04. 不気味な管理室
幸い、会社の残業文化はあまり根付いておらず、時間通りに退勤しても上司に咎められることはなかったので、彼女は毎回6時か7時頃には寮に戻ることができた。
今のところ、寮の指示にある黄色い服の男、鐘の音、名前の呼びかけには一度も遭遇していない。
葉珊珊は安堵のため息をつき、この場所に住むほどに慣れ、アシーがそこにいることに安心感を覚えた。
夜にアシーの本名を呼べないため、日中でも彼をそう呼び、彼も彼女をシャオウーと呼ぶようになった。彼の柔らかい口調は耳をくすぐり、葉珊珊の心をじんわりと刺激した。
北区のオフィスで働く彼女と、南区にいるアシー、そして中区にある寮は、双方にとってちょうど便利な位置にあった。会社では会えないため、寮で過ごす時間が貴重だ。
ガールフレンドがいないと分かっている彼に、葉珊珊は頻繁に夕食を誘い、小さなテーブルで向かい合いながら食事を楽しむ。彼のスキルを褒める声を聞くたび、頬が熱くなるのを感じた。まるで新婚のような幸福感に包まれ、告白のタイミングもそろそろだと心の中で思った。
そんな小さな幸せを抱えながら金曜日を迎えた。
その夜、同僚とカラオケに行き、いつもより遅く寮に戻った葉珊珊は、洗濯を終えると柔らかいベッドに倒れ込み、目を閉じて眠りに落ちた。
真夜中、ぐっすり眠っていたところ、突然耳元に鐘の音が響いた。
「誰の電話……?」
不満げにつぶやきながら、上の階の住人が起きていて、夢を邪魔しているのだと思い、布団を頭までかぶった。
すず…すずすず…
ベルの音はますます重く、我慢できずに目を開けて起き上がると、無意識に天井を見つめていた。
「眠らせてくれないの?」怒りを込めて声を出したが、反応は返ってこない。
スズリン、反逆…
「■■■。」
「■■■。」
名前を呼ばれ、唖然とした瞬間、足の裏に冷気が走り、肌に鳥肌が立った。
二階の電話ではなく、家の外から誰かがドアをノックして名前を呼んでいるらしい。
恐怖に震えながら布団を抱きしめ、ドアの外の人に起きていることが悟られないよう、電気はつけなかった。
カチッ、カチャカチャ…
ドアノブが激しく揺れ、まるで侵入しようとするかのような騒音が続く。
「バブッ!」
抑えきれず叫んで唇を強く押さえ、相手に聞かれないよう心の中で懇願した。
「■■、探してるから早く出て……」
しかしドアの外からは、男の声も女の声も聞こえなかった。
彼女は後ろに縮み、口を覆ったが、歯のガタガタいう音は止まらなかった。
このドアは十分に厚くて頑丈だろうか? 誰かがドアを破って入ってくるのではないか? 鍵を開けられて侵入されたらどうなるのか? 恐怖で頭が真っ白になり、体は硬直して動くのもままならなかった。
「■■、出てきて……」
その瞬間、まるで体にかけられた呪縛が解けたかのように、彼女は慌ててベッド横の低いキャビネットに手を伸ばし、携帯電話を探そうとした。しかし最初に触れたのは、一枚の紙だった。
寮の指示である。
彼女はそのうちの2つを思い出した。
夜に誰かがあなたの名前を呼んでも反応しないこと。
真夜中にドアの外で誰かがあなたの名前を呼んでも、聞こえなかったふりをするか、管理事務所に連絡すること。
「管理室……そうだ!」
命綱を見つけたかのように、彼女は慎重にベッドから起き上がり、できるだけ物音を立てず、壁に取り付けられたマイクを手に取り、管理室の番号を押した。
ビープ音が鳴り、2回鳴ってから管理室に通話がつながった。
「えっと、えっと、私は505号室の住人です。誰かが部屋に侵入しようとしていて……助けてほしいんです!」
恐怖に震えながら、彼女は必死に訴えた。
