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立ち上がった若者が、荒れた庭内を進む。 枯れた噴水の傍を見下ろすと、倒れていた老婆がうっすらと目を開けた。
「……し……て、ころ……して、ねむ……らせ、て」
「嫌だね」
唾を吐くように言い捨てると、老婆は唇を慄かせがくりと首を落とした。
途端皺だらけの肉が砂となり、中から古い骨が現れる。
「俺のこの命が続く限り、貴様に安息の眠りは渡さない」
目に落ちかかる金髪を鬱陶しげに掻き上げ、若者は黒ずんだ骨から目を背けた。
嘗ての帝国の王女。
精霊の褥を荒らした元凶の娘であり、不本意な婚姻を結んだ汚らわしい相手。
そして同時に、彼女の身体は、精霊に捧げる命から穢れを濾し取る、重要な役割を果たしていた。
若者は、慣れた足取りで中庭を後にする。
――いつか、遠い未来。
精霊が今度こそ大地に溶け込み、荒地に命が芽吹いたら。
「その時は、また会えるだろうか……」
今も精霊の元で、その眠りを見守る君に。
祈るように目を閉じて仰向いた若者を、降るような星空が見下ろしていた――
―終―




