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「・・・いや、そこまで使い勝手のいいものでもないよ。」
・・・盗賊達を倒して数日後、オレとヨミは川沿いを一緒に歩いていた。先程の状況を詳しく聞いていたのである。
「まず、僕の“幻影”は他人の五感を錯覚させて、視覚や触覚を誤認させることはできる。しかし、脳にまで錯覚させるのは僕の負担が大きくてね。せいぜい『命令』が下せるのは1日1回程度さ。」
ヨミの話を聞くと、この世界では“運命”という名前のスキルがあるそうだ。これは10歳前後の子供が、神様に選ばれる祝福のようなもので、この世界の偉人や英雄は皆“運命”を担っているそうだ。
「・・・そういう君もなにか“運命”を担っているんじゃないのかい?」
ヨミの言葉にドキリとする。実はヨミの戦いを見た日の夜、脳裏に言葉が浮かんできたのである。
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『おめでとうございます。神の祝福を受けました。“運命”を授けられます。』
そうした言葉が浮かび、頭の片隅に浮かんできた単語を見た。・・・それは“模倣”。
現実世界のオレは、3年目の社会人として働いていたが、ほとんど取り柄もなかった。そんなオレが唯一長所?といえるのが、人の真似をすることだった。・・・物真似じゃないよ? オレは昔から人の真似をすることが多かった。勉強の仕方や人との接し方、仕事のやり方なんかもそう。自分より上手い奴からどんどん盗んできたと思う。だからだろうか? こんな“運命”に選ばれたのは。
「“模倣”・・・大体想像はつくけど、どんな能力なんだ?」
頭の中で“模倣”を使うと念じる。
「・・・あれ、何もできない。これってもしかして欠陥スキル!?」
その後も何度もあれこれと“運命”を使おうと試みたが、結局何も出来ずじまいだった。
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「いや、あはは・・・。そんな、オレに“運命”なんてあるわけがないよ。」
冷や汗をかきながらオレはヨミにそう答える。別に隠す必要はないのだが、自分でも使い方が分からないし、しょぼいスキルだったりしたらかなり恥ずかしい。・・・そんなオレを、目の前の美少年はじっと見つめる。
「ふん・・・僕に隠し事をしようとしても無駄だぞ。なにせ、僕には“幻影”の力がある。」
「えっ・・・まさかそんな、くだらないことで“運命”使うわけ!?」
「そのまさかだ。・・・『命令』する。サトリよ、『君の“運命”を教えてくれ』。」