異界から来たお調子者
下級アニマに振り回されている一同は、とりあえず緋砂のファクターに頼る他に術もなく、今は大人しく自販機が並び休憩用ベンチが置いてあるフリースペース的な場所で連絡を待っていた。面子を見てみると、どうやら翔馬と礼央の姿がないようだ。
しかし浪が少し落ち着いてきた雪菜と雑談している最中に、二人揃って戻ってきた。
「ただいまー、どう? 姐さんから連絡きた?」
「礼央か、まだないよ。 翔馬とどこ行ってたんだ?」
「どこって訳でもないけど、翔馬さんが暇だから仲のいい男子からかいに行くっていうからついてった」
「この暇人どもはまたくだらねー事を……。 いつの間にやら仲良くなってるし……。 似た者同士必然といえば必然か」
予想以上にくだらない二人の行動に浪は呆れ果てた様子でため息混じりでつぶやく。となりでそのやり取りを聞いていた雪菜も同じく、呆れた声でややイラっとしながら反応した。
「翔馬さんはのんきでいいですね、女の子のままでもたいして困らないだろうし。 あたしはこんなに真面目に悩んでるのに……。 あいつが仕事終わらせて異界に帰っちゃったらこのままかも知れないんですよ……、戻れなかったらどーしよう……」
多少立ち直っていたかと思えたが、やはりダメージは大きいようだ。言葉を続けるにつれてまた元通りダウナーな感じへと逆戻りしていった。
「俺だって元に戻れないと困るよ。 確かにちょっと注目の視線集めて調子に乗ってたかもしれないけど、大事なことに気がついたんだ」
「どうせどうでもいいことだろうけどなんですか」
「男どもにちやほやされることになんの意味もない事にだ!!」
翔馬の主張に雪菜は無表情でため息をついた。その様子に翔馬は焦ってフォローにならないフォローを入れる。
「な、なんとかなるって、大丈夫大丈夫!! それにもし戻れなくなったとしても最悪凛ちゃんがもらってくれるから……」
「あたしに振るんじゃねえよ。 ったく、なんで下級アニマごときにこんな苦労させられなきゃならねーんだか。 任務っつったってそいつに嫌がらせ以上の何ができるってんだ」
「さあ……? まあ捕まえて聞き出せばいんじゃね?」
そんな会話をしている中、カツカツと足音が近づき一同それに気付いて視線を向ける。アニマの探索を終えて直接結果を伝えに来たのだろうか、そこには緋砂の姿が。
「お姉ちゃん!! どう、居場所はわかった?」
「食い気味で必死なところ悪いんだが……、少し離れちまったみたいでねえ……。 魔力も弱いし追いきれなかったよ」
頭を掻きながら苦笑いで言う緋砂に、雪菜は愕然とした様子で固まってしまった。とりあえずアンリが宥めるようにフォローを入れる。
「そう気を落とさないで、私ならアニマ同士気配を掴めるかも知れないわ。 今日のところはもう遅いし、明日また探しましょう」
その言葉にも、雪菜は半信半疑で拗ねたような表情のままだ。
「今日はこのまんまってこと……? お風呂入れないよぅ……」
「なんなら僕が一緒に入ってあげ」
礼央は言いかけている途中で雪菜に綺麗な廻し蹴りをもらい、もんどりうってうずくまっている。
呆れた様子で少し目線を送るも、緋砂は何事もないかのように話題を切り替える。
「で、そうとなれば今のうちに作戦考えておこうか。 話を聞いたところ捕獲役と攻撃役……、あと誘導役が必要だね。 浪とアンリに龍崎くん、それに雪菜の四人でなんとかなると思うんだがどうだい?」
「捕まえられないなら誘い込む、ってわけですね」
凰児は納得したように頷くが、雪菜はあまり理解していないようだ。
次の日の朝、緋砂の作戦通りの四人と足役で使われた翔馬でSEMMへと集まるとアンリが緋砂に教わって検知システムによってアニマの探索を行っている。以前乙部とともに修理をした検知システムの機械の横にあるパソコンに接続された、VRのヘッドセットのようなものを装着し集中しながらしばらく唸っていたが、ピクっと小さく反応を見せると少ししてからヘッドセットを外して口を開いた。
