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建物を目指す一同の足は軽かった。 昨日まで不満たらたらで歩いていた男たちも、今日は嬉々として石化した木々を薙ぎ払っている。
進むにつれて、森の様相は変わっていった。 巨木が減り、なだらかな空き地から人の手の跡が伺える区割りの跡へと進む。
崩れた塀に囲まれた街の跡地は、建物の残骸が雑然と並んでいた。 風化した瓦礫の山に、乾いた風が吹き付ける。
「生き物の気配は、ありませんな……」
油断なく剣の柄に手を掛けながら、グロスが辺りを見回した。 グロスの部下たちは、我先に瓦礫の山に駆け寄り、金目の物を探している。
リュシアンは侍従と護衛を従えて、予め目星をつけていた街の奥へと、真っ直ぐに向かった。 崩れ果てた辺りの家々とは違い、最奥に見える建物は建造物の形をよく保っていた。
リュシアンの予想通り、建物は王城のようだった。 塀や堀は砂に埋まり、辛うじて残った門は表面が風化してざらついている。 中庭から見える建物も、屋根が落ち上階が崩れているのが分かった。
「中に入るのですか?」
侍従の問いかけに、大きく頷く。
「中がどうなっているか……探索はグロスたちに任せて、坊ちゃまはここでお待ちになっても」
「坊ちゃまはよせ」
鋭く見返すリュシアンに、侍従は口をつぐんだ。 そのままグロスを呼び、探索に向かう人数を集める。
踏み込んだ城の中も、外に違わず荒れ果てていた。
落ちた屋根や窓枠から遠慮なく入り込んだ砂や灰が、室内のあちこちにうず高く積もっていた。
壁の漆喰は剥がれ落ち、ざらざらした石組みがむき出しになっていた。
壁を飾っていた絵画や家具などの名残らしい炭化した木片や錆びついた金属片が、砂山の中に埋もれている。
男たちの一人が砂山を掻き分けて、元は装飾品らしい石の塊を掘り出した。 お宝の気配に他の男たちも目の色を変える。
仕事を放り出して砂山に群がる男たちを尻目に、リュシアンは更に奥へと足を向けた。 後には侍従とリュシアンの護衛、そしてグロスが続く。
「お前も宝探しに行かなくて良いのか?」
半眼を向ける若者に、グロスは禿頭のこめかみをかいた。
「……俺たちが受け取ったのは、ルシさまの露払いですからねぇ。 一人くらいは残らないと」
「……勝手にしろ」
顔を背けて足を運ぶ若者の後を、グロスが足早に追いかける。
その足がふと止まり、目線がちらりと背後に流れた。
「……気のせい、か」
首筋をぴしゃりと叩き、グロスは再び前を向いて歩き出した。




