死にたがり王子と悪役令嬢という組み合わせはどう考えても相性が悪すぎる【1】
「そこから飛び降りて無様な死に様を多くの方に見せつけたいの?」
「僕はもう生きている意味がないんだ」
とあるパーティー会場でとある男が命を投げ出そうとしていた。
見なかったことにしようとしたラエルだが、彼の側近の執事である高齢の方に留められ止めるよう頼まれたので仕方なく、哀れな行為をやめさせようと試みようとしている。
そのためまず相手の反応などの観察が必要。
「ペットが亡くなったくらいでそんな病む必要ないんじゃないかしら」
そう、彼は愛犬が亡くなったことがきっかけで命を投げ捨てようとしているのだ。
高齢の執事に教えられたときはとんだびっくりしたことか。
「アルクスは僕の全てだった。君に何がわかる」
「何もわからないわ。ただ一つわかるとすれば貴方が馬鹿だってことね」
「どのへんが馬鹿だというんだ?」
「愛犬が死んだくらいで自らも命を落とそうとしているところ。″僕の全てだった″って言うほど大事な存在だったということはなんとなくわかるわ。けれどそれが無くなったからって死を選ぶのは間違っている。その愛犬は貴方のように死を選んで亡くなったの?」
「……違う。アルクスは生きようとしてた、必死に。だけど寿命で……」
「だったら貴方も同じように生きなさい。寿命が尽きるまで、アルクスのように必死にね」
何に感動したのか男が目を見開く。
瑠璃色の瞳が綺麗なんて微塵も思わない。
嫌な気を感じてさっさとその場から去るラエル。
自身も注目の的となっていたため早く人混みにとけ込みたかった。
面倒なことにならなくて良かったと安心するのはまだ早い。
焦ったような足音が近づいてくる。
追ってきた男はついに声を上げた。
「僕の名前はアーネスト。君は」
「教える必要はない」
「教えてほしいんだ」
「根本的に教える気がないわ」
やっかいなのがついてきた、とラエルは内心疎ましがる。
歩く速度を上げても差がつく気配がない。
歩幅が大きく足が速いせいか振り払うどころか男が目の前に立つのを許してしまった。
ああ、面倒くさい。
「君の名を聞かせてくれ」
「そこをどいてくれたら考えても」
素直に退く男の横を過ぎる。
すかさず男が突っ込む。
「君は嘘つきかっ」
「考えるって言っただけよ」
「そんな酷いことするならーー……死ぬぞ」
今はこんなにも冷たい対応だけどさっき止めてくれた。そんな期待を胸に男は発するが。
振り向いた彼女はとてつもなく冷たい顔をしていた。
「勝手に死ねば」
あまりにも冷酷な目に、言葉に、ショックで本当に死にそうだと男は思った。
(こんな死にたがり王子になんか構っていられない)
ラエルはラエルで、面倒事に関わっていらないという意思がある。