第二夜 噂
父さんと母さんが死んだ。
この事実は受け入れがたいことだ。
村の人は皆驚いたし、悲しんだ。
葬式にはたくさんのひとがやってきた。
いとこのジャックもやってきた。叔父さんも伯母さんも、
長く顔を見なかった人たちがわざわざ遠くから来て、父さんたちに別れを言った。
トーマはずっと泣いていた。ガイさんもナンシーさんも、僕に涙は見せなかったけど
僕は知っていた。
二人の目が赤く腫れていることも、隠れて泣いていることも。
学校の子も先生も来た。
皆、真っ黒な服を着ていた。僕には皆同じに見えた。
僕が泣くことはなかった。
悲しいしさびしいけど、
「悲しいときは泣くことを我慢しちゃだめだ。自分に素直になりなさい」
という父さんが言ったことを思い出した。
それと同時に、
「大切なものがなくなっても、自分にとっての大切なものは他にもあることを忘れてはいけない」
という母さんが言っていたことを思い出した。
僕は泣くのを我慢していない。
悲しくて辛いのに、涙は流れなかった。
僕は家族という大切なものをなくしたけど、他にも大切なものはある。
見失ってはいけない。
「父さん、母さん。今までたくさんのことをありがとう」
***
それから僕は、家で一人暮らしをした。
トーマの家に行くことになっていたが、丁重にお断りをした。
僕はここで生まれてここで育った。
父さんと母さんが残してくれたものだから、ここにいたいと。
ガイさんとナンシーさんは、せめてご飯は一緒に食べようと言ってくれた。
トーマは毎日僕の家に来ては「調子はどう?」と聞いてきた。
確かにさびしいけど、苦痛ではなかった。
それも、トーマ家のおかげなのかもしれない。
僕の生活はまるで変わらなかった。
宿題は少しずつやるし、学校にもちゃんと行った。
夜更かしはしなかったし、友達とたくさん遊んだ。
「強い子だね」
って他の大人達によく言われたが、僕はイマイチ意味がわからない。
父さんと母さんはもういないけど、僕が彼らの事を忘れなければいい。
「流星伝説にまつわる話をします」
伝説についての授業。今日はなぜだが、先生がぎこちなかった。
「流星伝説。
―――みなさんはお父さんやお母さんに、星についてのことを聞いていますね?
今日はその星についての伝説です」
先生の言葉にクラスはざわついた。
「星だって」
「きくの怖いなあ」
周りの子は伝説に怯えた。
「今日話すのは、みなさんが学ぶべきことです。村での伝統ですから」
と先生は続けた。
「流星伝説とは、この村に古くから伝わる伝説です。
みなさん、星は何年に一度降ってくるのか、ご存じですね?
―――そう、5年に一度です。
【星ト誓イヲ結。星ノ願イ叶。サレバ星、我願イ叶】
と伝説には記されています。これは、【星と誓いを結び、星の願いを叶える。そうすれば、星は私の願いを叶えてくれる】ということです。
しかし、この村でその伝説、ましてや星を見た者はいません。
…近々、この村には星が降ります。みなさん、どうするべきなのか、わかっていますね」
皆はしゃべらなかった。けど、心の中ではわかっている。
決して起きていてはいけないことを。
***
「今日の先生、怖かったね」
トーマは僕の隣でつぶやいた。
「5年に一度…。もうすぐだって言ってたよね」
「父さんにもそういわれたよ」
「トーマ、怖い?」
「そりゃあ…、ねえ」
「………」
僕らは黙った。これ以上星の話をするのはやめようということだ。
厄をよぶかもしれない。
「そうそう、今夜のご飯は期待しててって母さんが言ってたよ!」
「わかった。じゃあ、7時ごろ家に行くね」
僕らは話題を変えて別れた。
家についてから、僕は伝説について考えた。
「誓い、かあ…」
扉をノックすると、ガイさんが出てきてくれた。
「今夜はなんと…!!」
「クリームきのこスープだ!!」
僕は嬉しかった。懐かしい気持ちだ。
父さんと母さんを忘れないでいてくれるガイさんとナンシーさん、トーマに感謝した。
「そうだ、お前たち」
ガイさんが真剣な顔になった。
僕とトーマは身構えた。
「もうすぐで星が降る夜がくる。…わかっているね?」
もちろん、と言わんばかりに僕とトーマは頷く。
「…明日の夜だ」
「あした…?」
「ああ。お前たちは、もう教えてもいい年頃だ。幼ければ、
星が降る日なんて教えてはいけない。村の掟だ」
「僕らはもう大人ってこと?」
「いや、大人ってわけじゃないが、大人への第一歩、ということだ」
僕はトーマと顔を合わせ、喜びを感じた。
一人前になれた気がしたんだ。
「だからね、フュイ。これは明日の分の夜ご飯。容器に入れてあげるから。
ごめんなさいね、明日の夜だけは一人で食べることになってしまうけど…」
ナンシーさんの言いたいことはわかった。
夜はあまり出歩かないほうがいい、ということ。
僕は礼を言った。