死にたがり王子と悪役令嬢という組み合わせはどう考えても相性が悪すぎる!【5】
「アーネスト皇子はわたしのためにエレノア姫と結婚しようとしています。兄さまとエレノア姫がくっついてしまえばわたしが不幸になるから。でも、これでは不幸になるのはアーネスト……あなたなのに……」
わたしのために婚姻するなんてそんなの少しの幸せも生まれない。
わたしは兄様にお伝えした。関係ない話かもしれないけど兄様にお伝えする必要があるから。
「わたしは、兄さまーーあなたのことが好きでした」
幼い頃から好きだった。
歳が二桁になって、転生したことを思い出して、兄さまのことを兄とは見ていなかった。
見上げる兄さまの顔はまるで知っていると言いたげだ。
「でももう大丈夫です。わたしは兄さまなしでもやっていこうと思います。今までありがとうございました」
深くお辞儀をした。その頭に兄さまの手が置かれる。顔を上げてくれということなので言う通りにした。
「ラエル。私が君を妹として迎え入れたいと父上に頼みこういう形となった」
「はい。感謝しています」
そうでなければこんな幸せな日々は送れやしなかった。いろいろと悩んできたりはしたけれど、ゲームの筋書き通りだったとしても。わたしはこうしてここへ来れて幸せだった。
「私もラエルがうまれてきてくれたことに感謝している。よく私の言うことを素直に聞いてくれていたな。弟の面倒も言わずとも見てくれていた」
「妹として姉として当然のことです」
別れなんてしたくない。
止めてくれないのは兄さまの優しさ。
そうだとわかってる。
「わたしは兄さまの幸せを願っています。弟の幸せもついでにですがちゃんと。だからーー」
「ああ。お別れをしよう」
その言葉にやっぱり涙が溢れた。兄さまの声がどうしようもなく暖かく優しかったから。緊張がほぐれて緩んでしまった。
好きな人のそばに身内としているのは辛いから、身内としていたくないから、そんな思いをきっと兄さまは汲み取ってくれた。
「アーネスト、エレノアとのご結婚はおやめください」
「どうして」
今日は初めてアーネストの王宮へと来た。アーネストはとびきり瞳を開けて驚いていた。わたしの発言に心なしか息遣いが静かになる。
「それは私が幸せになれる道ではないと知ったから。私は一人でひっそり暮らそうと思います。あなたを利用しようとした落とし前です」
「そんなことしなくても」
「いいえ、しなくては私の気も晴れません」
アーネストは二度目の自殺をしようとした。一度目は愛犬を亡くして、二度目はわたしの身勝手な思いで傷つけてしまったから。
一度目ならまだわかる。二度目であればなんて弱い男なのだろうと笑い話にすらなってしまう。そんな酷いことをわたしはしてしまった。
止めることはできたけど。こんなわたしが彼らの前にいていいわけがない。
側にいて傷ついて、傷つけてしまうのならいっそ目のつかないところへ行ってしまったほうがいい。
「ラエル、君は馬鹿かっ!? 今の環境を守りたくていろいろ考えてきたんだろう? それなのに今更そんな……」
わたしの幸せなんてもう考えなくていい。
「僕と一緒になるというのはどうだい?」
「……いいえ、なれません」
もう充分考えすぎた。
「私は全部捨てることにしたの」
「そんなことさせるもんか」
この場を去ろうとしていたわたしをアーネストは後ろから抱きしめる。なんて馬鹿な男。本当に滑稽で笑えてしまう。
「僕のことも捨てるというのか?」
「……」
「僕が死ぬと言っても?」
「……本当にしそうでこわいわ」
「本当にするさ、君がいなくなったら」
「あなたは本当に純粋で馬鹿ね」
こんなわたしを好きでいてくれているなんて笑えてしまう。
「どうしてこんな突飛な行動にでたのか、聞いてもいい?」
王宮の庭園でアーネストに手を引かれながら応える。
「別にいいわよ。もう疲れたの。必死に、今を変わらないものであるために小細工ばっかりして。そんな自分にもう呆れてきたの」
兄さまと離れたくない、弟であるクオンも大事だ。同じ一家でありたい。好きという思いを伝えてしまうと身内ではいられない。だからそのまま側にいられるだけで充分だった。
だからエレノアとクオンその他の人たちをどう扱えばゲームシナリオ通りにいかずにいられるか。わたしにとって平和な世界を築けるか。不安で不安で仕方ない日々はわたしには重荷で、わたしの感情を歪ませる原因となっていた。
本当に悪役になるとこだったかもしれない。裏キャラのアーネストを手玉に取り殺してしまうなんて。
ゲームプレイヤーに対しての悪役なんて最悪に恨まれる。
「この関係は最悪だと思ってたわ」
死にたがりと悪役令嬢なんて、一歩間違えれば罵倒だけで殺せてしまう組み合わせだと思った。
それに思い出したんだ。アーネストは、全キャラ攻略してから攻略できるキャラで、愛犬を亡くして病んでしまっていてヒロインに慰められる。
実際、あのときわたしが止めなければ飛び降りたのだけど、怪我や打撲をする程度で命に別状はない。
まあ良かったと思う。