死にたがり王子と悪役令嬢という組み合わせはどう考えても相性が悪すぎる!【2】
わたしには兄と弟がいる。
わたしは兄を溺愛している。というのも、二次元の中の存在だった彼が一番推しだったのだ。
つまりはわたしはトリップなのか、前世の記憶なのかなんなのかはやりの言葉でいうと転生してしまったかもしれないらしい。
なんたって物語(攻略している部分)だけ頭を駆け巡る。
わたしの兄が婚約者と結ばれてしまうとわたしが没落する。経緯は、ヒロインがわたしと兄の関係を気にしていてそれを知った兄はわたしを違う王宮へ行かせるという話。
実の兄弟であればさすがにヒロインは心配にならないだろう。わたしが兄と弟と血が繋がっていないから不安になる。
〝違う王宮〟の話だが、そこにいる皇子は病んでいるらしい。その皇子の攻略は他キャラを全攻略してから攻略できるようになるので、一番に攻略した兄ーーファルネウスのルートしか鮮明に思い出せないわたしはそこから先は初プレイヤーだ。
確か……病んでる皇子を構成してもヒロインと結ばれるような気が……。
記憶に靄がかかっているようで見えない。
とにかくそれ(ゲーム上で、わたしは兄が大好きで婚約者のヒロインを蹴落そうとし、それが弟にばれて兄に伝えられ本当の妹ではないわたしが追放されるルート) を阻止するためにも、奮闘している。
ゲーム上でも現実でもわたしは弟には嫌われていた。いわゆるツンの度合いが高いキャラ。
ヒロインにわたしと兄たちが血筋が繋がっていないことがばれて、それが広まり家にいれなくなるルートもあるが。
とにかく弟に好かれるのが没落ルート阻止の道っぽい。
たぶんきっと九十パーセントの確率で弟が漏洩しているから。
わたしのことが嫌いな弟はどんなことをしてでもわたしと離れたい、蹴落としたいのだろう。
……つらい。
「ラエル、なにしてる」
「なにって、おやつタイムの準備よ」
「侍女にやらせればいいだろ」
ティーポットにお湯を入れたままぼーっとしていたら今頭を悩ませていた弟のクオンが現れた。紅茶葉の良い香りがする。いけない蓋をしなくては。
「これくらい自分でやりたくなるときもあるの。それにクオン、いつも姉さんと呼んでと言っているでしょ」
ふんとつっぱる。
弟からの嫌われ者のわたしがふてくされたところで弟は無反応かしけた面をするに違いない。
〝姉さん〟と呼ばれるようになればなんとか、没落ルートへの道が少しでも変わらないだろうかなんて思っているが、弟の機嫌を損ねてはそんなのは関係なしだ。
笑顔をつくる。偽物の。そんなふうに匂わせないために全開に笑う。
「なーんてね、クオンのためにクッキーを焼いたの。好きでしょ? 私の作ったクッキー」
なんて口説い姉の言葉でしょうか。
席に座ると大人しくクオンはクッキーに手をつけた。
小さい頃からつくってあげているクッキーは弟の胃袋を掴むためのものだ。
「兄さまの婚約、クオンはどう思う?」
「どうって……俺はどうも思わない」
「私は反対なの」
「なんで?」
「兄さまは21で大人、だけど、クオンあなたは16でまだ子供。兄さまが結婚すればあなたと接触する機会が減ると思うの。クオンが子供のときくらい兄と存分に遊ばせてあげたいなって」
「俺は子供じゃない。それに今でさえ兄さんと遊んでないだろ」
「そうだけど」
クオンは兄に溺愛している。そういう認識をわたしはしている。けれど素直じゃないクオンは突っぱねているのか、それとも本当にさほど興味がないのか。
いやそんなことはないはずなのだ。
兄を溺愛している弟だから、同じような妹という存在のくせそれ以上となりそうなわたしが憎くて蹴落とす。
そういう原理だとわたしは思っている。
だったらヒロインにもそうしてくれって話だけど、それをしたらもう乙女ゲームではなくなるな。