第98話 花魁の本能
「そんなことを言われるとねえ……」
お蔦はビールを誠に手渡しながら誠の手を握ってきた。誠はその色気のあるしぐさにどぎまぎしながら切れ長のお蔦の目を見つめた。
「お兄さん。ズボンを脱いでちょっとしゃぶらせておくれよ。アタシも花街一の花魁と呼ばれた女だ……その味。味わってみたくないかい?大丈夫、しゃぶるだけだよ。一回出したらおしまい。それはもうおいしい味がするんだろうねえ」
そんな言葉をかけられた誠は顔を真っ赤にした。
「何を言ってるんですか!ここは何時からピンサロになったんですか!断固としてお断りします!」
誠の童貞としてのプライドがそんな言葉を口走らせていた。
「ふーん。それはお蔦さんも誠君のものには興味があるね。花街の太夫の技。今後の参考になるかも知れない。誠君。僕からもお願いできないだろうか?」
二人の様子を見ていたかえではワインを傾け鶏の刺身を口にしながら妖艶な笑みを浮かべて誠に迫ってきた。
「かえでさんまで!僕とかえでさんは『許婚』でしょ?その男が他の女に取られようとしているんですよ!そこは断固として拒否するのが当然でしょ!」
誠はそう言いながらお蔦の手を振りほどきかえでに向き直った。
「そうかな?僕はこれまで多くの男性に抱かれてきた。そんな僕だから経験の少ない君を縛る権利はない。それに花街の花魁のテクニックには僕も関心がある。誠君の童貞は譲れないが、初めて口でされるのはすでにリンで経験済みなんだろ?だったら最上級のテクニックと言うモノを今更味わっても良いんじゃないかな?そして、僕と結ばれた後、お蔦さんと寝て太夫の技と言うモノと僕の技を比べて見て欲しい。お蔦さんの技の取り入れるべきところは僕も取り入れる。そして君を最高の快楽に導ける女になる……僕は何事にも努力と勉強を惜しまない女なんだ」
かえではそう言うと誠のズボンのベルトに手を伸ばした。
「変態やめろ!ここはそんな店じゃねえ!それとお蔦。そんなに神前と寝たいのか?それは不倫だ!この国じゃ社会常識的にアウトなんだ!そんくらい覚えとけ!」
飲んでいたショットグラスのラムをカウンターに叩きつけるとかなめが叫んだ。
「でも、新さんなら別に気にしないんじゃないの?あの人、女を自分に縛り付けるほど自分は立派な男じゃないって言うのが口癖だったから」
突然の春子の言葉に一同の視線は春子の方に向った。
「やっぱり……春子さんと隊長はそんな関係に……でも……それって自分の浮気を正当化する隊長お得意の『詭弁』よね」
アメリアはビールを飲みながらあきれ果てたようにそう言った。
ただ一人、カウラは話の展開とその状況が全く理解できず、固まったまま一人ネギまを口にくわえていた。




