戦いの後始末
まだ朝日が薄く差すだけの明朝、守谷高校の二年生たちが野外学習の時と同じように下駄箱前のスペースに整列していた。体育すわりで男性教師の説明を聞きながら、浪は隣の女子列の後ろのほうでゆらゆらと若干ふらついてボーっとしている雪菜を心配そうに、少しあきれながら見ていた。
時は少しさかのぼり、前日夕方SEMM医療室にて……
「やだー!! 行くったら行く!!」
「アホか!! どんだけの大怪我だったと思ってんだい!!」
ベッドで仮眠をとっていた凛が騒ぎに気付いてカーテンをめくると、氷室姉妹が言い争いをしている様子だ。あまり深刻な内容ではなさそうだが。
緋砂の隣には浪の姿も見えるが、困ったような表情で口を閉ざしたままだ。
「だって学校で旅行行くなんてこれで最後なんだよ!?」
「大学でもまだ機会はあるだろう」
「行けるわけないよ!!」
「あたしも大学の時修学旅行でハワイ行ったぞ?」
「大学に受かるわけがないって話だよ」
「……」
雪菜の自虐交じりの反論に緋砂が返せなかったのは呆れか哀れみか。そこで、緋砂は凛が起きてきていたことに気が付いた。
「ああ、悪いね凛。 こいつあんだけの怪我だったくせに明日からの修学旅行に行くっていってきかないんだよ」
「まああたしも軽いけがじゃなかったから今日はこうして休んでるわけですけど。 雪菜、独りで置いていかれるのが嫌ならあたしも残ってやろうか?」
凛の気遣いにも雪菜は納得しない。
「そういう問題じゃないの!! 東京なんて試験でしか行ったことないからずっと楽しみにしてたんだよ……」
「つってもなあ……。 お前の場合怪我より貧血のほうが問題だから治癒魔術かけてもらったから大丈夫ってわけでもねえし」
「凛ちゃんだって大概じゃん」
「あたしは比較的すぐ御剣にみてもらったからな」
頭を掻きながら凛は困ったように目をそらした。
そこで、医務室のドアが静かな音を立てながらスーッと開く。全員が視線を向けると、白衣を着てかなりぼさぼさの髪のままの乙部が現れた。眼鏡で分かりにくいが、かなり疲れがたまっている様子だ。
「師匠、どうしたんすか? 頭すごいことなってますけど……」
「橘の件の後処理が大変でシャワーだけ浴びて髪乾かさなかったらこうなってしまいました、ははは。 さすがに少し休ませてもらおうと思ってきたのですが……」
そこまで言って、雪菜のほうに目をやる。
「なんとなく聞こえていましたが……、行かせてあげてもいいと思いますよ」
「支部長までそんなことを……。 何があるかわからないだろう?」
困ったような緋砂の言葉に、乙部が答える。
「実は去年凰児くんが支部唯一のSランクだったため行けなかったんですよ。それで今年一緒に行けるよう学校のほうにお願いしてあるのと、加えてシロちゃんの護衛で翔馬君を引率者に同行させてもらうことになっているのでついていった方が安全なんですよねえ」
「逆にこっちの防衛は大丈夫なのかい、それ?」
「もちろんそこは考えて梨華さんに期間中こちらにいていただくことになっています。 空良さんと御剣さんもいるのでまあ問題ないでしょう」
ぐぬぬ、と煮え切らない表情の緋砂がため息をついた瞬間、仕方ないなと声に出すより前に雪菜は立ち上がってはしゃぎ始めた。
「やったー!! さすが支部長おっとこまえ!! ……、おっとと」
「ふらついてんじゃないかい!! ……、ったく、もし向こうで戦闘になったりしても絶対あんたは参加しないこと!! それだけは約束しなよ」
「分かってるって、お姉ちゃんは心配性だなー。 さーて急いで準備しないと」
終始テンション高いままの雪菜の姿に、一同呆れたように微笑んだ。
時は戻り校舎前にて。男性教諭に代わって、浪達のクラス担任である薫が前に立った。その横には凰児の姿。すごく居心地が悪そうにソワソワしているのが浪達にはまるわかりだが、ほかのクラスメイトには違って見えているようすだった。
