表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恩人≠友達  作者: ID
1/1

無口≠友達

私には夢がある。

それはとても簡単そうで難しいものだった。

そしてたった一人の人間のせいで私はまだこの夢を実現できていない。







私、こと樹木 実 (じゅき みのり)は高校二年生となって、一週間が経った。


新しいクラスになったが、別に関係ない。

何故なら、私はこの学級…いや、この学校で友達ではない人間がいないからだ!!

フッフッフ、誰とでも仲良くなれる。これが私のスキルなのだ!!

フッ、自分のことながら恐ろしい。

入学してくる新入生にも私と友達ではない人間はもういない。

…完璧だ。

後はイレギュラーがなければ、私はこの学校の人間を掌握したことに……。


「転校生、入れ。」


な……何ぃぃぃ!?

て、転校生だと!?

い、イレギュラーが発生した…。


ガラガラと扉を開けて入ってきたのは………男の子だった。


背は低く、中性的な顔立ち…いや、制服が男物であることを確認しなければ性別はわからなかっただろう。


「はい。自己紹介して。」

「…………。」


彼は何も言わず、私達に背を向けて、黒板に自分の名前を書き始めた。


…あれ?それって普通、先生がすることじゃないの?


先生の方を見たら、呆気に取られていた。


あぁ、先生も予想外ってことか…。


私は黒板に視線を戻した。

背伸びをして書いているところを見て、可愛いと思ったのは秘密だ。


イレギュラーの存在が出てきたのは予想外だが、何にせよ、彼も友達にしてしまえば問題じゃない。

なら、まず私がすべきことは彼の名前を覚えることだ。

それが一番の近道だ。


……姫……垣……千……尋?

あれ、なんて読むんだろう?

名前の読み方が分からなかった。

右隣の子に聞いてみた、呆れ顔で千尋(ちひろ)だよという答えが返ってきた。

な、なんですか?

えぇ、頭悪いですよ?

欠点なんてたくさん取ってますよ?

進級できたからいいじゃないですか!!(涙目)

ま、まぁ、名前の読み方は分かったし、姫垣(ひめがき)君か…。

あだ名は姫ちゃんとかがいいかな?

それとも、千尋だから、ちーちゃん?

なんか、女の子っぽいあだ名になるのは仕方ない。

だって女の子みたいだもん。


書き終えた彼は無表情で私達の方向に向き直り、ペコリと頭を下げた。

どうやらよろしくという意味らしい。

私も釣られて、ペコリと頭を下げた。


頭を上げて、真っ直ぐに私の方向に来て、チョコンと空席だった私の左隣の席に座った。


…質問タイムとかは?







一時間目が終わり、休み時間。

転校生君の恒例である質問タイム。

ワイワイガヤガヤと彼の周りに集まって来る。

フッ、この時を待っていた。

私が見たところ、彼は無口だ。

質問ばかりされて困っているはずだ。

そこで私が登場し、彼にイイ人という印象を付けるのだ。


「こらこら、転校生君が困って……ってあれ?」


…いなかった。

話題の中心の彼が、その席にいなかった。


一体どこに…?


ガラガラと扉が開き、その方向を向いてみると………彼がいた。

…一体どこにいたんだ?


キーンコーンカーンコーン


しかもタイミングを見計らったようにチャイムが鳴った。


…何者だよ?







二時間目…。

紙に質問を書き、隣の席の彼に渡してみることにした。


まず手始めに……『休み時間、どこにいたの?』でいっか。


早速、ツンツンと彼をつついてみた。


「……?」


目が合った。

今思ったが、彼に感情はあるのだろうか?