「見つけたわ、作戦遂行には悪くない場所ね。 子幡緑地公園の本園だわ」
「なんでそんなとこに? 通りがかりとかじゃないのか?」
浪の率直な問に、アンリは軽く説明する。
「あの近く……、竜泉寺付近には大きな異界の穴があるのよ。 異界から来るときはともかく、こちらから異界に帰るときはいくつかあるそういったポイントでなければ不可能なのよ。 別のアニマがこちらへ来るとき、異界の穴はその影響を受けて一時的に逆の力、こちらから異界へと抜ける力が発生するの。 その時を隠れながら待ってるのね」
「マジで!? じゃあ次にアニマが来るまでになんとかしないとあたしずっとこのままなの!?」
「そう……、なるわね。 とりあえず急ぎましょう」
不安でそわそわする雪菜をなだめ、そのまま翔馬の車で目標のいる子幡緑地公園へと向かう。最初に雪菜と浪が巨大な蜂のアニマを倒した公園と同じ施設だが、あちらは少し離れた別園となっている。
駐車場に車を停めると、さらっと作戦のおさらいする。
「龍崎さん、氷室さんはこのあたりで待機、せっかくだから服部さんにも手伝ってもらうわ。 ここより少し奥で奴の進行方向を管理して目標ポイントまでの誘導をしてちょうだい。 まず奴に見つかりやすい私と新堂くんで奴が奥側からこちらに向かって逃げるように誘導するわ」
「そこであたしが誘導されてきたあの関西コガネをビットの包囲で捕まえて先輩が叩く、と……」
「まあそんなとこね。 ……、じゃあ、行くわよ」
そして、アニマ討伐作戦が開始された。
当のアニマは、遊具のある芝生広場の奥の森のようになっているあたりに潜みながら隙を伺っていた。
「こんなとこやのーて早いとこ穴のある山まで行きたいんやが……、人間が多すぎて立ち往生やな。 最悪今日の夜まではここでなんとか過ごすしかないかもしれへんなあ……、ん?」
どうやら目的地へ移動するさなか、一般人に見つかりかけて逃げ込んだらしいアニマは、愚痴るような独り言の最中にぴくりと反応を見せた。
「この感じは……、昨日のアマデウスの坊主やんけ!! あと少しっちゅうとこやのに……。 どうせバレとるんなら見られてもしゃあなしや、逃げるが勝ちやで!!」
アニマは浪の魔力、正確にはエルの気配を感じ取り接触する前に逆方向へと逃げていった。しかし二人の役目は直接アニマと接触し戦う事ではない。狙った通り、アニマはうまいこと翔馬の待機する駐車場方面へと向かって行った形となる。
浪は直接捕まえる必要がないため、アニマを追いながらも携帯で雪菜と凰児に向けて何やらメッセージを送信している様子だ。
別行動中の二人はそのメッセージを確認すると互いにアイコンタクトをとって小さく頷き、公園北口付近の木々に囲まれたエリアへと移動を開始する。
そしてしばらくして、目論見通りに芝生広場手前付近で翔馬がアニマの姿を確認した。少し遅れて彼の姿に反応したアニマは、空中で急ブレーキをかけるように停止し、苦笑いするような様子で翔馬へと話しかけた。
「おう兄ちゃん、あんたはそのまま女の子になっといたほうがええんやないか?」
「迷うとこだが、色んなものを失う気がするからな。 それにもう十分堪能したんで……、色々」
「さすがやで、ほんま最低やな……」
足元に魔力を集め臨戦態勢を取る彼に、アニマは右手方向の、木々が生い茂るエリアへ向かって飛び去った。
「あの兄ちゃんの速さは直線的なモンや、こういうゴチャっとしたとこならワイのが有利やろ……!!」
飛び去りながらつぶやくアニマの言うことは確かに的確である。木々の側面を跳ねるようにしてアニマを追う翔馬は少しずつ離されてしまっている。しかしすべては予定通り、その先には……
「もう少し離せば……、ってどわっ!? なんやねんこれ!? 木の間に何か見えない網みたいなんが……!?」
