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砂の都が眠る夜に  作者: たかのふ


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2/5

「本当にこの先に行くんですかい?」


 巨躯を縮めて、グロスが言った。 荒野の支配者を気取っているくせに肝の小さい男だと、リュシアンは腹の中でせせら笑う。

 古地図を手にした若者の視線の先には、立ち枯れて半ば石と化した巨木が、隙間の見えないほど並んでいた。

 荒野を我が物顔で跋扈していたならず者たちも、流石にこの奥まで足を踏み入れたことはない。 ここから先は、真に未踏の地と言って良かった。


「私共が依頼したのは、この土地の案内と露払いだ。 前金分はきちんと働いてもらおう」


 にべも無く答える従者の横で、リュシアンは死の森に目を向けた。 馬車が通れるような道はない。

 馬と馬車の世話に奴隷を数人残し、一行は森に足を進めた。

 運の良いことに、森の一角に一筋の小川が流れていた。 古地図には記されていない川だが、これを辿れば飲み水に困らなくて良さそうだ。

 石のように立ち枯れた森の木々は、見かけに反して脆く、少し力を込めるともろもろと崩れた。 舞い上がる砂に視界が濁る。 砂利交じりの砂に足を取られ、時には泥濘に膝まで埋まった。

 不思議なことに、森の中では魔獣の姿までがふつりと消えた。 荒野では得られた新鮮な肉が手に入らなくなり、不味い携帯食で飢えを凌がざるを得ない。


 森の奥に進むにつれて、グロスの子分たちから不満の声が上がり始めた。

 乏しい食糧の配分に始まり、休憩時間の見張りや野営の割り当て。 これまでは奴隷にやらせていた仕事を、自分たちがやらなければならない鬱屈。

 リュシアンを守る騎士たちは、あくまでも護衛に徹し作業に加わることがない。 詰め寄る男たちを宥めるグロスの顔にも、不審と不満が見え隠れする。


 三日三晩の道行きの果てに、一行はぽかりと拓けた場所に出た。

 リュシアンが目指す皇都の場所とは、かなり外れた位置になる。 水の側から離れたくないグロスたちと散々揉めた末に、リュシアン側が妥協した結果だ。

 これまで辿ってきた小川の源らしい、池ほどもある大きな泉が湧いていて、その一帯だけは背の高い雑草が生い茂っている。

 数十日ぶりに目にした緑豊かな光景に、リュシアンの機嫌も上向いた。

 一行が泉のほとりで一息つく中、リュシアンはぐるりと周りを見渡した。 沈みかける夕陽に向けた目が、軽く見開かれる。


「爺や」

「……なんですかな?」

「あれが見えるか?」


 指輪のはまった指が指し示す方向に顔を向けた侍従の目にも、それが見えた。

 立ち枯れた木々を透かして、人の手による建物らしい影が。


「あれは……あれが?」

「いや、違う」


 息を荒げる侍従に、しかしリュシアンは頭を振る。


「あれは、俺の目指す皇都の宮殿ではない。 恐らくは周辺にあった街か属国の建物だろう……だが」


 調べる価値はあるだろう――にやりと笑う若者に、侍従も同じ笑みを返す。

 地図の正確さは確認できた。 明日からの首尾によっては、今回はここで引き返しても良いだろう。 次はこの泉を拠点として、探索の幅を広げるのも――

 ほくそ笑みながら、リュシアンは侍従を従えて野営の陣に向かった。

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