第91話 悩む隊長と副隊長
「となると……日野の馬鹿を寮に移すか?アイツならそのカラとか言う女相手に互角以上の戦いが出来るだろう。……いや!あの馬鹿はあの『漢を育てる園』であるあの寮には入れられねえ!あんな淫乱女をあんな半端モノの集団の中に放り込んだら何をしでかすか分かったもんじゃねえ!」
ランは怒りに任せてそう叫んだ。
「そうなんだよね。アイツは男もいける口だから。かえでは良い。アイツは神前一筋と言ったらそれを守るから。でもセットでくっ付いてくるリン……これが曲者だ。かえでの奴はリンが他の男とヤッてるところを見るのが好きだとか俺に抜かしてやがった。それこそとんでもないことになるね」
嵯峨はそう言うとタバコを取り出し火をつけた。
「じゃあどーする?神前の奴をかえでの屋敷に……これも駄目だ!アイツの屋敷には神前の野郎を性のおもちゃとして待ち構えてる召使たちがいる!神前はそれこそ理性がぶっ飛ぶような性生活を強制されて使い物にならなくなる!色に狂って人生失ったなんてことになったら神前の母ちゃんに合わせる顔がねえ!」
ランはそう絶叫して頭を抱えた。
「アレも駄目、コレも駄目……こりゃあ完全に詰んでるね。ああ、いっそのこと神前にかなめ坊たちを抱かせてかなめ坊たちが法術師になるってのは……ランのその顔。それも許さないって言う顔だよね。でも俺としては良い考えだと……」
「『駄目人間』。それのどこがいー考えなんだ?教えてくれ。アタシにはただの複数プレイがしたいだけの変態行為にしか見えねーんだが」
ランの言葉に嵯峨はしょげかえった。
「じゃあ、妥協案。かえでの奴には多少無理をしてもらって、神前の出勤前に神前達の車を付けるように早起きしてもらう。連中が飲みに行くときも同行させるようにする……でもなあ、夜中に『廃帝』の連中があの寮を『ブラッドバス』に変えようなんて考えたらそれでもお終いだよね」
策士を自称する嵯峨も完全に自分の策の欠点に気付いていた。
「隊長。もう少し神前を信じてやろーや。『法術武装隊』が存在したのはもう30年前だ。リョウ・カラ。コイツが不老不死の法術師だったのは明らかだが、全員が不老不死って訳じゃねーだろ。現役の『法術武装隊』のメンバーがどれだけいるか分からねーんだ。恐らく『法術武装隊』の全盛期に比べると能力的には劣ると考えるのが自然だ。アタシもアタシが世話になっている組の連中を見張りに着ける。夜中に何かあったらアタシが駆けつける。アタシは『人類最強』だ。リョウ・カラとその部下達がどれほどつえーか知らねーがアタシに勝てるとは思えねー。その線が今回の妥協点だろ」
ランはそう言って苦笑いを浮かべた。
「またお前さんに借りを作る訳か。別に俺みたいなやつにそんなに貸しを作っても何の得にもならねえよ」
嵯峨は自虐的な笑みを浮かべながらそう言った。
「なあに、隊長に受けた恩に比べれば安いもんだ。アンタはアタシをあの地獄から救ってくれて人間にしてくれた恩人だ。その事だけはアタシは忘れねー。忘れられるわけがねー」
ランは画面から目を離そうとしない嵯峨を見つめつつ苦笑いを浮かべた。




