神の選択
人を見届けるは神
神を創るは人
けれど彼女は、
「…見えますか?」
それを
「また、人が」
無視する。
「割れました」
ごぉっ、と吹く赤い砂塵の中で世界を見下ろす黒装束の彼女。
小柄な背中は端の地に腰掛け、片足は右腕を乗せ片足は宙の上。
長い赤紫の髪は一つに結ってあるが、余っている部分が所々砂塵と共に揺れる。
茶髪の彼は黙ってその背からの返答を待つ。
元々人を覽る為のその瞳には何の意味を持たせるか判らない。
「見えますか?」
風に舞う砂利の音と、無音の臭いが不愉快極まりない。
「見えるともさ」
不愉快極まりない世界で、楽しくて仕方がないと笑う。
くくっ、と小さく漏れるその音は果てた世界に不協和音。
なのに、妙にしっかりと溶ける。
人の業、人の因果、
縁、結び
「貴方の導きでしょう?」
人が割れたのは
世界が果てたのは
殺風景な空
宿りのない大地
枯れた
かれた
カレタ
「貴女の、」
茶髪の彼の言葉は、風に消され、代わりに赤紫の彼女の笑い声。
果ての世界は彼女に味方する。
「私のせい、と言いたいか」
吹く風は更に強く
無意味な空は更に暗く
「愚の願い、朽ちた音、腐った縁、畏怖なるものを引き受けるは我が役目、我が因果………お前達がそう定めたのだろう?」
違うか?と言う声は脳にしっかり刻んで
彼は黙り込む。それは肯定の証。
空気は乾く。
見る為の眼は、結局何も映さない。
それでも、この世界は
これでは人が、人の世は
神を創るは人
人なくして神に存在価値はない
「それでも、我が行いが異するならば、人側の神」
お前達が、
「我を導くがいい」
スッ、と立ち上がりながら彼女は言う。
呪いの言葉を
唯一の糸を
無力な神に垂らす
「独りよがりに己が美徳に酔いしれ、己が為にと誰かを愛す人側の神よ、」
行き場のない過ちはどこへやるのか?
せめてもの手向け、花をやろう
もう一度、
一度のみ
彼は目を細める。
それは圧力
全てを無に、
全てを踏み越えて
踏みにじる、存在
彼女は音もなく振り返る。
その際に、結っていた髪留めをとる。
ざぁ、と赤紫の髪が広がり
限りない威圧が一面に彩られる
これが、
「我が歯車を狂わせてみよ、 」
最凶の神
最弱の神は、最凶の神の最後の掠れた声を聞き取ることが出来なかった。