デウスエクスマキナ
調査任務から一夜明け、凰児が学校から帰ったあと事情を説明していたアンリを連れて翔馬、シロとともにSEMMへと向かった。そのまま普段はあまり縁のない事務室へと進む。パソコンの置かれた薄灰色のデスクが整然と並ぶ部屋にはひとつだけ、ぱっと見で目立つほど書類が雑然と置かれた控え目に言って汚いところがある。
「あなたのパソコンアレでしょ……。 少しは整理しなさいよ」
「どーせ俺しか使わねーもんあそこ。 取り合えず乙部さん来るまでにすぐ開けるようにしとくか」
そう言って雑に書類を払い除けてキーボードを発掘すると、パソコンを立ち上げてやけに長いパスワードを入力する。パソコンを触っているイメージはあまりない彼だが、意外にも素早いブラインドタッチでの操作に三人とも意外そうな顔だ。
「やけにパス長いね、面倒じゃない?」
「俺のアカウントには秘密ファイルがいっぱいあるからな」
「それは……、いかがわしい意味で?」
「そっちはいっぱいってほどじゃないぜ」
「あるにはあるのか……」
くだらない会話をしながらログインを進めていると、ちょうど立ち上げ終わったところで乙部が顔を出す。
「すみません皆さん、遅くなりました。 どうやらもう準備できているようですね」
「おつかれー。 じゃ、早速開こうか。 ……、これだな」
メールフォルダーに添付されたファイルを開こうとするとパスワードを要求されたようだったが、翔馬はあらかじめ知っていたのか気に止めず8桁程のパスを打ち込みファイルを開く。
「気になる中身は、っと……。 こりゃ……、行く前に見ておくべきだったな」
「AHP調査対象『ヨミ』目撃情報とその詳細、ですか。 三重県南部にてそれらしき人物が、とのことですが」
「それを知ってるって事は調べさせてる奴は俺以外にもいるってことだな。 まあでもあれだけのバケモンだ、見つけても手出しできなかったんだろうな。 ファイルの中身はまあ大したもんじゃないが……、こっからが本番だな」
「そうですね。 人払いは済ませてあります、アンリさんお願いできますか?」
「この程度のスペックのマシンでどれだけやれるかわからないけど……、まあやってみるわ。 すぐ終わるから適当に遊んでていいわよ」
そう言って大きめのリュックから謎のヘッドセットを取り出し妙な機械の箱をパソコンにつなぐとキーボードを叩き始めた。翔馬も早い方だったが、アンリのタイピングはもはや超人の域である。
「あの謎の機械はなんなんだろう?」
「以前聞いたんですが、異界の技術を応用して自作したそうですよ」
「この子一人で技術革新起こせるんじゃないのか……?」
「とはいえ機械魔の能力ありきらしいので人間が使おうとしたところでどうしようもないでしょうがね」
「なるほどね……」
そうこうしているうちにアンリの動きが止まり、彼女がヘッドセットを外した。ひと仕事終えたように小さく息を吐く。
「終わったわよ」
「早っ!? さすが、とんでもねーな……。 で、どうだった」
「一応途中までは追えたけど……、相手も手の込んだことしてるわね。 ますます怪しいわ」
「どういうことだ?」
少し言葉を濁すように言うアンリに翔馬は怪訝そうに尋ねる。
「とあるパソコンを経由させてそこから送られたように見せかけてるわ。 残念だけどそこから先は追いきれなかったわ。 その『踏み台』にされたパソコンからなら先まで追えるかもしれないけど」
「そんなんどこかわかんねーだろ」
「分かるにはわかるけど……。 東京の本部長から送られてきたことになってるわ。 いかにもそれっぽい人物だけど、こんな回りくどいことしている以上勝手に利用されただけでしょうね」
「獅童のおっさんか……。 じゃあ違うだろうな。 手詰まりか……」
手がかりを失いしばらく考え込んでしまう一同。しかしその時、何か思い出したことでもあるのか凰児がハッとした様子で口を開いた。
「そういえばヨミ、だっけ。 あの人が気になること言ってたよね? 任務を出したのが誰だかって」
「そうか……!! たしかえっと……、橘と池代、あと坂崎だったっけか? そいつはもう死んでるようなこと言ってたが……」
