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第92話 奇妙な寄港艦の情報

「まあ、これで神前の護衛の件は片付いたとしてだ。俺がかっこ悪い振られ方をした時、秀美さんが言ってたこと……お前さんは覚えてるかな?それを忘れられてると俺も話が続けられないんだ」


 相変わらず端末から目を離すことなく嵯峨はそうつぶやいた。


「ああ、あの時の話か?覚えてんよ、しっかりな。縦須賀にフランス軍の艦艇が停泊してるってことだろ?覚えてんよ。連中も人間だ。地面に足をつけたくなることもあるだろーしな。それに別に珍しー話でもねーが、それを安城がわざわざここまで着て言ってきた。そのことに意味がある。隊長はそーいーてーんだな?」


 ランは急に話題を変えてきた嵯峨に不機嫌そうにそう返した。


「俺も連中が地上を踏みたいんだと思ってたんだ。でも、おフランスのクルーたちは一歩も艦から出て無いんだよね……不思議だよね……東和じゃアメリカ軍の軍人は嫌われてるが連中は周りの目も気にせず銀座とかをぶらぶらしている。それに対しフランス軍はそもそも東和人はあまりその存在を知っちゃいない。それなのになんで?東和の街は確かに制服を着た白人の連中を白い目で見るから居づらいだろうが、そんなことを考えてたら遼州艦隊のクルーなんてやってられないよね。俺はそう思って秀美さんに艦に接触する人物や物資の出入りの調査を頼んどいたんだ……凄い軽蔑するような視線を浴びたけど」


 嵯峨はここに来てようやく顔をランの方に向けた。


「クルーに外出禁止命令が出てる?普通の寄港じゃねーな。何か目的がある。で、何が分かった」


 ランはそれまでとはうって変わった真剣な表情で嵯峨を見つめた。


「それが妙なんだ。出入りするのは全員菱川グループの関係者ばかり。菱川化学工業、菱川医療研究所、当然、菱川重工の幹部も出入りしている……菱川が地球圏に出資はしている。だが軍事産業で提携を結んだなんて話は俺も聞いたことが無い。でもなんで菱川グループはフランス軍の艦船に出入りを始めたんだろうってね?そこが凄く気になったのよ。うちも菱川重工の土地借りてここで『特殊な部隊』やってるわけじゃん。うちと無関係とは……考えづらいよね。特に連中にはお前さんの天下無敵のシュツルム・パンツァー『方天画戟』を預けてる。連中はオーバーホールと小改良をするというが……どこまで信用して良いのやら……何を考えてるんだ?菱川の偉いさんは」


 嵯峨の言葉にランの表情は硬くなった。


「隣の工場の連中か……菱川重工の親会社の菱川ホールディングスの総帥、菱川重四郎は三代前の首相だった男だ。当然その時に地球圏にも外遊をしている。その時の流れなんじゃないのか?それに菱川グループは宇宙の経済大国東和共和国の四大財閥の一つだ。東和は国家の方針として地球に多額の投資をしている。その流れがまわりまわってフランス軍にも流れてた……そんな話なんじぇねーの?それと隊長もアタシの『方天画戟』の情報の流出はアレを隣の工場に運んでいた時から覚悟してた事だろ?いまさら何が変わるんだよ」


 ランはそう言って悩んでいる顔の嵯峨を見返した。


「確かにそうなんだけどさあ。菱川重四郎の地球外遊ってもう十年以上前の話じゃん。そん時には菱川グループがフランス軍に技術支援して新たな出資をするような話は出なかった。それが今更フランス軍の艦隊としきりと接触を持つ……理由は何だろう?『近藤事件』で法術の存在が明らかになってからその技術を持つ菱川と持たないフランスの間を誰かが取り持った……しかも『近藤事件』の後のこの変革の時代に入って……さて、誰だろうねえ……俺には『方天画戟』の技術流出よりそっちが気になったの。だってあんな化け物みたいな機体を乗りこなせるような法術師がフランスに居るなんて思えないもの」


 嵯峨はとぼけたようにそう言うと再び画面に視線を戻した。


「隊長のこれまで話してきた文脈から理解すればそいつは『廃帝』ってことになるな。『廃帝』には直接地球圏と交渉するチャンネルはねー。そうなると『廃帝』と資金の面でつながりのあるネオナチの連中が動いたと考えるのが普通だーな」


 ランは苦々しげにそう言った。


「そう。再び地球圏にナチの鍵十字を見たくないから地球圏のヨーロッパ諸国は片っ端から国内の極右の連中をとっ捕まえてこの遼州圏に追放した。結果としてその流れに同調したフランスは遼州圏にネオナチを封じ込めてる。ただ、それでも連中もネオナチの遼州圏での情報網と資金は興味があるからつかず離れずの関係にある。そう考えると『菱川』、『廃帝』、『ネオナチ』がフランスの艦隊と交渉のテーブルについていると考えるのが自然だよね」


 嵯峨は淡々とそう言うと口にしていたタバコを灰皿に置いた。

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