第21話(囮)
「ミノアを引き剥がすのに、オレとフリギアの二人がかりって…」
白髪が多い褐色の髪を一つに結い上げ、露出が少ない、暗色のドレスを着た長身の女性。
ソファーへ姿勢良く腰を下ろし、両手でいささかドレスには不似合いな無骨な扇子を持つ。
「ほほほ、それは大変でしたね」
対面にいる二人から現在までの事情を聞きつつ、微笑を湛える目元には皺が寄る。
黒の応接テーブルが中央に置かれ、壁には絵画が並べられた、全体的に落ち着いた雰囲気を醸す部屋。
「大変、ですまさないでよ」
その部屋に置かれた上質なソファへ、遠慮なく身体を凭れ掛けたドゥールが疲れに満ちた声を上げる。
「マンドラもアレを体験すればいいよ。本当に、疲れたあ」
「おやおや。ドゥール坊、珍しくお疲れねえ」
「坊やじゃないでーす。これでもマンドラと同じぐらい生きてまーす」
「ほほほ、そうでしたね」
抗議の声を軽く受け流し、マンドラと呼ばれた女性は視線を動かす。
「ミノアは落ち着いたかしら。あと、棺桶の彼も」
柔和な目、その先にあるのはドゥールの背後で直立していたフリギア。
女性の問いかけに、彼もまたどこか疲れたように首肯する。
「…なんとか。今来ます。お待たせして申し訳ありません」
「いいのよ、ゆっくりで。ただ聞いてみただけよ、気にしないで頂戴」
「申し訳ありません」
「あらあら。いいって言ってるでしょう?」
手にした扇子を口元へ持っていき、笑う女性。
「珍しく、二人ともお疲れねえ」
「ホント、久しぶりだよ……あ、来た」
ドゥールが耳を動かし、首も音がした方へ、頑強な作りをした扉へと動かす。
つられ、フリギアと女性も扉へ顔を向けた、それとほぼ同時に扉がノックされ…開かれた。