話を聞いていた乙部は顎に手をついてしばらく何か考えた後口を開く。
「珍しい、というほどではないですがありふれた苗字でもないですね。 その名前である程度の地位にいる者で絞れば割り出せるかもしれませんね……。 私の方で調べておきましょう」
「ああ、頼むぜ」
凰児のひらめきによりひとまず手がかりをつかむことができたようであるが、乙部も忙しい身だ。その件につきっきりになることもできないので、とりあえずのところは信頼できる者に引き継いで続報待ちとなるだろう。幹部クラスの情報を調査するとなれば、おそらく指名を受けるのは愛知支部の事務主任である緋砂あたりであろうが。
「とりあえず今日はここまでか。 そういやあいつらの方はどうなってるんだろうな? もうそろそろ主さんに会えててもおかしくはないかね?」
「みんな無事……かな」
「心配かシロ?」
しばらく俯いて黙っていたシロだったが、不安を打ち消すようにブンブンと首を振ると曇りのない表情で返す。
「心配だけど、大丈夫だよ。 浪たちなら何があってもちゃんと帰ってきてくれるってわかってるから」
信頼しきった彼女の表情に、翔馬も安心したように微笑みで返した。
一方その頃ネフティスとティアという強力な助っ人を加えた異界組は、ネフティスの提案通り水晶の森で一休みした後、再び歩を進めていた。不思議なことに異界にも変わらず星と月が浮かぶようだ。文明レベルや地形以外は本当に人間界と大差はない。
一応番はしてくれていたようだが、月の魔力を普段以上に纏った夜の女神に近づこうとするものはおらず、何事もない平和な一夜となったようだ。
歩き始めてはや六時間ほど、一行はようやく鉄色の城壁らしきものを視界の先へと捉えた。
「ようやく見えてきたわあ、あれが機械魔一族の国……、『メタリガイア』よ。 異界第四柱デウスエクスマキナを王とし、個々の能力の高さもさる事ながら、異界において唯一高度な文明により軍事力を持つことでルシフェル勢力に対抗しうる戦力を持った一族……」
「あそこが、機械魔の国……。 思ったよりか大きくはないんだな」
浪の言うとおり、円形の城壁に囲まれた部分は思ったよりも小さい。某夢の国二つ分くらいだろうか。
「メタリガイアは地下にも居住区があってどちらかといえばそちらがメインですよ。 王の間もそちらになります。 高度な技術によって王の許しのないものは領内へ侵入することすらほぼ不可能なようになっています」
「ま、実際に行って見ればわかるわあ」
ティアの説明に驚きと感心が混じったように相槌を打った浪たちは、そのまま視界の先の国へ向かって歩いていく。特に何事もなく、三十分ほどで城壁の前へと到着した一行だが、どう見ても城門と思しきものが見当たらない。えーと、と混乱したようにネフティスへと視線を向ける浪だが、彼女は何も言わずにただじっと壁を見上げているのみだ。
その時、頭より少し高いところにある小さな円形の鉄扉がカコンと音を立てて開くのに浪が反応した。
「カメラ……、か?」
『コチラハメタリガイア管理室、入国ヲゴ希望デスカ』
「うわっ、喋った!?」
どこからともなく聞こえた機械音声に浪はビクッとしてあたりを見渡すが、スピーカーらしきものも見えない。
ネフティスは何事もない様子でカメラらしき小窓を見上げると、いつもの妖艶でゆったりした調子とは少し違う、通る声で話しかけた。
「太陽の一族族長補佐ネフティスに同行者スカラベ、及び他協力者三名、主よりの指令によりデウスエクスマキナ様との謁見を希望致しますわ。 もうひとりも難民受け入れ要求のため同行の許可を。 証明コードは『ガイアシステム=マキナ』」
『認証コード確認、転移ゲート展開致シマス、ヨウコソメタリガイアヘ……』
機械音声が歓迎の言葉を告げると、カメラから下へ向けて、何もなかった城壁に縦一筋の細い光が走る。それはそのまま地面を伝って枝分かれした後、五人と一匹の足元まで走るとそれぞれの体を包み込むように淡い緑の粒子を上げていく。
「うひゃあ!? なにこれなにこれ、大丈夫なんでしょうか!?」