「あー、今回はSEMMの任務で去年参加できなかった三年の龍崎君が新堂達の班に同行することになったー。 まあ先輩ではあるがあまり距離を置きすぎることのない様にしてやってくれ。 そうじゃあ龍崎君、とりあえず新堂の後ろについてもらっていいか」
凰児は小さく頷くと浪の列へと近づいていくが、隣同士四十センチほどの間隔で並んでいた列に、まるで神話の海が割れるシーンのように道ができた。
列先頭のほうの男子が、龍崎が離れたころにひそひそと話す。
「ザキ先輩マジ怖えんだけどやべえって……、なんか超イラついてない?」
「ホルダーになる前に隣の中学の奴ら十人くらい一人でボコしたことあるって噂マジなん?」
「俺はピンクい髪のヤベー連れと二人で族つぶしたって聞いたことあるぞ」
凰児には会話の内容は聞こえていないが、何をうわさされているかを大体想像して疲れたように息を吐きながら、無駄にスペースが開いた浪の後ろについた。
「大変っすね先輩も……」
「マジで俺はいいからって言ったんだけど、案の定シロちゃんの護衛の関係で強制だってさ……。 まあ自分のクラスにも仲いいやついないけどね」
尾ひれがついた伝説の数々については浪もよく知っているが、見た目や服装からしてそういう風にしか見えないので仕方ない所もある。
その後加えて薫が旅行会社の関係者という名目で翔馬を紹介したときに少しざわつきが起きたくらいで、出発前準備は順調に進んでいった。薫が『服部さん』としか言わなかったためほぼすべての生徒は彼の性別について誤解したままだっただろう。
そのままバスで駅まで向かうと、新幹線に乗るころにはすっかり日も昇っていた。全員に簡単な朝食が配られ、雑談するのもそこそこに二時間もせず目的地の東京駅へと到着した。そのまま駅から出て、時間は午前十一時ほど。一行はしばらく歩いて広いスペースまで移動すると、できるだけ場所を取らないよう幅を小さくして整列した。
一日目は東京を班ごとに散策し、後日見学した施設についてレポートを作成し提出する予定となっている。五時に東京駅前に再度集合し、宿泊施設へと向かうのだ。必要なものだけ分けて、大きな荷物は先にバスに預け宿泊施設へ運ばれていった。
浪の班はC班。浪が班長で雪菜、シロ、礼央、凛、凰児、あとは翔馬も同行している。いつものメンツだ。
軽く日程の再確認をした後解散し、浪達の班はどこに行くか相談している。
「ここんとこ忙しくて事前に決めとくこともできなかったからなあ。 どうしよっか浪」
「なんで俺に聞く……、ってまあ一応班長は俺になってるけど」
雪菜と浪がそんな話をしているところで、なぜか自分の班を離れてアンリがやってきた。
「ちょっといいかしら」
「あれ、アンリちゃんどうしたのさ。 自分の班にいなくていいの?」
「SEMMの用事でって先生に頼んで別行動にしてもらったのよ。 一時間もあれば済むから、本部に行ってみない?」
「本部に? っていうかアンリちゃん荷物やけに大きくない?」
雪菜の言葉に全員がアンリのほうへと目をやると、確かにレポート作成の為だけにしてはやけにカバンが大きい。翔馬だけが、その理由にすぐ気づいた。
「もしかして……、あの時追えなかったAHPのメールの送り先を調べるつもりで?」
「察しがいいわね。 送り主に利用されていた本部長のPCからならAHP……、ヨミの捜索を服部さんに指示したのが誰だったのかを突き止められるかもしれない」
アンリの言葉に、一同の顔が固まる。事前にヨミの存在を知っていた……、それはすなわち、指示を出したものはアニマ研の人体実験についても把握していたはずであるからだ。下手をすれば大事になりかねない。
「うう、なんか騒ぎになって修学旅行中止されたりしないよね?」
「獅童のおっさんと帰還した北上がいるはずだから万が一誰かに抵抗されたりしても問題はないと思うぜ。 悪いけど、俺からもお願いしたい。 シロにあんな思いさせた連中がSEMMに隠れてるなら放ってはおけねー」
「そっか……、シトラス製薬からのスパイがいるかもってことなら、調べといたほうがいいよね。 わかった、行こう」
