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・・・ヨミは確かに、戦いの天才だった。盗賊達を倒してから二週間。ヨミに“運命”を聞き出されたから一週間経った。あれからオレは、ヨミに戦いの指導を受けている。
「・・・甘い。その程度では、僕にかすり傷一つつけることはできないよ?」
「ッ! まだまだァ!!」
渾身の一撃をヨミにあっけなく躱され、砂場に手をつくオレ。目的地であるスーラ村に向かいつつも、現在はユルド海に面した砂場で戦いの修行をしている。
「はああァ!」
「温い。僕の“幻影”もそれじゃ、宝の持ち腐れだよ。」
ヨミの指導を経て、オレは模倣した“幻影”を少しずつ使えるようになっていた。・・・とは言ってもヨミと違って分身?のようなものは1体しか出せないし、『命令』も使うことができなかった。・・・何故だ。
「ふぅ。・・・ちょっと休憩しようか、サトリ。」
「はあはあ・・・ん、分かった。」
・・・というか、オレは異世界に来て何をしているんだろう? 本来なら、元の世界に変えるための方法を探したり、もっと必死に生きるために何かすべきなんだろう。でも、そんな気は全然起きない。なぜなら、元の世界では上司にいびられ、全く将来が見えない生活をしていたので、戻る気がさらさら起きない。そして、それ以上に絶世の美少年ともいえるヨミと一緒にいるのが楽しかった。
「・・・なぁ、なんで戦いの仕方を学ぶ必要があるんだ?」
「ん? そうだね、まず“運命”の担い手となった者は、その“運命”に見合った『試練』を与えられるという。その『試練』を乗り越えたものは様々な財や栄光を手にすると言われるが、『試練』を乗り越えるためには、強くなくてはいけないんだよ。」
「ふーん、そっか。」
「ちなみに、僕も『試練』はまだ受けていない。『試練』を乗り越えた者の例を挙げれば、『黒の兵団』のリーダーや『帝国』の最強騎士辺りが有名だろうね。」
「へぇ、そうなんだ。」
ヨミの話をほどほどに聞きつつ(オレは過剰な財や栄光に興味はないのだ。むしろひっそりと生きていきたい。)、ヨミからもらった軽食のビスケットのようなもの(ビーライ菓子というらしい)をつまむ。
「ん? 真面目に聞いているのかい、サトリ?」
「え、ああ、もちろんだよ、ヨミ!」
「・・・ならいいよ。さぁ、そろそろ再開しようか。」
そうして、ヨミと“幻影”の使い方を修行しつつ、修行から二週間経つ頃には、『命令』の劣化版スキルである『お願い』を取得したのだった。