第94話 5人行動の訳
「おい、姐御!なんでかえでの馬鹿とアタシ等が一緒に行動しなきゃなんねえんだ?あの露出狂と一緒に街を歩くなんて御免被るぞ!アタシは確かにアイツを裸にひん剥いて甲武の街を夜中よく散歩させたものだが、東和に来てまで同じことをしたくねえぞ!アタシまで変態だと思われる」
「いや、西園寺。そんなことを日野に強制した時点で貴様も十分変態だ」
かえでと一緒に居るのが何より嫌なかなめはそう言って抗議するが、その変態を生み出したのがほかならぬかなめであるとカウラは的確に指摘した。
誠達が部屋を出て行くとかなめは怒りの顔で立ち上がるとランの机に向けて歩み寄った。
「これからはオメー等の他に日野と渡辺にもできるだけ一緒に行動してもらう。これは隊長とアタシが決めたことだ。理由はそのうち分かる……いや、分からねーほーがいーんだがな。それが隊長の思い過ごしであることを願うばかりだ」
ランは難しい表情を浮かべてそう言った。
「ランちゃん。私達じゃ誠ちゃんの護衛は務まらない……事態はそこまで来ていると隊長は読んでいる……そう言いたいわけね。『廃帝』は本腰を上げて誠ちゃんを潰しに来た。そしてその相手は本気の法術師。私達は残念だけど法術師じゃない。その点法術師でも屈指の強さのかえでちゃんなら……といったところかしら?」
冷静にアメリアはランの机の前でそう言った。
「クラウゼには隠し事は無駄か……なんと言っても次期『特殊な部隊』の隊長最有力候補だもんな。まーそー言うこった。オメー等じゃ相手になんねーバケモンが今度は神前の馬鹿を迎えに来ることになる。隊長が言うにはもうこれは決定事項らしー」
ランは吐き捨てるようにそう言うと椅子を回転させてかなめ達に背を向けて窓を見つめた。
「オメー等、覚えてっか?『法術武装隊』……遼帝国が抱えてた史上初の法術師だけで構成された武装集団の話を」
そう言うとランは再び椅子を回転させかなめ達の方を向いた。
ランの言葉を聞くとそれまで椅子に座っていたカウラもまた興味をひかれた様にランの所まで歩いてきた。
「隊長が言うには遼帝国がクーデターで倒れた後、全メンバーが行方不明になっているとか……その部隊がどうかしたんですか?」
カウラの言葉にランは静かにうなずいた。
「行方不明になってたと言うのはあの『駄目人間』のその場のごまかし。いつもの話だ。連中は封印されていた『廃帝ハド』を復活させて『廃帝ハド』の手足となってその勢力拡大の為に動いてきていた。『近藤事件』のおかげで法術の存在がオープンになった今では連中は大手を振って自分達に歯向かいそうな法術師を抱えたテロ組織を公然と潰しにかかり、そしてそのすべてを駆逐した」
ランの話す言葉に一同は息を飲んだ。
「じゃあ、こんど神前を狙って来るのは……」
かなめの表情からそれまでの怒りの表情は消え、珍しく恐怖の色が浮かんでいた。
「そーだ。これまでは『廃帝』の中でも後発で幹部に上り詰めた北川公平や桐野孫四郎と言った外様がオメー等の相手をしていた訳だが、これからオメー等が相手をするのは『廃帝ハド』を復活させた精強の『法術武装隊』ってことになる。正直、オメー等には勝ち目はねー。おそらく連中の相手をできるのはアタシか日野くらいのもんだ。だから、オメー等のお守りに日野をつける。これがアタシと隊長の決定だ。もう決まったことだ。変更はねー!」
ランはそう冷たく言い放った。
ランとかえで。最強クラスの法術師では無いと相手が務まらない法術師集団を相手にすることになる恐怖にかなめ達の心は揺れていた。