あたふたしている十和を浪と凛は呆れ半分に見ているが、その二人も異界のオーバーテクノロジーに驚きを隠せない。目の前が一瞬真っ白になる感覚のあと視界が戻ると、荒野とそびえる城壁は見当たらず、鉄色の直方体をした建物が無機質に並ぶ近未来的な町並みへと変わっていた。
床も青白い光を放つ半透明な謎の素材で、なんだか浮遊感があって落ち着かない。三人は未だ驚きを浮かべたまま自分の体を見渡している。浪は今の現象に心当たりがあるのかポツリと声に出した。
「今のはまさか……」
「機械魔一族は科学技術によって人為的に魔術を生み出せる手段を持っているの。 それこそが最強の暴王ルシフェルが彼らに手を出さない最も大きな要因だわあ。 もちろん生命や時など、あまり高度な魔術は再現できないけれど」
「空間魔術だって俺たちの中じゃ禁術指定だぞ」
「あなたたちの所は魔術の高等さではなく危険度でそれを決めているからよ、空間魔術は貴方達が思うほど高度な魔術ではないわあ。 世界の境界にヒビを入れる『空間』、程度によっては死者を蘇らせ争いを生みかねない『生命』……、そして次元消滅を招きかねない『時』。 そんな基準かしらねえ」
「なるほど、禁術=高度ってのはこっちだけの認識なのか……」
「とはいえ、例の空間術師と戦いその戦闘力を見たあなた方ならそう思うのも無理ないでしょうけどねえ。 わたくしは話に聞いただけだけれど、個人であれほどの力を持っているのなら例の少年は十分高等魔道士と言って差し支えないレベルでしょうねえ」
空間魔術が他の禁術より一段落ちるとは言え、憂の力はやはりネフティスレベルのアニマからしても驚異的なようだ。説明がひと段落したところで、落ち着きを取り戻してきた十和が改めて周りを見渡して簡単の言葉を口にする。
「今更ですけど、外の世界とは全然違いますね、宙を浮く車が走ってますよ!? それにあちこちに光る床……、あれも転移装置なんでしょうか?」
「まるでSFの世界に入り込んだみてえだな。 っと、それより王の間ってのはどっちだ?」
こんな状況でも凛は若干冷めた様子で感動が薄いのか、早速本題に入ろうとする。
「王の間に通じる転移装置は最も厳重に警備された街の中心部にあるわあ。 転移装置を転々とするだけだからさほど時間はかからないけれど……、先にひとつ言っておかなくてはならないことがあるわあ」
「言っておかなくてはならないこと?」
浪が聞き返すと、ネフティスは少しだけ言いよどんで答える。その表情も少しだけ、濁って見えた。
「おそらくマキナ様からひとつ、あなたたちの知らない……、いえ、一部の者によって隠された真実を知らされることになるわあ。 知らなくても問題ないかもしれないけれど……、もし万が一『リメンバー』に当たった時に動揺を避けるためには仕方ないのかしらねえ……」
最後の一言は小声でつぶやいたためほかの四人には伝わっていない様で浪が聞き返す。
「最後がちょっと聞こえなかったが……」
「いま言っても二度手間になるわあ、とりあえず何を聞いてもいいよう覚悟はしておいて」
不穏な言葉に息を呑みつつ、三人とティアは道を知るネフティスの後に大人しくついて行った。そして転移を繰り返したどり着いた先には、ブリキ人形のような機械兵士が門を守る聖堂のような建物が。そこだけ材質が金属質ではなく、ほかのただの四角い建物とは違う造りで神々しい雰囲気を放っている。
ネフティスは建物の前で立ち止まり、七段ほどの階段の先にある扉を見つめる。
彼らの来訪を知っていたかのように、ちょうどそのタイミングで紫色の長い髪を持つ女性型のアニマが姿を現した。一つのおさげにして左の首横から前へたらしている。身長は人間の女性の平均より少し大きく、白を基調とした軍服のような身なりをしているが、なんだか雰囲気は軽くおどけた様子だ。
「ネフティス様にスカラベ君とその他三名、主から聞いていますよー、あれ、一緒にいるのはシーメルの村のアマルティアさんではないっすか? 村を空けて今日はどうされたんですかぁ?」
「話は中でするわあ……、相変わらず騒がしいわね、クレズネ」
ニコニコと屈託のない笑顔で歩み寄る彼女にネフティスは少し疲れ顔だ。性格も合わないのが目に見える、苦手なのだろう。