翔馬の言葉を聞いて旅行を人一倍楽しみにしていた雪菜が同意したことで、ほかの面子もアンリの提案を了承した。
SEMM東京本部は駅からのアクセスも良く、中央口を出ると左手に四、五分歩いてすぐに到着するほど。しかし、事前に調べておかなければわからないくらいに、ほかのビル群と見分けがつかず特徴はない。よくあるガラス張りの高層というほどの大きさもないビルだ。愛知支部より敷地は広いが。
雪菜と浪は9階建ての建物を見上げてポツリとこぼす。
「本部もっとおっきいイメージだったけどこんなんだったっけなあ」
「お前はBランク試験の時に来たことあるんだっけ」
「まあねー。 でももうあんまり覚えてないし翔馬さんいるから案内してもらおうよ。 レポートもSEMM本部見学で書けるし」
「最悪ろくに書くこと思いつかなくても翔馬いれば何とでもなるしな……」
浪の発言に翔馬は呆れて息を吐く。
「インチキしようとするんじゃねーよ。 ったく、とりあえず入るぞ。 獅童のおっさんがどっかふらふらして無きゃいいが」
そういって、翔馬と凰児を先頭にして本部内へと足を踏み入れる。内装は愛知支部同様開けたエントランスホールがあり入口正面に受付カウンター、奥へ進むと左右に道が分かれて建物外周が通路となるような作りである。エントランス左手の階段は三階までで途切れており、基本的にフロアの行き来はエレベータで行う。
早速大和田本部長に会わせてもらうためとりあえず受付のほうへと目を向けると、ド派手ななりの見覚えある男が分厚いファイルを二つ抱えてひたすら書類に印鑑をもらっているところだった。
「おう北上、さっそくまた会ったな」
「oh、服部君じゃねーかい。 って勢ぞろいしてこんなとこで何してんだヨ」
「浪達んのとこが修学旅行でさ、シロの護衛で一緒に来たんだ。 ついでに俺にヨミの捜索を指示したのが誰だったのか調べさせてもらおうと思ってな。 おっさんいるか?」
「なるほどナ。 ダンナは例のごとく外出中だが、まあいいさ。 あさられてまずいもん入ってる方が悪いだろう?」
「話が分かるな、頼んだ」
先日ともに戦ったことで、以前持っていた苦手意識もすっかり消えた様子の翔馬は、閃人の悪い笑みに同じく悪い笑みで返した。
そして書類をまとめた閃人に連れられ本部長室前まで来ると、彼の持つカードキーでセキュリティを解除し室内へと立ち入る。大雑把でさぼり癖のあるイメージから翔馬の雑然としたデスクと似たような有様を想像していた一行は、物が少なく整然とした室内に少し驚きをみせた。
「意外と片付いてるのね。 まあいいわ、誰かに気づかれる前にさっさと終わらせちゃいましょう」
「Ha、部屋のロック解除したときにダンナの携帯に連絡行くから隠しても無駄だけどナ。 ま、気にしなさんな」
「手間かけさせて悪いわね。 じゃあ、行くわよ……」
面倒ごとに巻き込んで申し訳ないといった様子の一同を、閃人はいつものことと笑い飛ばした。
アンリが以前使っていたヘッドセットをカバンから取り出し装着している間に、閃人がPCを立ち上げてログインを済ます。翔馬が例のメールを探してみるが、案の定それらしきものはない。
「メールは入ってないか。 どうやって追うんだ?」
「送信日時は控えてあるから、その時間の履歴から掴むわ。 ……、よし、接続成功。 後は……、こうして……、っ!? これは……、まさか」
すさまじい速度でタイピングしていたアンリの手が止まり、ヘッドセットを外す。何かわかったのであろうが、深刻そうなその表情に一同緊張が走る。
しかしその後最初に声を発したのはアンリではなく、いつの間にか入口横にもたれるように立っていた中年の男であった。
「任務コードAHPは俺自身からの指令だぞ」
「し、獅童のおっさん!? いつの間に……、っつかどういうことだそれ!?」
翔馬の問いに大和田はすぐには答えなかった。アンリが調べた内容を口にする。
「利用されたように見せかけて……、大本は変わらずここだったわ。 調べられることまで想定して対策しているとはずいぶん慎重なのね」