さっきからずっと無表情だ。

というよりも、無駄なことには力を使わないっていう雰囲気…。

…まぁ、いっか。

私は友達になれれば別にいいし。


彼に紙を渡してみた。


「………?」


少し首を傾げるも、受け取ってくれた。


よし、と思い、前に向き直る。

黒板を見る………わ、わからん。


「樹木、これを答えろ。」

「えっ……。」

「あぁ、すまん。」


…すまんってなんですか……先生。


「これわかる奴……。じゃあ、転校生。」

「………。」


……無言のプレッシャー。


「……あ、あぁ、すまん。」


先生が負けた…。


本当に何者なんですか……姫垣さん。


っと、返事が返ってきた。


何々、『黙秘権を使います。』


………えぇ、分かっていましたよ。

どうせ、答えてくれないだろうと思っていましたとも。


でも返答をしてくれたのは予想外だ。

無視する可能性もあったからね…。


紙で返答してくれるのが分かったし、もう一度…。

『なんで転校して来たの?』


ツンツンとつついて、渡す。

横顔が可愛いと思ったのは秘密だ。


一番聞きたいことはあるけど、まず手始めに答えやすいものをセレクトするべきだ。

とりあえず、これなら答えてくれる筈…。


『何も答える気はないです。それと勉強してください。先生もこちらを見てますよ。』


はっ、と思い、前を向く。

手遅れだった。


「樹木……転校生に質問をするのはいいが、休み時間にしろ…。」

「は、はぃぃぃ!!」


こ、怖いよぉ。

先生の後ろに般若がいるよぉ。


「次は体育か…。よし、樹木と転校生、授業の準備はお前達がしろ。」

「えぇ!?」

「………。」

「なんだ?嫌か?折角、転校生と仲良くなれる様なイベントを用意してやったんだ。感謝しろ。」

「ありがとうございます!!」

「………。」


さすが先生。

私としては彼と二人きりになれるなんて願ったり叶ったりだ。


「よし、ついでに樹木、前の問題解け。」

「………。」


……酷い。







二時間目が終わり、休み時間…。


私と転校生君は体育の授業の準備中。


「ごめんね。私のせいで。」

「………。」


さっきからこの調子だ。

彼は黙々と準備をしている。

意外と力があって、重たそうなものを頑張って運んでいる。

なんか懸命な姿に乾杯。

私はというと小道具的なものばかり運んでいる。


なんか申し訳ない。


準備が終わり、体育準備室で一休み。


「終わったぁぁ。」

「………。」

「…何か喋りなよ。」

「………。」

「うーん。質問していい?頷くか首を横に振って。」

「………。」


…頷いた。


「よし、それじゃあ質問するね。独りっ子?」


横に振った。


「兄弟いるんだ?」


頷く。


「ふーん。お兄さん?」


頷く。


「お姉さんもいる?」


頷く


「じゃあ弟は?」


頷く。


「妹さんは?」


頷く。


「結構家族がいるんだね…。」


頷く。


「じゃあ次の質問…。」

ガチャン


「……へっ?」


嫌な予感…。


恐る恐る、扉の方を向くと…。



…閉まっていた。


「嘘ぉ!?」


扉に手をかけて、開けようとする。



…開かない。


「嘘でしょ。」


ガックシと首が下を向く。


「どどどどうしよう。ま、まずいって…。」

「…落ち着きなよ。」

「こ、こんな状況でどう落ち着け……って、えっ?」


さ、さっきの声、誰の声?


彼の方向を見る。


「さ、さっきの声、君の…?」


頷く。


「嘘ぉ!?」


横に振った。


「ね、ねぇ、もう一回、もう一回でいいから、喋って!!」


興奮した私は自分より少し背の低い彼の肩を掴んで…………押し倒した。


必然的に私は彼に馬乗りになる訳で…。


でも興奮している私はそれに気づかない訳で…。


ガラガラ


「あっ、い………た?」

「み、実……大胆ね…。」


こんな状況見られたら、完璧に勘違いされる訳で…。


「へっ?あ、いや、ちが…。」

「どこが違うの?どこからどう見ても姫垣君を襲って、興奮しているようにしか見えないよ。」


状況を把握した私は彼の上から退いた。

顔が真っ赤になっているだろう。


彼を見たら、相変わらずの無表情だった…。

…普通、何かリアクションがあるでしょ…。

…私では興奮しないということ?


