第95話 話は変わって
「それじゃあ、かえでの奴、また調子に乗って神前にろくでもないことを仕掛けるぞ。自分だけが神前を守れる。神前の隣には自分だけがふさわしい。図に乗った変態が何をするか……考えなくても分かるこった。間違いなくかえでは神前を襲うぞ。賭けても良い。あの色魔がいつまでも本物の男を我慢しているとは考えられねえ。しかも、そいつはあの変態の理想の男だ。襲わないと考える方がどうかしてる。姐御、その方が神前の身辺がより危険にならねえか?」
かなめはそう言いながら苛立たし気にランを見つめた。
「まーな。たぶん神前は日野に食われるだろう。だが、神前の命には代えられねー。ただ、日野の実力は本物だ。アタシも多くの法術師を倒してきたが、アタシを倒した『女神』に限りなく近い実力を持つのが日野だ。その実力を買ってその辺は大目に見たいが……大目に見るのも限度ってもんがある。そこで、今回の日野の馬鹿の立案するデートの目的の阻止をオメー等に命ずる」
ランはそう言ってにやりと笑った。
「デートの阻止?でも、かえでちゃんのデートコースなんて私達は知らないわよ」
アメリアは突然の話の展開について行けず混乱したようにそうつぶやいた。
「クラウゼ。オメーもまだまだだな。脇が見えてねー。リン……あれは日野に忠誠を誓って日頃は目立たないようにしているが、ああ見えて結構な食わせもんだぜ。相当な野心家だ」
そう言ってランはしてやったりの笑みを浮かべた。
「渡辺大尉が?彼女は『ラスト・バタリオン』上官の命令に従うように『従属本能』を強化されているはず。まさか、日野少佐の意に背くような真似をするとは考えにくいのですが……」
カウラはランの言葉が信じられないと言うようにそう言った。
「アイツの『従属本能』は解除されてる。いや、あいつ自身が別のある人物にその本能の先を向けるように自己コントロールしているからアイツはかえでの言うことを表面上は聞いているようでいつでも裏切る用意がアイツにはいつでも有るんだ。今回も査定の件で条件をいくつか提示してやったらあっさり日野をアタシに売りやがった。アイツはかなりの野心家だ。そんぐらいの事は当たり前とくらいにしか思ってねー。アタシはアイツがここに来た時からそうにらんでた。アタシくらいに場数を踏むと目を見ただけでそいつがどんな人間か分かるよーになる。人を見る目。どこに言っても必要になるぜ……参考にしな」
ランはそう言うと携帯端末を取り出した。
「リンが言うにはかえでのデートコースはこれだ。途中の所要時間、休憩時間、昼食をとる店の予約、そして目的地。すべてアタシは把握している。そしてその先でかえでが神前の童貞を奪う様子をリンが記念撮影する手順まですべて仕組まれている」
そう言うとランは携帯端末を操作してそのデータをかなめ達に転送した。
「かえでの奴、用意がいいねえ……目的地は君浦か。そこに別邸を買った?梅が奇麗だからその木の下で?野外でやろうってのか?アイツの計画の良さと変態性には感服するしかねえな」
かなめは自分の脳内に送られたデータを反芻しながら苦笑いを浮かべつつそう言った。
「そーだ。梅の木の周りにはアイツと神前がエロい事をする様子をすべて記録できるようにカメラが数多く設置されている。当然、日野の事だ。オメー等が妨害に入ることを予想して相当な警戒をしていると考えるのが当然だ。西園寺はサイボーグだろ?光学迷彩の使用を許可する。ここでアタシが出張ればいくら日野が実力者とは言えアタシに言わせればまだまだだから問題は簡単なんだが、その日はアタシは将棋のアマチュア名人戦の千要県予選が有って抜けられねえんだ。ただし、相手はあの日野だ。オメー等の手に余るようならすぐ連絡しろ。すぐに現場に跳んであの馬鹿の頭をひっぱたくからそん時は迷わず連絡を入れろ。分かったか?」
ランは笑いながらそう言い放った。
誠の純潔を守ると言う利益で結ばれたかなめ、カウラ、アメリアは決意を込めた敬礼をランに帰した。