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●第20話(囮)

 人物描写等、相変わらず説明不足な部分が目立つとは思いますが、引き続きよろしくお願いします。

 所々黒ずんだ石の壁が等間隔で並ぶ光景。

 それが見えてきた途端、フリギアは手綱を持つ手に力を込め、ドゥールは嬉しそうにエルフの尖った耳を動かす。


「フリギア! 見えてきたよ! よかったよかった」

「ああ。それでも予定より大分時間を取られたが」

「一応無事に着いたんだからいいじゃん…」


 言いながらもドゥールの視線は黒い幌に固定される。風を受け、はためく漆黒の幌を。

 休憩などで何度か荷物を取るために中へ入った時のことを思い出し、ドゥールは肩を震わせる。


「止めておけ」

「中身は見ないようにしたけどさ、気にならない方がおかしいって」

「あれはどうしようもない。中身の確認は街に入ってからにしろ」

「そだね」


 暴走に近い速度で疾走する馬車を見て、街の入り口に集まる旅人や商人が驚いて道を開け、哨戒に立つ兵士たちが武器を構える。

 距離を測りつつ、馬車を囲い込むように陣形を整える兵士たち。先の町より規模が多いためか、その数も多い。

 彼らの前でフリギアは手綱を操って馬車の速度を落とし、完全に停車する。


「ドゥール、頼んだ」

「はいはーいお疲れ様ー。お馬さんもお疲れ様ー」


 手綱をドゥールへ渡し、フリギアは強行軍からくる疲労を一片も見せずに馭者台から降り立つ。

 彼の姿を目にした途端、兵士たちは一様に驚きの表情を浮かべ、動きを止める。一部の商人も顔に驚きを張り付かせ、彼へと目を向ける。


「すまない、驚かせたな」

「こ、これは……フリギア様!」


 誰に武器を向けていたのか理解し、血の気が引いた表情で武器を収める兵士たち。

 周囲の人間たちも彼らのその態度を目の当たりにし、好奇心に満ちた視線は外さないものの、警戒を解く。

 弛緩していく空気を気にせず、フリギアは険しい顔で馬車を示す。


「すまないが、急いでいる。最優先で検閲を頼む」

「あ、はい!」

「中にもう一人いるが、彼女のことは放っておいてくれ」

「わ、分かりましたっ!」


 彼の命令に、素早く三人の兵士が馬車の幌へ向かう。

 黒の馬車、そして『彼女』。予想される事態に、兵士たちは各々沈痛な表情を浮かべ中へと足を踏み込み。

 

 すぐさま飛び出した。


「フリギア様っ? アレはなんですかっ?」


 勢いもそのままに、やはりな、と肩をすくめたフリギアへ叫ぶ。その声で、また周囲の注目を浴びる。


「あの、あれは…っ?」

「だから」


 自分たちの立場も忘れ叫ぶ兵士。冷たく応じたのは馭者台に座ったドゥール。

 普段はイタズラめいた光を湛えている目は、冷徹なものへと変化し、見た目には二回り以上の差がある彼らを見下ろす。


「だから急いでるって言ったでしょ? 早く済ませて」

「っ? は、はいっ! 申し訳ありませんでしたっ!」


 完全に血の気が引いた表情で、三人は再度、恐々馬車の中へと入っていく。

 兵士たちを見届け、ドゥールは一転して朗らかに笑う。


「うん、やっぱ中見なくてよかった」

「そうだな」


 そして中から聞こえてきた声に、二人は耳を澄ませる。


「何するの? 死ぬ?」

「い、いえっ、そんなことはっ」

「わ、我々は検閲に、ですねっ」

「触らないで」

「で、ですが、その」

「近づかないで」

「はいっ」

「大丈夫よシアム。ずっと一緒よ」

「………」

「………」


 感情もなく淡々と放たれる少女の声と、怯える兵士たちの叫び。

 無言で顔を見合わせるフリギアとドゥール。互いに苦い表情をしているのを確認する。


「………」

「………」


 数分もせず。数十秒、ほうほうの体で三人の兵士が幌から飛び出す。

 揃って血の気が引いた顔で、それでもフリギアへと身体を向けて頭を下げる。


「も、問題ありませんっ! どうぞお通りくださいっ!」


 中にいるのは荷物と少女と棺桶だけ。なのに街の出入りを任されている兵士たちの顔に浮かぶのは、純粋な恐怖。

 上ずった声で許可を出した彼らへ向け、フリギアは申し訳ない、と頭を下げる。


「先の町で、な」

「うん。それでちょっと彼女、傷心でさ。精神的に不安定なんだよね。急かしてごめんね」


 ドゥールもさすがに同情の調子を帯び、貧乏くじを引いた兵士たちへと謝罪する。

 途端、勢い良く頷く兵士たち。勢いが良すぎ、一人が身体をふら付かせる。


「わ、分かります! 分かりますともっ! 我々が考えなしでしたっ!」

「以後、気をつけますっ!」

「ああ。助かった」


 見事なほど綺麗に揃った敬礼を、鷹揚に受けるフリギア。そのままゆっくりと馭者台に上がり、ドゥールから受け取った手綱を引く。

 ゆっくり動き出す馬車を、兵士たちは痛ましいものを見るように迎えいれる。

 周囲の好奇心に満ちた視線と共に、馬車が街へ入る。

 頑強な、石造りの建物が乱立する街、グリス。そこここを歩く人が、珍しそうに葬列で使用される馬車を眺める。

 街の中を走るだけなら珍しくも無いが、街の外から入ってきたというのが、目を引く漆黒の馬車。


「なんか思うけど、ミノア、ちょっと本気入ってなかった? 一体何考えてんだろねえ?」


 建物と、人ごみを見ながらドゥールは小さな肩をまわす。


「彼女の心中なぞ分からん……ディーゼ家に伝書を飛ばしてある。そちらに向かう」

「はーい。それまでにオレ、シアム起こしとく」

「頼んだ」


 頬を叩き、気合を入れたドゥールが幌の中へ入っていく。

 が。


「ちょっとミノア! それ、やりすぎ! そりゃあ兵士たちも怯えるわけだよ!」


 すぐさま非難の声が響き渡る。その声の大きさと真剣さに、周囲を歩く人たちがぎょっとした様子で立ち止まる。

 ただ、馬車だけが立ち止まることなく進み続ける。


「邪魔する?」


 叫び声に応じるのは、静かな静かな声。あまりにも小さいために、そちらの声は馭者台のフリギアにしか聞こえない。


「邪魔じゃなくて! コレマズイって! 完全にギリギリ生きてる死体じゃんか! 何やってんのっ?」

「え?」

「え? じゃないって! ダメダメ! これ以上魔法使わない!」

「どうして?」

「死んじゃうでしょ!」

「まだ死なない」

「いやいや! もう限界だって! て、なに魔法継続させてんのっ? 解除! か、い、じょっ!」

「花あげるって約束した。だから大丈夫」

「ソレ、ミノアだけの一方的な約束でしょ! わ、ちょっと! シアムしっかりしてぇぇっ?」

「………」


 中で交わされる会話のような何かを耳に入れ、フリギアは馬車の速度を上げる。

 頬に流れた汗を無言で拭い、その手の平に滲んだ汗を見なかったことにして、目的の場所へと馬を走らせる。


 更新ペースは中~遅になると思われます、ハイ。



 ※あらすじはイメージであり、実際の内容と異なる場合がございます。

 ※また、本文は予告なく変更する場合があります。

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