プロローグ〜終わらない輪の始まり〜
ネタバレ有りでもう少し詳しいあらすじを14話前書きに追加しておくので、時間が惜しい方はそちらで合うか合わないか判断していただきたいです。
割と王道っぽい設定です。異世界と不定期に繋がってしまう様になった世界の防衛機関に属する主人公たちの戦いみたいな感じなんですが、途中からちょっと流れが変わります。軽い鬱展開注意?
キャラは無意味に殺したりは嫌いですが、安心感ありすぎるのも嫌なタチなので死人は出ます。
主人公の成長物語の様な王道の中に誰かの心を動かせる様なシーンを入れられる、そんな話にしたいです。
もっと色々な人に伝えたいメッセージを、なんとか見てもらいたいなぁ、と考えた結果がコレです。暇なときに、片手間にぜひぜひ。
愛知県某所、薄暗い通路にコツン、コツンと高い足音が響く。音から察するに、ハイヒールだろうか。通路を出口に向かってゆっくりと歩いている。
通路にある照明は所々切れかかり、不規則に点滅を繰り返す。その通路の両脇には、狭い貧相な部屋が幾つも並んでいる。
刑務所のようだがしかし、部屋と通路を隔てる鉄格子は、異常と言える程頑強だ。まるで、化物でも閉じ込めているかの様に。
ハイヒールを履いた足音の主は、肩までの黒髪に、シンプルな髪飾りをつけた、スーツの女性。薄暗い為、顔はよく見えない。
女性は、後ろに高校生くらいの少年を連れていた。髪は伸びっぱなしで、たとえ照明がきちんと照らしていても表情がわからない程に長い。服はボロボロで、囚人に見える。しかし、拘束具の類は何一つ無い。
二人が歩く姿はどう見ても異常であった。
しかし、職員と思われる青系の制服に身を包む男たちは、髪飾りの女性とすれ違うと、例外なく深々と頭を下げていく。
異様な二人組はそのまま、外へ出る為に通路の先の扉を開ける。するとその先には、先ほどの男たちと同じ制服を着た男がいた。
しかし、その反応は全く別の物であった。
「き、貴様何者だ⁈ 何処からどうやって入った!? 後ろにいるのは11番の部屋の……!」
女性はふぅ、と軽く溜息をつき、男の目をまっすぐ見つめると、
「11番の部屋は、空き部屋でしょう?」
男の発言と全く噛み合わない発言をする。しかし、男が反論する事はなかった。
女性と目が合ってから硬直したまま、焦点の合わない目をしていた男は、
「も、申し訳ありません!! 疲れてるのかな……」
頭を下げてそんな事を言うと、頭を掻きながら踵を返し、持ち場へと帰っていく。
「私はあなたに自由を与えてあげられるわ。あなたは幸せに生きる権利がある。望むのなら全て忘れさせてあげるわ。世界中の人間から、あなたの罪の記憶を……」
真っ直ぐに前を見つめたまま、髪飾りの女性は、後ろに付いて歩いている少年に語りかける。小さな声で答える少年は、笑っているように見えた。
「今更幸せになるのは不可能だよ。 僕はシャーデンフロイデ、頭のおかしいクズ野郎さ。 自分の成功より、ふとしたことで他人が不幸に陥る姿が何より心休まる。 でもそれもここまでだ」
髪の隙間から覗く、深淵のように底知れぬ濁りをたたえた瞳で、少年は振り返った髪飾りの女を見つめニヤリと微笑み口を開いた。
「今日から一人残らずこの奈落まで叩き落としてやるのさ……、この手でね。 地球の裏側まで、虫一匹逃しやしない」
その言葉に、無表情を貫いていた女の顔が少し曇ったように見えた。
しかしその表情は不快感や恐怖のたぐいではなく、何故か悲しそうなものだった。