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・・・盗賊。いや、どこかの小説ならカッコよく主人公が倒す展開なんだろうけど。現実世界のオレはろくにケンカなんかしたことない。まして、今のオレは10歳前後の体だ。勝つのはまず無理だろう。・・・つまり、めっちゃ怖い。
「・・・大丈夫だ、サトリ。心配はいらないよ。」
ヨミはそう言うと、そろそろと盗賊に向けて歩き出す。その佇まいはどこかの王子様と言われてもおかしくないくらい神々しく、堂々としていた。
「・・・ああん? ガキが、盗賊頭のこのオレ、ギル様に歯向かうだぁ? ・・・いいぜ、その四肢ぶった切ってひいひい泣かせてやるよぉ!!」
「うるさいな。黙っていろ。」
「ッチ!・・・癇に障るやつだな、お前。・・・ッ!?」
その瞬間、ヨミの体がぶれたように見えた。瞬きの後には、ヨミの体は4つに増えていた。
「な・・・や、やばいこいつ、“運命”持ちだ! 気をつけろ!」
盗賊頭のギルと名乗った男が、仲間であろう盗賊3人に声をかける。
「・・・」
その光景は何と表現したらいいだろう。4人のヨミはほんの少しぶれたように見え、盗賊頭のギルを含めた4人の盗賊は地面に倒れていた。・・・つまり「な、何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたわからなかった」状態である。
「大丈夫かい、サトリ。」
気がついて見れば、ヨミは1人に戻ってオレのところに来ていた。ヨミは何事もなかったように平然としている。
「さ、さっきのはなんだったの?それに、あの人達は・・・」
「ああ、さっきのは僕の“運命”を使ったのさ。あれは盗賊だから、縛ってここから離れよう。」
後で知ることになるのだが、ヨミには“運命”という名の力を持っていて、他人を影から操る“幻影”という力を使えるのだそうだ。この力を使えば、他人の視覚を操って錯覚させたり、他人の脳を操って何でも命令できるのだそうだ。・・・何そのチート能力。