「姉ちゃんが栄一から聞いてた機械人のアニマってやつか。 参ったねこりゃ」
大和田の態度は以前京都支部で浪達が出会った時と変わらず、おどけた雰囲気のまま。しかし翔馬は真剣な表情で若干にらむように大和田へと詰め寄った。
「……、アニマ研の実験を把握していながら、それを隠して俺にヨミを探させてたのは何故だ。 返答次第じゃあんたでも……」
「まあ落ち着けよ若人。 俺がそのつもりなら、最初から不意打ちでファクター使ってこの部屋を囲っちまえばお終いだ」
発動さえすれば相手を完全に無力化することも可能なある種最強の能力。発動にどれだけかかるか定かではないが、発動されてしまえば間違いなく、この人数差であろうと手も足も出ないであろう。
全員が軽く身構えるが、大和田はあきらめたように息を吐くと、軽い態度を改め少し悲しげに話し始める。
「まったくさ、事情も知らず軽い気持ちで他人の相談になんか乗るもんじゃないわな、たはは」
「なんの話だよ」
いぶかしげに、しかし構えを解いて聞き返した翔馬に、大和田は淡々と話し始める。
「俺の部下にいつも死にそうな顔して、ふらっとどっか消えちまいそうな男がいたのさ。 俺は何の気なしに話を聞いてやろうと飲みに誘ってみた。 まあ、酒に弱いやつだったよ。 頑なに話そうとしなかったくせに、酔いが回ると泣きながらすべてを話した」
「部下……?」
「男の名は池代和明。 橘彰にたどり着けたのなら、知ってるかもしれないがな」
男の名を聞き、凰児が最初に気づいた。確かに聞き覚えがある。
「ヨミの言っていた三人の中の一人だ……!! アニマ研が解体された後もSEMMに残っていたのか」
「すべて打ち明けた後、ヨミと呼ばれていた青年が生きているはずだから探してほしいと頼まれた。 奴は狂い切れていなかった。 しかし、そのせいで罪の意識に侵されおかしくなっちまったんだ。 ヨミを見つけて引き合わせればまともになるかもしれない、そう思って俺は奴を探すことにした。 まあ結局、ヨミが見つかる前に死んじまったがな」
本人が命を絶った後も、彼への弔いの意思でヨミを探し続けていたのだろう。大和田は多くを語らなかったが、彼が仕事を閃人に押し付けてやっていたことがヨミの捜索であったであろうことを、勘のいいものは気づいていた。
大和田の言葉を静かに聞いていた翔馬は、そこで疑問を口にする。
「どうして実験のことを黙ってた?」
「橘はSEMMにスパイを仕込んでると池代から聞いていたんでな。 上級隊員には任務だけを与え、詳しい事情はあえて怪しまれることのない末端にのみ伝えて詳しいことを調べさせた。 情報が入った時だけ戦える奴に伝える形をとっていたんだが……、結局栄一が謎の発明品使って先に見つけたらしいな」
「ったく、あんたらはほんと重要なことを言わねーんだから……。 まあ、必要があってそうしてたってのは分かってるけどさ」
「言い訳になるが……、特にお前は詳しいことを知れば組が関わってた事にもたどり着いちまう可能性があったからな。 騙すような真似をしてすまなかった」
普段の態度を知る分、真摯な謝罪の言葉を受けて翔馬は逆に申し訳なさそうになってしどろもどろしてしまう。
いろいろな人に気遣われどん底から這い上がってきた翔馬には、自分を傷つけまいとしていた大和田の行動が何よりもうれしかった。
「みんなほんと……、過保護だなあ。 俺はもう大丈夫、何があっても立ち止まったりしねーよ」
翔馬は照れながらもまっすぐ大和田の目を見てそう宣言する。
「ほんと、栄一から預けられた時からすりゃ、男らしくなったもんだ。 お前は本部の代表だからな、しっかり頼むぜ」
「任せときな!!」
そういって、二人は固く握手を交わした。
しばらく話をした後、一同は大和田に案内され本部を一通り見学して回った。仕事はいいのだろうかと皆が思っていたがそこは察して口には出さない。
各自レポートに必要なことをメモしながらまわり、事前の計画通り一時間ほどたったところで切り上げてエントランスへと向かう。
