ベルの音がなり、私たちに来客を告げる。

「営業時間前に誰かしら?」

ミュウはいつもより早い来客の知らせに首を傾げる。

「首爺じゃないか? あの爺さんはいつも早い時間にくるからな」


 首爺とは私の家に成仏するために通院している頭のみのゴーストの事である。

 まさに好々爺といった風な老人のゴーストで、頭だけの姿であっても近所の子どもたちから好かれ、一緒に遊んでいる様子は私が老人になった時にあんな風になれるかと考えさせるものであった。



「でも可笑しいわ、首爺はゴースト仲間と南国の国にバカンスに行っているはずよ?」

「あの爺さん成仏する気あるのか?」


 やれやれと思いながらも、いつまでも来客を待たしている訳にもいかないので急いで寝間着を脱いで、日本人の戦闘服のスーツに着替え玄関に向かう。


「どちら様でしょうか?」

 私がドアを開け、尋ねると帝国正規軍の鎧をまとった男が私の服をじろじろと見てきた。その後ろには他に数人の騎士風の男とフードを目深く被った大男が立っていた。

 

「あの「その奇怪な衣服、お前が一二三 太郎で間違えないな?」」

「……そうでございますが? 帝国正規軍の騎士様がこのような辺鄙なところまでなんのようで?」 


 私の言葉を遮って来た男に私は答える。言葉を遮って来た不快な男であっても私を訪ねてきたということは客であろうからわざと大袈裟に返事をする。


「こちらのお方が光栄にも暇な貴様に仕事を持って来てくださった」

 日本のコンビニに時々いる頭が沸いているんじゃないかというほどに態度が悪いお客ほどにはこのお客も態度が悪いようだった。 


「仕事の話なら後一時間ほどお待ちいただけますか?」

「ならん。即刻貴様の診療所とやらで話をきいてもらおう」

 ……本当に不快だ、不快すぎて頭が痛くなってくるまである。



 しかし、無礼者でも客は客。悲しいかなお客様は神様というのが日本での古き悪しき考えられ方である。異世界くんだりまで来て未だに日本の考え方が捨てられないというのは我ながら阿呆のような話であるが。


 仕方なくもう一度説明しようとすると後ろからミュウが出てくる。

「待てといったら待つのが賢い犬よ、帝国のワンちゃん?」

「貴様今なんと?」

 ああなんてことだ、私の我慢の限界よりも先にミュウの限界が来てしまったか。


 帝国正規軍のものに対し犬というのは帝国に属するものが使う有名な罵倒である。これは上の者に対して誰彼構わずしっぽを振ることから来た仇名である。


「ダーリンとの甘い時間を邪魔した罪は万死に値するわよ? 帝国のワンちゃん?」

 挑発するかのように笑みを浮かべながら罵倒する。


「貴様ァ二度も! 二度も言ったな! 帝国騎士を愚弄するかぁ!」

 そう男は叫ぶと剣を構える、それに倣うように後ろに控えていた騎士たちも剣に手を伸ばす。あわや戦闘かと思い、一応私も下駄箱においてある自分の獲物に手を伸ばす。


「やめんか、子ども相手に大の大人がみっともない」

 大きな声で怒鳴るのではなく、それこそ子どもを諭すような声で目深くフードを被っていた大男が話す。騎士達はしぶしぶと剣の柄から手を放す。

「まったく。一二三殿、配下の者が失礼をした。しかし、お嬢さんも犬、と言うのはやめてくれないかな、彼らの誇りに傷がつく」

「お嬢さんだなんて失礼しちゃうわ」

「彼女は半バンパイアなのでお嬢さんなんて言われる年はとうの昔に過ぎております。おそらくあなたより年上かと」


 そう言い終わると私は膨れ面をしたミュウにチョップされる。半分とはいえバンパイアの血が流れている彼女のチョップはその華奢な体から想像できないほどに重く痛い。

 お嬢さんと言われ怒ったりお嬢さんではないと言われ怒ったりと、まったくもってして女心は男には摩訶不思議なものである。


「不思議そうな顔をしないで頂戴、女性の年齢については全世界共通で禁句よ」

 ……摩訶不思議である。


 さて、なぜ私が男にミュウが半バンパイアであることを教えたかというと、この男が先ほどミュウに対して注意したときにちらりと見えた口元が、いたずらっ子のような笑みを浮かべていたからである。自分の配下を馬鹿にしたようなその笑みが私は気に入ったのであった。



 ちなみにミュウは自分が半バンパイアであることを全く隠そうとしないので、ご近所さんにはとうの昔にばれている。彼女は自分の出生に対して誇りを持っているから隠そうと思ったことは一度もないとのことであった。


「これは失礼した、一時間ほどここで待てばよろしいか?」

「いえ、気が変わりましたすぐに話を聞きましょう。さあ、こちらへ」

「それは助かる。貴様らはここで待っておれ」

 男が厳しい口調で命令すると見ていて面白いほどに騎士は狼狽していた。


「待ってください! その男が何かしないとは限りませんので護衛を付けてくだ「一二三殿はDの称号を持つ者、何かしようと思ったところで貴様は止められるのか? それにそういうことは私より強くなってから言いなさい」


 男の辛辣な一言にぐうの音も出ないのか、騎士は悔しそうな顔をして黙りこくってしまった。その様を見て幾分か気持ちが晴れたのか、ミュウは先ほどよりも少しだけ機嫌がよくなったように見える。


 「さあ一二三殿、行きましょう」

 悔しそうにしている騎士に目もくれないとは。この男、中々いい趣味をしている。



 私たちは王を引き連れて仕事場に着いた。家から徒歩一分という日本で働いている時に通勤に一時間電車に揺られなければいけなった頃からすると考えられないような近さの職場である。


 一二三 相談センター


 十畳ほどのさほど大きくはない部屋の中に机といす、他には最低限の装飾がなされているだけの小さな仕事場ではあるが、ミュウと共に我が身を粉にして冒険者として働いたお金で建てた自慢の仕事場であった。

 私は男に手で席を進める。日頃は木の椅子など使わないのだろうか、男は何処か不安そうな顔をしながらおずおずと座った。

「さあ、それで話というのは何でしょうか?」




 私、一二三 太朗には世の中で仕事をする上での顔として二つの顔を持っている。

 一つは冒険者として魔物の討伐を請け負う者としての顔。

 もう一つは大学で学んだ心理学の知識を生かしての依頼を聞く『異界の賢者』としての顔。

 この男はどちらの顔に会いに来たのだろうか。




「先にフードを外してもいいだろうか?」

「もし何か事情があるのでしたら無理に外さなくてもいいですよ?」

 実際によく来る客の中にも決して顔をさらさない人もいる。まあそのお客は最初は真面目な相談もして来たりしていたのだが、最近では用もないのに遊びに来る只の友人みたいな関係になってきてはいるが。

 

「いや、それは流石に失礼であるし、相談する内容が内容だけに顔を見せないわけにはいかないだろう。しかし、このことは他言無用で頼むぞ」

 

 そういうと男はかぶっていたフードを外す。

 オールバックの金髪、空の青さのような碧眼。国を背負って立つ者の堂々とした顔と体躯。

 

 

 アルカト帝国十四代目国王ハセーティブの顔がそこにはあった。

 

「『異界の賢者』一二三よ、そなたに我が息子の引きこもりを何とかして欲しい」

 そう我が国の王ははっきりと言った。







 五話ほどの短い小説となります。

 書き貯めた物がなくなるまでは毎日更新します。

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