アニマは何かに引っかかったように突然動きを止めた。よーく見てみると、あたりの木の間には透明な網のようなものが張り巡らされている。それはアニマを捉えた瞬間にすぐさま対象を取り囲むように収束し、球状になって閉じ込めた。
「あっははー、引っかかったなバカめ!! みんなはあんたをここにおびき出すための囮だったのさ!!」
「悪いけど、ふたりを元に戻してもらおうかな」
髪を赤く染め攻撃態勢に入っている凰児。アニマも彼が攻撃系強化の使い手であることをなんとなく察しているのか、引きつったように苦笑いする。
そこに合流した翔馬がビットに閉じ込められたアニマを風で拘束し、雪菜がビットを分解する。
「ちょ、ちょいと待ちや!! 待って!!」
焦る必死の声も虚しく、凰児の強烈な拳がアニマを捉え、アニマはそのまま木に激しく激突して幹に大きな傷をつけ地面へと落下した。ホッと一息つく雪菜達であったが、しかしアニマはフラフラとしながら再び飛び上がった。
「まさか!? あれ食らって平気だっていうのか!?」
「平気なわけあるかいな……、大ダメージやで。 でも、異界に帰るまでが任務やねん、何としてでも逃げたるで!!」
再び飛び去ろうとするアニマに、翔馬がとっさに拘束しようとムチ状に物質化した風の魔力を放つが、アニマはそれを難なくかわす。翔馬が舌打ちをして敵を追うため魔力を貯め始めたその時、全員の携帯がほぼ同時に鳴り、凰児が画面をちらりと見て顔色を変えた。
「まずい、SEMMからのアニマ出現警告だ!! ここで逃げられたら……」
「戻れなくなっちゃうよっ!!」
焦りの色を見せる雪菜がビットを放つが、アニマはそれ以上のスピードで木々の間をすり抜け逃走する。逃げ切りを確信しているのか、アニマは若干余裕を取り戻した様子で森を抜ける。しかし開けた場所に出たその瞬間、アニマの目の前で巨大な炎柱が上がり、アニマは咄嗟に急停止した。
「あちち、危ない危ない……、あんたほどの気配を見落とすとは油断しとったで。 さっきの一撃のせいで魔力装甲にヒビが入って弱っとるねん、あんま無茶せんといてーや」
「知ったことじゃないのよ。 あの子達は主からの任務達成のために必要なの。 ……、まあ戦力的にはあまり変わらないのかもしれないけど。 元に戻してもらうわよ」
「主からの……、任務? アニマの匂いがするからてっきりあんたもアマデウス的なもんかと思うとったが……。 まさか嬢ちゃん、『あの』アンリマンユなんか?」
「どういう意味よ」
アニマは意味ありげに含み笑いを浮かべたあと、彼女の言葉に答えずに飛び去る。アンリはアニマの意味深な態度に油断してしまっていたためかすぐに反応することができなかった。
「ちょ、待ちなさい!!」
「お困りのようだね、お嬢さん」
「ん……? あなた達は確か……」
アニマを追おうとした彼女だが、いつの間にか隣に立っていた三人組のうち、薄くヒゲを生やした男に声をかけられ足を止めた。見覚えのあるその男は、アンリの言葉の途中でぐにゃりとその形を崩すとアニマへと光の矢の如き速さで飛んで行き、その体に巻きついて拘束した。
「な、何やねんコレ!? くっそ、動けへん!!」
アニマを拘束する黒い紐は、その端をアンリの隣に残したまま伸びていった形だ。三人組のうちの大柄なサングラスの男はその端の部分に手をかけると、力の限り引き寄せた。SEMMが確認する中でも最高クラスの肉体強化能力者である彼のパワーに抗う術もなく引き寄せられたアニマは、そのまま強烈な右フックを叩き込まれ、次こそは飛び上がる気力もなく地面に転がった。なんとかギリギリ生きてはいる様子である。
決着がついたところで、ほかの面々もそこに合流してきたようだ。
「井上、どうなってる!? ……、ってあんたらは……!!」
「お久しぶりですね、新堂さん」
焦った様子で合流した浪は、予想外な顔に声をかけられあっけにとられたような顔だ。少し遅れて来た三人も同じような反応をする。
「あ、あれ、レミアさんに三宮さんに……、えーと」
