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第9話 甲武から来た花魁

「それにしてもかわいい……というかまさに『美少女』って感じだな。だんだん近づいてくるな……笑顔だよ。そんなにあの『駄目人間』に会えるのが嬉しいのかね……あの人『熟女マニア』だから30代後半から50代前半までの女にしか興味は無いとか言ってるけど、結局若い女が良いんだ。まったく『駄目人間』は何を考えているのやら」


 誠は呆れながら近づいてくる芸者を見つめていた。テレビで見るような白粉を付けている訳では無く、化粧は薄く、若いその肌の艶に誠は息をのんだ。


「ちょいと、兵隊さん?すまないね」


 薄い化粧越しに見える色白の済んだ肌と整った面差しの中に気の強さを感じさせる瞳が目立つ芸者が誠に声をかけてきた。その様子はとても見た目の年齢からは考えられない落ち着きを払った雰囲気をまとっていた。


「芸者さん?うちは『司法実働部隊』だから兵隊さんじゃなくてお巡りさんの方が良いと思うんだけど……」


 女の強い口調に気の弱い誠はおどおどしながらそう答えた。


「そんな難しい話はどうでも良いんだよ。それにアタシは芸者なんかじゃないよ。それより、新さんだ。居るんだろ?ここの隊長さんは?今日も来てるんだろうね?早く案内しな」


 相変わらずの気の強い口調で女はなれなれしく誠にそう話しかけてきた。


「隊長が芸者を呼んだんですか?今は勤務時間中なんで……」


 誠は隊長である嵯峨のわがままに付き合わされるのは御免だとつっけんどんにそう返した。


「そんなことはどうでも良いんだよ!お蔦が来たと言えば分かるはずだから!兵隊さんは黙って隊長さんの所まで案内すればいいのさ!まったく気が利かないねえ……甲武の兵隊さんもそうだが、兵隊さんや警官ってのは庶民を見下すことしか考えちゃいない。この東和でもそうだ。まあ、甲武の警官は日本刀をぶら下げていつでも逮捕してやるぞって感じで迫ってくる威圧感は感じないけど、東和の警官も道順を聞いただけでアタシの顔を見て嫌な顔をしやがるんだ。警官はそれが仕事だろ?仕事だったらそれをちゃんとこなす。税金でおまんま食ってるんだから当たり前の話じゃないのさ」


 お蔦と名乗った絶世の美女と言って良い芸者は誠を鋭い目つきでにらみつけてそう叫んだ。


「ちょっと、神前さん、神前さん」


 誠は背後に人の気配を感じて振り返るとそこには難しい表情をした西が立っていた。


「ちょっとすいません」


 誠はお蔦の迫力から逃げるために西に付いて守衛室の奥に引っ込んだ。アンも事の珍しさに興味を感じたのかゲーム機を置いて誠達に付いてきた。


「神前さん。あれは甲武の玄人女ですよ……甲武生まれの僕には一目でわかります。いや、東和生まれの神前さんには玄人女なんて言っても分かりませんよね。あれは甲武の女郎……売春婦です。あの物腰、あの目つき。間違いなくそんな女です。甲武生まれの僕が言うんです。間違いありません」


 西の言葉に誠は唖然とした。東都の下町から芸者を呼ぶならいざ知らず甲武から女、しかも売春婦を呼ぶとは司法局実働部隊隊長である嵯峨惟基特務大佐がいかに『駄目人間』とは言え自分の想像を絶するレベルだと誠は確信した。


「しかもあの色香……きっと花街の花魁の太夫……あんなのを身請けするとは……隊長の色狂いもここまで来ると芸術の域ですね。一体どこからそんな金……西園寺さんのお父さんにでもねだったんですかね」


 西はそう言っていやらしい笑みを浮かべた。


「身請け?あれだよね、身請けってその店から女を買い取るってことだよね?でもあの人小遣い3万円だよ。そんな金有る訳ないじゃないか……それとも甲武は物価が安いって聞いてるけどそんなに安いの?」


 誠は甲武出身で誠よりははるかに甲武の事情に詳しい西にそう尋ねた。


「確かに甲武は物価が安いですが、花街の花魁を身請けするとなったらそれこそ大企業の社長でも持ってる株の全部を引き換えにするくらいの値段になりますよ……東和の円で言ったら1億はくだらない……いや、あれだけの美女となったらそれこそ目玉が飛び出るくらいの金がかかりますよ。でも僕達の目の前にはどう見てもそうとしか見えない女がいる。神前さんも現実を認めた方が良いですよ。隊長はそう言う人だったということです。あの人の女好きは病気の域に達していた。いつもクバルカ中佐が言ってるじゃないですか。『目で見たリアルだけが真実だ』って」


 西の言葉に誠は呆然とした。確かに女好きで知られる嵯峨だがいったいどこにそんな金が有ったのか。誠はそれが不思議でならなかった。

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