第三夜 星たち
「君たちの話をきかせてよ」
「星のこと?」
僕が頷くと星は唸り声をあげた。
「そのうちね」
星はそれからしゃべらなくなってしまった。
星は僕には見えなくなった。声だけは耳元ではっきりと聞こえる。
僕は不思議な気分だった。
旅をするために、僕は家で荷物をまとめた。
誰かが起きてしまうのではないかと心配になったが、
「絶対に誰も起きない」と星は自信ありげに言った。
星を信じていいのかは正直わからない。
しかし、ここは素直に了承することにした。
家から僕がいなくなる。父さんと母さんの次は僕が。
みんなはどう思うのだろう。トーマは心配するだろうな。
「なにか必要なものってあるの?」
僕に星は見えないので独り言のようにつぶやいた。
どこを向いて話したらいいのかわからないので困った。
「自分が必要としているものだけでいい」
星の声はよく響いた。
自分が必要としているもの。
僕はよく考えた末、家族の写真を一枚と、スケッチブック、僕のお気に入りの笛を持った。
本当に、これだけでいいのかな。
星を信じることにした。
さっきまでは死を覚悟していたのに今はこれから先のことを考えている。
それはとても妙な気持ちだ。
「ねえ」
少し弱い声が出た。
「なんだい」星は穏やかに返事をした。
「これからどこに行けばいいの」
「そうだね、とりあえず村を出る」
「そこからは?」
「願いが教えてくれる」
「…変なの」
僕は家にお別れを言った。僕が生まれた家。僕を守ってくれた家。思い出のつまった家。
「元気でね」
星はなにも言わなかった。
僕は前を向いて村から出た。
一度振り返ってみたけど、後戻りはできないことを実感した。
死ぬかもしれない。先の事を僕はちょっとずつ噛みしめた。
「星さん」
「なんだい」
「星さんのこと、これから僕は星さんって呼ばなくちゃいけないの?」
「……君の呼びたいようにしてくれよ」
「そのうち教えるって言ってたじゃないか」
「そのうち、だ。今はまだ【そのうち】じゃない」
「星さんにとっての【そのうち】はどれくらい先の話なの」
星はため息を吐いた。それもあからさまに。
まるで僕に、呆れた、とでも言うように。
少し泣きそうになる。心がしわくちゃになったみたいだ。
「フュイ、ゆっくりとその時を待つんだ。時間は早く過ぎていくものさ」
そんなのわからないよ。
僕はまっすぐ、道を歩いた。
もうすぐで夜明けだ。