とりあえずは少し抜けている感じのするクレズネにかわってネフティスが紹介する。
「彼女はマキナ様の補佐に当たるクレズネ、まあうちの主様にとってのわたくしと同じような地位だと思ってくれて構わないわあ。 アンリマンユを除けば機械魔一族のNO.2ということになるわあ」
「初めまして、一族の悲願にご協力いただけて感謝してるっす。 ささ、マキナ様がお待ちなんで早速中へどうぞ、聖堂奥の転移装置で一発っすからいろいろ心の準備ができたら言ってくださいね!!」
くるりと踵を返し聖堂へと戻っていくクレズネの首にはパーツを継いだような線がうっすら見える。やはり人間に近い見た目をしていても、彼女もまた機械仕掛けの組み込まれたアニマなのだろう。
扉を開き聖堂に入る直前になったところで思い出したような表情をして振り返ると、クレズネはいたずらっぽく微笑んで口を開く。
「そうそう、言いたいことや聞きたいことがあったら遠慮せず全部言っといたほうがいいっすよ、マキナ様は何があっても機嫌を損ねたりなんてことはしないんで。 さっき覚悟決めといてなんて言ったんで緊張してるかもしんないですけど、どうかお気楽にどーぞ」
言っている内容はごくごく普通のことであるのだが、意味ありげな含み笑いになんとなく嫌な予感がする。しかし純真無垢な十和は彼女の言葉に素直に、少し安心した様子でつぶやいた。
「良い方なんですかね? それでもちょっと怖いですけど……、粗相しないように気を付けないと」
「純粋な子やなあ……。 クレズネの姉さんも表裏のない娘やけど人をからかうのが好きやからな。 意地が悪いで」
「えっ? 何か言いました?」
「いやいや、ええねん。 ……、まあ嘘はついとれへんしな」
スカラベの意味深なつぶやきは十和には聞こえていないようだ。
とりあえずクレズネの後について聖堂奥へと進む。中央通路の両側にクリスタル状の材質でできたベンチが並び、奥には祭壇のようなものが見える。異界のなかでひときわ異彩を放つメタリガイア、その中でもまたこの聖堂はミスマッチな異様さを感じる。
「どうっすか? もう転送しちゃっても? もうちょい待ちましょうか?」
「いや、大丈夫だ。 頼んでもいいか?」
「よしきた、お任せ下さい!!」
ニカッと笑うとクレズネは祭壇へと上がり、彼女が呪文を唱え出すと一同の体を先ほどのように光が包む。覚悟を決め息を呑む浪たちだが、彼ら三人よりも重い緊張の表情をしているものがいた。ティアである。眉間にシワを寄せ深呼吸して気を落ち着かせているようだ。
「大丈夫か? 心配しすぎないほうがいいぞ、きっと受け入れてくれるさ」
「えっ? あ、はい。 そうですね……」
浪の気遣いにもどこか上の空だ。そのまま、全員の視界が白く覆われていく。
そして再び視界が戻ったとき、聖堂とはうって変わって再び無機質な金属で形作られた風景が目に入ってきた。しかし、見渡す限り何もなくただただだだっ広い。
装飾らしい装飾もない部屋の奥の少し高くなっている場所には、背もたれに赤い布のかけられた玉座がひとつ。そこには浪より少し背の低い少年のようなアニマがちょこんと腰掛けていた。黒系の魔道士が着るローブのようなものをまとい、裾は地面まで付いている。ダボダボのローブとフードにより、その風貌は全くわからないが、感じ取れる魔力だけで既に、全員がその正体に確信を持っていた。
「あんたが機械魔一族の王……、デウスエクスマキナだな?」
緊張の汗をたらして尋ねる浪に、アニマはゆっくりと立ち上がると不敵に微笑み答えた。
「その通りダよ。 よく来たネ、運命ノ子」
玉座先の階段を足音も立てずにマキナはゆっくりと下りて行く。
早速本題を切り出そうと声をあげようとする浪だったが、ふと妙な気配を感じ隣へと視線をやる。先程まで緊張に顔をこわばらせていたティアの様子がおかしい。興奮を抑えきれない様子で、口元はわずかに歪んだ笑みを浮かべる。
異様な雰囲気についゾッとした彼が声を掛けようとした瞬間、ティアは捉えることもできぬ風が如く速度でマキナへと突進していき、魔力をまとわせた槍による渾身の一撃でその胸から腹下あたりまでを吹き飛ばした。フードをかぶったままの頭が地に落ち鈍い音を立てる。
