「愛=おしゃれ」論
「面白いテレビある?」
彼女は冷蔵庫の前で、テレビ画面に映る番組表を眺めていた俺に問いかけた。
「そうだな……」
適当に画面をスクロールする。
「これなんかいいんじゃないか?」
アイスを取って戻ってきた彼女がその番組の内容を読んだ。
「何これ?」
「今流行りの、男女共同生活のドキュメント番組だよ」
「へぇ~」
「リアリティのある恋が見所らしい」
「それ、自分の感想」
「いや、巷の感想」
「そう、それなら良かった」
彼女はアイスを一口食べた後、
「こういうもので恋とか語る奴ってさ、愛をおしゃれとしか考えていないような、頭の中お花畑ちゃんだよね」
真顔で彼女は言った。
「いつもより毒が強いな。何かあったのか?」
「そう? きっとこのアイスが甘すぎるからよ」
「八つ当たりかよ」
背中が今、冷たい目線で刺されているのが見なくても分かる。
「リアリティのある恋とかさ、恋の行方とかさ、そんなの見たって無意味に決まってるじゃん」
「どうしてさ?」
「恋っていうのは、『したごころ』があるからよ」
確かに、頭の中で漢字を思い浮かべてみると、『恋』はしたに『心』という漢字がついている。
「じゃあ、『愛』ならいいのか?」
「それもだめね」
「なぜだ?」
「それを動詞のように使う人がいるからよ」
「動詞?」
「そう。『愛してる』ってよく言うじゃん。『愛』を『してる』ってどういうことよ?」
そう言われてみるとそうかもしれない。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「そうね……」
アイスを一口頬張ってから、彼女は言った。
「言葉ではなく態度で示せばいいのよ」
そりゃまた難しいことですな。
そう心の中で呟いて、僕はテレビの電源を消した。
読んでいただき、ありがとうございました。