「ああ、俺は名乗っちゃいなかったな。 お嬢……、レミアの叔父のアレクハイド=ヴァレスだ。 兄ちゃんはあの時は見なかった顔……、か?」
「い・ま・し・たー!! ……、まあ分からなくてもしょうがないですけど……。 ってそうだ、アイツは……!?」
本来の目的を思い出した雪菜は焦って辺りを見回し、地面で唸っているアニマを確認するとほっとしたように息を吐いた。落ち着いたところで、三宮がゆっくりと話し出す。
「栄一……、乙部支部長から事情を聞いてね。 私達にも手伝えることがないかと思って来てみたが、力になれたようでなによりだ。 レミアをクレアの故郷に帰してゆっくりさせようかと思ってね。 未来予知の消耗で命がいつまでもつかもわからない……、ならばせめて、母の眠る場所で過ごさせてあげたい。 それで、彼女がこちらで最後に何か出来ることはないかというものだから」
「そう、なんすね……。 うん、それがいいと思います」
複雑そうな浪の表情に、レミアは少し苦い顔で話す。
「最低、ですよね。 あれだけのことをして、力を失ったからといって逃げようって言うんですから」
「そんなことないよ。 お前は俺たちなんかよりずっと気張ってやってきた。 あれは結果的にああなっただけで、俺たちにどうこう言う権利はないよ。 ……、文句は憂に言うべきだからな」
「ありがとう……、ございますっ……」
優しい言葉に、レミアは少しだけ涙を浮かべていた。彼女が軽く涙を拭ったあと、三宮が事情説明をする。
「アレクくんはレミアと国へ帰るが、私はこちらに残って栄一の補佐として正式にSEMMに所属することになった。 よろしく頼むよ」
「いいんですか? 三宮さんが一緒の方がレミアも……」
気遣うように言う浪に、三宮は微笑むと明るい口調で返す。
「レミアからの希望なのさ、まだ出来ることがあるなら、栄一たちを手伝って欲しいとね。 それに、こんな状態じゃ恥ずかしくてクレアに会うことはできないからね。 全て終わったら怜士と栄一を連れて会いにいく」
「そういう事なら……、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた浪に続いて、五連星の二人も軽く礼をする。それを見ていた三宮は若干意地悪そうな笑みで二人に声をかける。
「ふふふ、喜んでいる場合じゃないかもしれないぞ? 私も正式な隊員として所属するとなれば、早いところ私を追い抜かなければ君たちの称号を頂いてしまうぞ」
「うっ……、できるだけ善処するぜ……」
翔馬が苦い顔で答えた後、三宮は話題を切り替える。
「さて、あとは君たちでなんとかなるかな、私たちは先に失礼するよ。 明後日からは大体SEMMにいるから、何かあったら手を貸そう」
「あなたたちの無事を祈っています。 どうか、ご無事で……」
その後レミアたちと軽く別れの挨拶を済ませると、浪は地面に転がってプルプル震えているアニマに目を向けた。
「さて……、こいつをどうするか」
「堪忍、堪忍やで……。 血の盟約でやらざるを得んかったねん……、ワイも仕方なく……」
よくわからないことをつぶやくアニマに、アンリが呆れた様子でつぶやく。
「嘘をつきなさい、話を聞く限りノリノリでやっていたようにしか思えないわよ」
「血の盟約……? って何だ?」
怪訝な顔で翔馬が尋ねるが、他の面々も同じ疑問を持っただろう。アンリはひと呼吸おいたあと、真剣な表情で答えた。
「……、前言ったことがあるでしょう? 私は主には逆らえない、そんなことをしても消されるだけだと。 それは大げさな話じゃなく、そういう契約を交わしているからなの。 異界では力の弱いアニマは魔王クラスの大アニマの庇護を受ける代わりにその魂を捧げる……、それが血の盟約よ。 盟約を交わした以上、主の命令は絶対、本能的に反抗できなくなるの。 実際は意志の強いものであればできないこともないけど、それでも必ず粛清は受けるわ」
「アンリちゃんはあんなに強かったのになんで?」