「あらまあ、これはビックリっすねえ」
「ふう、気を配って見ていたつもりだったけれど。 やっぱりそうだったのねえ」
ティアの突然の裏切りに言葉を失う浪たち三人に対し、クレズネもネフティスもスカラベも、のんきな様子で一切の動揺が見えない。
「最初からマキナ様を闇討ちするつもりでネフティス様についてきたんすね。 一応言っておきますが、ここは入るにしても出るにしても私の承認が必須なんで逃げられはしないっすよ」
「ふ、ふふふ……。 目的さえ果たせば生きて帰ることなど初めから望んではいない。 ただ果てるまで一人でも多く狩るまで」
「あなたはアマルティアさんではないっすね? 姿形までそっくり似せてご苦労様っすけど。 ……、不死の魔王舐めてもらっちゃ困りますよ?」
「……、何?」
ティアが玉座の方へと向き直ると、足だけになって立っているマキナの腰の断面からコードが無数に伸び頭を拾い上げる。そしてみるみる柔軟性のある不可思議な金属が吹き飛ばされた部分を形作っていき再生した。
声を失うティアをそのままほうって、ネフティスが話を進める。
「なんとなく察してはいましたがわたくしだけでは彼ら三人を守って戦うことは難しいと考え、ここまで連れて来るしかないと。 あとはわたくしが責任をもって処理しますので、マキナ様とクレズネは彼らの保護をお願いしますわあ」
「そうイう訳にもいかナいよ、君ニ万が一何かあっタらメジェドに申し訳が立タない、メタリガイアにイる以上君も大切ナ客人だ。 さて……」
一歩歩み寄るマキナに、ティアは思わず後ずさる。
「馬鹿な、初めから気づかれていたというのか!? 擬態は完璧だったはず……!!」
「初めからではないわあ。 でもね……、あなた元気すぎるのよねえ。 あなたが本当に一族を想っていたのなら、誇りを穢されてそんなに冷静でいられるはずがないわあ。 わたくしたち太陽の一族はそれを誰よりも……、痛感しているもの」
「くっ……、せめて副官のクレズネくらいはっ!!」
一瞬で風の槍を生成しクレズネへと撃ち出すが、彼女はニコニコとのんきな表情のまま片手でそれをはじき飛ばした。
息を荒げるティアが背後から強い殺気を感じすぐさま振り返ると、マキナは銀色に輝くオーラを纏い、ローブの裾に隠れた足元からケーブルのようなものが伸びていっていた。それはものすごい速度で増殖しながら伸び続け、マキナの体を持ち上げて8m近い巨大な塊となる。枝分かれしてさらに伸び続けたケーブルの塊が巨大な手を形作るのを見て回避するべく反応を示したティアだが、その下半身には地を這って忍び寄っていたケーブルがしっかりと巻きついていた。
2m以上ある巨大な金属の手による平手打ちに力の限りの魔力をぶつけて大穴を開けるが、風の槍に貫かれた部分は一秒もせず完全に再生してしまった。
「ひっ、やめ、やめろ!! うわあああぁぁぁっ!?」
悲痛な叫びも虚しく無慈悲な一撃は音を立てて地面をわずかに歪ませた。少しして、間からは血がにじんでくるのが見えた。
少しの間でも、偽りであっても、ともにここまで来た相手の凄惨な最期。凛と十和が二人で苦戦していた相手がなすすべなく敗れたことも相まって浪たちは言葉を失う。対するアニマ三人と一匹は特に何も感じていない様子でやれやれと呆れてすらいる冷めた態度だ。
拳の部分を切り離しティアの死体を隠す配慮をすると、マキナはケーブル部分を縮めていき元のサイズに戻った。
「彼女ノ正体は倒したアニマノ全てを喰らい奪う力ヲ持つルシフェルの配下ショゴスだロう。 比較的若いアニマダよ。 クレズネ、悪いケれどあれヲ片付けておいテくれ。 さてそんなことよりも……、本題に入るとシようカ」
マキナは部屋の掃除でも頼むかのように軽く死体の処理を指示すると、何もなかったかのように微笑み話題を切り替えた。
異界編も終盤です。
ティアの裏切りは予定調和というか初めからマキナの再生能力のやばさを誇張するために生まれたキャラです。
異界文字が読めた謎とかが次回早速解ける予定です。主人公が特別とかじゃなく凛と十和も読めたことから予測はできるでしょうか?
ではありがとうございました。