「親愛なる住民の皆さん、こんにちは。ここは管理室ですが、管理者は12時以降不在です。この電話はどなたに転送しますか?」
マイクからは、無機質で機械的な声が聞こえてきた。
「え……何?」
彼女は目を見開き、驚いた。
助けを求めることができるのでは? 管理者が不在? この寮は確かに24時間有人のはず……
「親愛なる住民の皆さん、この電話はどなたに転送しますか?」
機械的な声がもう一度尋ねた。
「504! 504号室!」
必死の思いで、彼女は隣人の部屋番号を叫んだ。
「わかりました、今すぐ転送します。」
彼女はマイクを握りしめ、もし間違えればドアが乱暴に開けられるのではないかと恐怖に震えながら、ドアの方向をじっと見つめた。
外の音は不気味だが、彼女には時間が極端に引き伸ばされているように感じられた。
「■■■、■■■、早く返事をしてください!」
ドアの外からの叫び声の中で、ついにマイクから天使のような声が聞こえてきた。
「……こんにちは?」
「アシ、アシ! 誰かが私の部屋の外にいるの! どうしたらいいの、どうしたらいいの!」
パニックになった彼女は声を張り上げ、外の人に聞かれることなど気にせず、アシーに向けて叫んだ。
「家の中では動かないで。僕が先に出て様子を見てくるから」
アシーは命令するように言った。
彼女の声は少し安心するもので、縮こまっていた心の半分がふっと解放されるようだった。
彼女はうなずきながら、「ああ、気をつけないと……」と真剣に答えた。
緊張のせいでドアを見つめ続けていたが、名前を呼ぶ声はだんだんと静かになり、ドアノブを回す「カチッ」という音も消え、残ったのは断続的に響くノックの音だけだった。
やがてそのノックの音も消え、耳を澄ませると、本当に何も聞こえないことに気づいた。
大胆にも、彼女はそっとドアに近づくと、その瞬間、再びノックの音が響いた。
「あっ!」
悲鳴を上げ、後ろに飛びのいた彼女は、震えながらドアを見つめた。
「怖がらないで、僕だよ。ドアを開けていいよ」
アー・シーの声がドアの外から聞こえた。
彼女は待ちきれずにドアを開けると、廊下の小さな明かりの下で立っているアー・シーのハンサムな顔が、信じられないほど優しく見えた。
「ああ、シー……」
息を詰めながら彼女は前に駆け寄り、両手で彼を強く抱きしめ、涙が抑えきれずに流れた。
「大丈夫、大丈夫、僕がここにいる」
アー・シーは彼女の背中を優しくたたき、額にキスをし、髪に手を滑らせて、涙にそっとキスをした。
温かい感触が彼の唇から来ていることに気づいた彼女は、思わず顔を上げ、つま先立ちになり、自然に彼にキスを返した。
一瞬驚いたアー・シーだったが、すぐに優しく応え、柔らかい舌で彼女の口を探り、しばし心ゆくまで触れ合った。
アー・シーは腰に腕を回し、彼女を家の中へ導いた。ドアは施錠され、外の光は遮られていた。
暗い中でも、彼は彼女をベッドサイドまで送り届けた。
背中がベッドに押し付けられると、情熱的なキスは一度中断され、彼女は寄りかかるアー・シーを見上げた。
彼の影が優しく彼女を包み込み、安心感を与える。
「私のベッドは広いです。一緒にいてくれませんか?」
彼女は勇気を出して尋ねたが、先ほどのキスで心臓はまだ激しく鼓動していた。
「もちろん」
彼は頷き、再び唇にキスをした後、掛け布団をかけて彼女の隣に横たわった。
彼女は彼の手を握らずにはいられなかった。
少し冷たい手の温度が、不思議と彼女を安心させる。
静かな夜、互いの呼吸を聞きながら、彼女は目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていった。