そんなに甘くはない世の中
何か書けたので。誤字脱字注意!!
勢い込んで父上の執務室の扉を開けると、驚いた顔をした父上と、二人の兄上達がそろってイトリィーリャの方を振り向いた。
「おお、早いな?先程ザザに呼びに行かせたばかりぞ?たが、イーリャよ……扉を開ける前にノック位したらどうかね?」
イーリャとは、イトリィーリャの愛称であって、呼ぶのは家族や仲の良い友人位である。そして、ザザとは先程の老齢なメイドの名である。
「もっ申し訳御座いませんでした。とても楽しみであったものですから……」
「ほう…。楽しみ…と?本当か?」
父上の瞳が妖しく細目られた。何故だか少し嫌な予感がしたイーリャであったが、近衛隊への入隊の件であろうと、考えて居た為にその嫌な予感を無理矢理押さえ付けると、笑顔を浮かべながら父上の問いに嬉々として答えた。
「勿論で御座いますっ!我はその為に日夜研鑽を積んできたのであります!」
「そうであったか?その様な振舞い…見たことは無かったと記憶しておるが……?ははあ…お主も自分の行く末だ秘密利に努力して居ったのだな?」
「はい、流石父上っ!我の事は分かっておいでですなっ!」
イーリャと公爵はニコニコ笑いながら話合って居たのであったが、実はその場に居たイーリャの二人の兄達は、何やら父上と末の妹の話が不自然で、噛み合っていないことに、気付いては居た。ただし、指摘はしなかったのである。別々の理由によって。
イーリャが最初に感じた嫌な予感が、当たって仕舞った事が分かるのはもうすぐである。
「ハッハッハッ!では、私はこの件を先方に了承したと伝えて参るからな。まだ十五の娘が、邸から居なくなるのは辛いが、お主の幸せのためを思った決断であったのだぞ?では、行って参るぞ?」
「はい、父上!先方にも宜しくお願いする…とお伝え頂きたいっ!!」
上機嫌に少しの寂しさをない交ぜにした父上の顔が、扉の奥に消えたのを確認した後で、イーリャは小さくガッツポーズをすると、ずっと黙ったままだった二人の兄達に、喜びの報告すべく振り返ったのたが、二人の兄達はお互い別々の表情をしていたのである。
嫡男であり、長兄のセルジュは既に小さい声で「反対反対反対反対……」と、呟きながら目に涙まで溜めているし、次兄のゴーシェはずっと笑いを噛み殺したような歪んだ笑い顔で、「ぷぷっ…面白くなって来やがった……」などと言いながら、目に涙を溜めている。
両者が同じなのは、全く別の感情でだが、涙を溜めているという状態のみであった。
「お二人共…いかがなされた?悪い病気にでも、かかったのであろうか?直ぐに医師を………」
本気で心配するイーリャを、セルジュは優しく抱き締めると、本気で泣き出した。
「うううっ……すまない…すまないイーリャ……うっうっ……」
号泣するセルジュを見て、ゴーシェの方も笑いが止まらないらしく、笑いすぎで泣き出した。
「あっははははは~!!ウケルッ!死ぬっ!!苦しいっ!!!ひゃははははははは~」
「一体お二人共いかがなされた?正気に戻ってはくれまいか?」
心底困り果てたイーリャは、セルジュに抱き締められたまま、途方に暮れたのであった。