第90話 蘇る『法術武装隊』の記憶
嵯峨はランが手持無沙汰なのをしり目に再び視線を画面に送った。
「おい、ランよ。じゃあ、その『廃帝』の手先となってテロ組織を潰して回った連中はどんな連中だと思う?ゲリラを皆殺しにすることにかけては俺より手慣れたお前さんの事だ。俺より少ないヒントでその実力を推し量れると思うよ」
挑戦するような嵯峨の口調にランは目をむいて嵯峨を見つめた。
「言うじゃねえか、遼帝国の反政府ゲリラ狩りではその名を知られた『屍者の兵団』の鬼の憲兵隊長さんよ。確かに、法術を囲ってる可能性のあるテロ組織にそいつ等を皆殺しにする為に必要とされる戦力は全員が法術師であることが必要になる。それも生半可な人間……うちの神前みたいな馬鹿じゃ務まらねえ。神前が相手にしていた北川公平や桐野孫四郎クラス……いや、それでも実力的には不足かもしれねえな。アタシならもっと使える奴……うちの日野クラスを用意しておく。そしてアタシ自身が指揮を執る。そーすれば確実にその組織を根絶やしにできる」
ランは思い出したくもない記憶を嵯峨に思い出させられたことに不快感を感じながらそう答えた。
「そうだな。かえでならお前さんの補佐は出来るだろう。これまで俺達が相手をしてきたのは所詮、『廃帝』の法術師の二軍なんだ。北川も頭は回るが手持ちの武器は小口径のリボルバー程度。桐野は……アイツは戦闘能力は恐ろしく高いが上司だった俺が言うのも何だが、組織の戦力として数えるには命令違反が多すぎる。そうなると……潰すべき敵対組織が無くなった今。連中の目はどこに向くか……」
そこまで言って嵯峨はランを見つめた。
「おい、無茶言うなよ。公安にはサイボーグしか居ねえんだぞ!日野クラスの法術師の相手なんてとてもじゃねえが出来るわけがねえぞ!それにそんな法術戦に特化した組織、どうやって『廃帝』が見つけてきたんだよ!その顔、知ってるんだな?話せよ。安城少佐には忠告済みなんだろ?」
ランの言葉に嵯峨は静かにうなずいた。
「俺の知る限り、その組織の名は『法術武装隊』。遼帝国が滅んだ時に消えた幻の法術戦の専門組織だ。お前さんにも隠してたがそのメンバーの顔は俺は全員知ってる。秀美さんから貰った法術テロ組織を襲撃する連中の映像の中にその顔が見えた。その時その襲撃犯を指揮していた女の写真がこれだ」
そう言うと嵯峨は一枚の写真を机の引き出しから取り出した。
そこには35歳前後の長髪の目つきの悪い女の写真が写っていた。
「三十路で年齢固定した不死人の法術師か……隊長もったいぶるなよ。そいつの名前も隊長は知ってるんだろ?」
ランは手渡された写真を見ながら嵯峨を問い詰めた。
「リョウ・カラ。名字がリョウってことは遼帝国の帝室の人間だろうな。近いうちに俺達の前にもこの女は現れる……俺はそう踏んでる……そうなると……かなめ坊たちよ。正直お前さん等じゃ手に余るぞ。なんせ相手はかえでクラスでなきゃ何とかならない名うての法術師だ。法術の使えないお前等には万に一つも神前の野郎を守れない」
嵯峨は諦めたようにそう言うと再び視線を端末の画面へと移した。