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第88話 導く『男装の麗人』

 諦めきったような表情で黙り込むランに一礼した後、かえでは自分の席で火の粉が自分にかかるのを恐れていた誠にまさに豪華そのものとして近付いていった。


「誠君。ごきげんよう。今日はずいぶんと静かじゃないか。聞いていたんだろ?君も。僕は君とデートがしたい。ちゃんとしたデートと呼べるものを君はしたことが無いと聞いている。それは悲しいことだ。安心して良いよ。すべて僕がリードしてあげよう……君は全てを僕にゆだねればいいんだ」


 誠はかえでの言葉を聞いて『これって……普通プレイボーイの男が言うセリフなんじゃないのかな?』などと考えながら、自分には拒否権は無いのだろうと静かにうなずいた。


「なんだ、もう少しうれしそうな顔をしてくれないかな?君は完璧な女性を手に入れるチャンスを得た宇宙でも最高に幸運な男なんだよ。だったら嬉しそうな顔で僕に甘い言葉の1つでもささやいてくれると僕としてはその甲斐があると言うものだよ……そこで君はこれまで自分が考えてきた世界とは違う世界を知ることが出来る。ああ、性的な意味だけでなくそれ以外の意味も含まれているよ。そして君は成長できるんだ。素晴らしい事だろ?」


 笑顔のかえでだが、誠はかえでの変態性を週に一度彼女が送ってくる『愛の手紙』という名の無修正動画で知り尽くしていたので不器用な笑みを返すしかなかった。


「笑顔が堅いね。でも、そんな正直なところも君の良さの1つだ。不誠実な男なら僕に合わせて作り笑顔で僕を騙そうとする。僕がそれほど愚かだと思っているのかな?彼等は。でも僕は騙されることは無い。僕は誠実さが人間には一番必要なことだと考えている。僕が付き合っている女性達にも僕はいつも誠実に接している。君も僕のそんな僕の美徳である誠実さと、今のかなめお姉さまには理解できない僕の『夢』をデートの間に聞いたらきっと僕の事を愛するようになる……それは確定事項なんだ」


 かえでの強引な言いきり口調に自分の席で脇のホルスターを机に投げて話を聞いていたかなめが立ち上がった。


「オメエの夢だ?どうせエロい事しか頭にねえんだろ?どんなプレイをしたいか語るだけだろ?そんな話をしても神前の脳が妄想に膨らんで穢れるだけだぞ……神前!断っちまえ!露出徘徊を好む変態なんて願い下げだってな!」


 かなめの言葉にもかえでは笑顔を崩すことは無かった。


「僕が露出徘徊が好きになったんはお姉さまの調教のおかげですよ?ご自分のなさったことをお忘れになったようですね。まあ、そのおかげでその快感に僕はいつも打ち震えてしまうのですが。それにお姉さま。人は成長していくものなのですよ。僕も成長した。だから僕は少佐、成長できないお姉さまは大尉。軍と言う組織は成長できる人間にはそれにふさわしい階級を与える。この現実を知った上で僕が誠君にどんな『夢』を語るか……そのくらいの想像はしてもらいたいものですね。なんと言ってもお姉さまは『斬大納言』と恐れられた僕の姉……そのくらいのことは出来て当然でしょ?」


 かえでの笑顔にはどこかかなめに対する侮蔑の色が混じっているように誠には感じられた。


 そして同時にかえでの語る『夢』がこれまでの自分のかえでに持っていたただの変態と言うイメージを覆すことになるのではないかとかえでとのデートを期待している自分を発見して驚いた。

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