「機械魔一族はみんな、生まれた時から主と契約を結ばれるの。 逃れられるものがいるとしたら……、あの方を超えられるような魔力を持った時くらいかしら。 到底ありえないけれどね。 さて、そんなことよりも早いこと本題に入りましょうか」
説明を終えたアンリは若干冷たい表情で、転がるアニマを軽く足蹴にした。
「ひいぃ、わ、ワイを倒しても元に戻る保証はないで!!」
「わかってるわよ。 でも戻す気がないというなら別に生かしておく必要もないわよね?」
無表情のまま右腕のみを機械化させて炎を纏うアンリにアニマは完全に怯えている様子だ。当事者である雪菜と翔馬も、彼女の迫力に押され若干引き気味である。
「戻す!! 戻しますから堪忍して!! ほれっ……!!」
アニマが焦りながら被害者の二人に向けて淡い光の光線を放つと、光は少し強さを増して二人を包み込み、収まる頃には元通りの姿へと戻っていた。
「おおぉぉぉっ!! やったあぁぁーっ!!」
「元に戻っちゃったな……」
「……、なんで若干残念そうなんですか」
翔馬の態度に一同呆れながらも、ひとまずは目的は達したと言えるだろうか。 アニマがこのまま異界に帰ると言うならば別にほうっておいても実害はないのだろうが、見逃すとしても聞かなければいけないことがある。
「別にあんたには人間界に害を与える程の力もないでしょうし見逃してあげてもいいけど……、その前に答えなさい。 何の目的でここまで来たのかと、そして……、主は誰? まあ、盟約の力で答えられないかもしれないけれど」
「……、盟約で縛られてはおらんで。 ワイの主は部下の命を握るような真似が大嫌いやねん。 だからこそワイらも軽はずみにあの方を裏切るような真似はできへん」
「……、なるほど、いい覚悟だわ」
「でも、あんたが相手なら話は別や」
アニマの覚悟を察してアンリが炎を強めるが、その後に意外な言葉が続きその手を止めた。
「ふふふ……、ワイの主は魔人メジェド。 あんさんもエクスマキナから聞いて知っとるはずやろ?」
「……、っ!? あんたの狙いは何? 任務とやらは……」
「空間術師と接触して、ワイの主がこっちに来る手助けをするよう取引をすることや」
アニマの発言に、一同の顔が引きつった。憂の話題が出たことに反応したのもあるが、それだけではない。
何故憂の力を知っているのかは分からないが、それを利用しようとしているということはつまり、普通にこちらに来ることができないくらいの力を持っているということであるからだ。
「井上、そのメジェドってのは何者なんだ……?」
「……、異界には十柱の王と呼ばれる連中がいるわ。 といっても必ずしも全員がどこかの王ってわけじゃなくて、まあ単純に強い順に並べた上位十体だと考えていいわ。 メジェドはその第七位……、打ち倒すものという称号を持つ異界西方の一部を治める王よ。 好戦的だけれど頭の切れる奴だと聞いているわ」
「異界最強のアニマ、十柱の王……。 そんなもん今戦ったところで勝てるのか? そいつはあの時のお前よりも……」
「当然強いわ。 一応聞いておくけれど、その任務とやらは既に……」
全員が不安な表情で見守る中、アニマはニヤリと微笑み答える。
「ワイが帰ろうとしとった以上そういうことや」
返答を聞き全員が言葉に詰まるが、アニマはそのまま予想外な言葉を続ける。
「でもな……、正直あのガキはあかん。 メジェドの兄さんは直接会ってないからわかってないんやろけど……、ワイはあんなんに力貸すんは反対やねん。 兄さんは認めた相手には最大限の敬意を示す方や。 あんたらがいつか十柱の頂点たる傲慢の王……、ルシフェルに挑み倒す言うんやったら、あの方を破ってみいや!!」
そこまで言うと、休んで体力の戻ったアニマは一気に飛び上がって逃走していった。しかし一同は一瞬身構えたものの、これ以上追うことに意味がないと感じたからか全員が揃って構えを解いた。
もしくは、今はそれよりも考えるべきことがあることを全員がわかっているからか。