ムカッとした。


「………。」


彼は無言で立ち上がった。

少し私を睨んだ感じがした。


「…実さんは僕を襲った訳じゃないと思うよ。」

「えっ?」


またこの声…。

なんだか神様から授けられた様な美しく透き通った声…。

男の子の様な低い声じゃないけど、女の子みたいに高い声な訳でもない。

一人称は僕なんだと思った。


それだけ言って、彼はここから出ていった。


「ねぇ、実…。」

「う、うん。」

「彼……喋れたんだね…。」

「う、うん。」







キーンコーンカーンコーン


お、終わった…。


あの後は話しかけにくくて全然話してない。


とりあえずここの空気から解放されたい…。


足早に教室を出て、階段を降り、学校から出る。

部活?入ってるけど大体自由だからね。

今日は休むってことで。






「はぁ。」


あぁ、なんでこんなことしてるんだろう。

私の目の前にいるのは、今日転校して来た彼。


帰ってる途中で見つけて、今日のこと謝りたいと思ってるんだけど…。

…なんて言えばいいんだろうって悩んでて、でも見失う訳にもいかなくて…。

なんだか、ストーカーしているみたいだ。

…どうしよう。


あっ、曲がった。


あれ?見失った。


………帰ろう。

明日謝ればいいよね。







……家の隣にこんな豪邸あったけ…?


私は愕然とした。

だってそうでしょう!?

昨日まで隣の家は普通の民家だったのに…。

ヤクザの(らしきもの)がいきなりドンとできてるんだよ!?

朝まではちゃんと民家だった筈だよ!?

一体何が…?


もうワケわかんない。

まぁ、いいや。

家に入ろう。


ガチャ


「ただいまぁ。」

「お帰りなさい!!ねぇ、お姉ちゃん聞いて聞いて!!学校にね、転校生が一杯来たんだよ!!」


これは弟の竜也(たつや)

中学三年生だ。


「へぇ。こっちにも一人来たよ。」

「へぇ。それでさ、それでさ!!」

「何?」

「何人来たと思う?」

「三人?」

「ブッブー。五人だよ!!五人!!凄くない!?一年に男の子と女の子が一人ずつ。二年に男の子が一人。三年に女の子が二人来たんだよ!?」

「ふぅん。それで、その転校生の中に可愛い子でもいたの?」

「うっ……。」


図星かい…。


「ふぅん。そうなんだぁ。」

「い、いや……そ、そうだ!!お姉ちゃんのところにはどんな子が来たの?」

「ん?…男の子で無口な子。中性的な顔立ちで可愛くてさぁ。あっ、それと声が凄く神秘的だった。」

「ほほぅ。お姉ちゃん、惚れたの?」


ニヤニヤしながら竜也は聞いてきた。

少しイラついたので頭をスパコーンと叩いておいた。


「痛っ!!…お姉ちゃん、図星だからって頭叩くのはダメだよぉ。」


もう一度叩いておいた。


ピンポーン


インターホンが鳴った。


「あぁ、はいはい。」


すぐにガチャリとドアを開ける。


そこには(ヤクザみたいな)がニコニコして立っていた。


一歩退いた。

竜也を見たら、放心状態になっていた。


「どうも。隣に引っ越して来ました。ニコニコ組です。これ、つまらないものですが…。」


差し出されたのは『男なら!!男らしくしろ!!まんじゅう』というネーミングセンスも糞もないものだった。


…これをどうしろと?


「これから御隣ですので、以後よろしくお願いします。」

「あぁ、はい。よろしくお願いします。」


バタン


「はわわわわ。お姉ちゃん、お姉ちゃん!!ヤクザだよ!?本物だよ!?初めて見たよ!?」


さっきまで放心していた竜也(ヘタレ)が復活した。


「……はぁ。」


これからどうなるのだろうかと思った、今日この頃だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