第三夜 伝説
玄関の扉を開けるのが怖かった。
でも、それでも試したかった。
死ぬのなら、皆が恐れる星を近くで見たい。
「動け…っ」
震える手で扉を開けて外に出た。
ゆっくりと一歩一歩歩いた。
トーマの家を見ると明かりはついていない。
星の光以外に明かりは見当たらなかった。
「わ!!」
上をみながら歩いていると目の前に星が落ちてきた。
気を付けて歩かなくちゃ。
「綺麗だな」
歩いているうちに正直な感想をつぶやいた。
*****
歩くのをやめて地面に寝転んだ。
仰向けになって落ちる星を眺めた。
不思議な感覚だ。
これが村の禁忌。こんなにきれいなのに。
眠気が残っているせいか、うとうとし始めた。
いけない、眠っちゃ。
そう感じているのに体が動こうとしなかった。
僕にむかって落ちてくる星が一つ。
ああ、僕の厄か。もうこれで死んでしまうんだな。
思った矢先だった。
「そんなところで寝ていると風邪をひいてしまうよ」
「…だれ」
「そんなところで寝ていると風邪をひいてしまうよ」
僕の耳元で聞こえる声は同じことを繰り返した。
「そんなところで寝ていると風邪をひいてしまうよ」
僕は我に返った。
起き上がると、未だに星が降っていた。
「夢…」
「夢じゃないよ」
夢じゃない!
じゃあ君は誰!!
僕の耳元の声は言った。
「誓いを結ぼう」
「誓い?」
「誓い。僕が君と友達になる誓いさ」
「違う。僕は知ってるよ、流星伝説」
「そう、伝説を知っているなら話は早いよ。僕は星だ。僕の願いを叶えてくれないかな」
僕が星の願いを叶える?
「星の願いって?」
「それは誓いを結ぶまで内緒。そういう決まりなんだ」
「まるで村の掟みたいだね」
星は少し困った声を出した。
「僕は君を選んだんだ。誓い、結んでくれる?友達になろうよ」
僕はもう死ぬかもしれない。
掟を破って禁忌を犯した。
厄は僕を殺しに来る。
「…いいよ。結ぼう」
星は驚いたようだ。
自分から頼んだくせに、返事がくるとは思ってもみなかったみたいだ。
すぐに穏やかな声になって、
「ありがとう」
とだけ言った。
「君の名前は?」
「フュイ。星の名前は?」
「そのうち教えるよ。――――――さあ、旅に出よう。僕の願いと君の願いのために」