「それじゃ本部長、いろいろありがとうございました。 北上さんにもよろしく言っといてください」
「おう、気にすんな少年。 いざというときは俺たちもできる限りのことをする。 困ったら栄一に伝えてくれや。 ……、と、それと嬢ちゃん」
大和田は浪に気遣いの言葉を投げた後、凛に話を振る。
「その後はどうだい? 少年には稽古をつけてやったか?」
「あんたまでまたそういう事を……。 多分あんたはファクターメインのホルダーだろうからわからないかもしれねーけどそんな単純な話じゃねーんだよ」
「まあ言いたいことはわかるけどよ」
そこまで言った所で翔馬が話に入る。
「まあまあ、今そのために秘密の特訓してるとこなのよ。 昔俺がゲーセンでやってたあれ」
「ああ、あれか、いい着眼点だな。 できれば梨華ちゃんあたりに相手してもらうとだいぶ感覚掴めると思うんだがね」
「ちょうどいま愛知支部に来てるしそれもアリだな……。 参考になったよ、サンキュー」
「まあ色々大変だろうが気負いしすぎんなよ。 そいじゃ、せっかくの自由行動中だ、そろそろ遊びに行ってきな」
会話にキリがついたところで、浪達は小さく礼をして本部を後にした。
残された大和田は彼らの姿が見えなくなると、ふと真剣な表情になって深く息を吸った。
「若いのが頑張ってるのに、年長者がいつまでもさぼってちゃあいけねえな。 さあて、あとは情報流したスパイ狩りと……、『あいつ』だな」
意味深につぶやくと、自室のほうへと歩いて行った。
場所は変わり、異界。世界から切り離されたような異質な国、メタリガイア王の間にて。出入り口もない玉座のみがあるだけの空間で、玉座の主へと報告を上げるものの姿があった。白い軍服に紫の髪、無間の異名を持つ機械魔一族の副官、クレズネである。浪達が戦った時と少しだけ服装が違うようだ。胸のバッヂのデザインが変わっている程度ではあるが。
クレズネは少し難しい苦い顔で、周辺の同盟国の被害状況を述べていく。
「この一か月間でルシフェル勢力に攻撃を受けた集落は治癒術使いのシーメル村をはじめ五つ……、特にクルド族の集落はメタリガイアからほとんど離れていません。 我々の到着を待たずしての壊滅となると……、セブンスシンのメンバーの仕業かもしれないっすね」
「困ったもノだね。 我々を誘っテいるのか、それともあちらカらこの国に攻めてくる前兆ナのか」
「ですけどメタリガイアの城壁を突破するには大将自ら出向いてくるくらいでないと不可能っすから。 現実的ではないっすね」
「君ハ……、『アレ』を甘く見テいるね。 ……、あの破天荒な暴虐ノ王は理屈で測ることガできない。 この僕デすら、その心を読むコとはできない」
「とはいえさすがに……」
クレズネが言いかかったところで、突如けたたましい警報音が響いた。何事かときょろきょろとあたりを見渡すクレズネと対照的に、マキナは冷静さを崩さない。警報音の後に、機械音声が続く。
『メタリガイア防衛システムが突破されました。 侵入者は二名、エリアAまもなく陥落します。 各エリアを隔離し侵入者をエリアDへと誘導します。 システムマキナおよびクレズネ発動の為エリアD、H居住区にいるものは速やかに避難し、戦闘員は武器庫の防衛のみに努めてください』
今まで不落を誇ってきたメタリガイアへの突然の侵入者。警報は一族のみが聞き取ることのできる特殊な波長で発信されているため、速やかな指示出しが可能だ。
しかし、AIはたった二体で攻め込んできたという敵の強大さから、クレズネとマキナ以外が応戦することに意味がないとすぐさま判断を下した。
「マキナ様、これはまさか……ッ」
「まったく、噂ヲすればだ。 破天荒にモほどがある。 ……、ベルフェゴールとルシフェルだね。 すまナいねクレズネ、君の死はおそラく避けられない」
「気にしないでください。 私はそういう『モノ』っすから」
何の前触れもなく現れた敵勢力のツートップ。常識の通じぬ、すべてを食らいつくす暴虐の王の急襲にきっぱりと死を宣告されたクレズネは、大したことでもないように冷めた低い声で返した。




