第87話 一枚上手の妹『斬大納言』
「それはそれは……なら僕も一緒にお姉さまのギターを聞くと言うのはどうだろうか?まあ、お姉さまは中島みゆきを中心とした昭和歌謡とそのオマージュのオリジナル曲しか歌わないからね。あまり客も来ない。なんなら僕がチップをはずんで……」
かえでの余裕の態度にかなめは完全にキレた。
「おい、かえで。それは姉への当てつけか?いつからオメエはそんなにデカい口が叩けるようになった?アタシの鞭や蠟燭でアンアン言ってたドMのオメエに聞かせるような歌はねえ。アタシの歌は戦う女の歌だ。性的快感にしか興味のねえ変態のテメエに聞かれると考えただけで虫唾が走る!」
かなめの言葉を聞いてかえでは大きなため息をついた。
「お姉さま。僕をいつまでも昔の僕と思っていると大きな間違いですよ。確かに性的快楽は僕の人生の大きな部分を占めるのは事実です。でも、それは僕の一部に過ぎない。お姉さまはお姉さまが任務で甲武を去ってから僕が手に入れたその重要な一部について何もご存じでない。僕の階級がお姉さまより上の少佐であると言う事実を見ても、僕がお姉さまと別れてから何を手に入れたかはお姉さまなら分かると思っていたのですが……残念ですね」
かえでの嘲笑するような口調にかなめは歯ぎしりをした。
「はいはい、この戦いはかなめちゃんの負け。かえでちゃんのデート。別にいいじゃないのそんなもの許してあげても。所詮遼州人で『愛』と縁のない誠ちゃんをどう口説くつもりなのか知らないけど、せめて手でもつないで公園でソフトクリーム食べてお終いなんて言うのが関の山でしょ?かえでちゃん。誠ちゃんの奥手……いえ、遼州人の恋に不器用なところはあなたの想像を超えているのよ。あなたじゃどう考えてもあなたの思ったような激しい愛におぼれるなんて言う展開は誠ちゃんには無理。諦めなさい」
アメリアはそれだけ言うと機動部隊の詰め所を出て彼女が部長を務める運航部の執務室に向った。
「日野。オメエが何を考えてるか分からねーがこれ以上神前に変なことをするとキスどころか手をつなぐのも禁止にするからな!オメーは腕が経つのは確実だがその変態性癖、なんとかならねーのかな?最近この街を金髪の胸のでかい全裸の女が徘徊しているって言う噂がある。アタシの耳にもそれは届いてる。その変態女は間違いなくそれはオメーだ。いつ警察からアタシの所に痴女を引き取りに来てくれという連絡が入るかと思うと気が気じゃねー。アタシは島田の窃盗癖をなんとかするのだけで精いっぱいなんだ。これ以上豊川署に借りを作りたくねー」
ランは鋭い口調でそう言い切った。今日のランは明らかにいつも以上に不機嫌である。誠にはその事実だけははっきりと分かった。
「クバルカ中佐。そんな事は僕は5回しかしたことが有りません!しかも全部日中に人通りの少ない路地を選んで露出をしただけです!」
かえではあっさりと自分の全裸俳諧を暴露した。誠は5回でも十分犯罪だと心の中で思っていた。
「それに最近誠君との距離が近づいて来たので最近はそう言うことはやめました。それに僕達は結婚を誓い合った仲ですよ?そんなことを決める権限が中佐にあるとお思いですか?今の時点では僕は中佐の許可した範囲内で行動すると命を懸けて誓いましょう!どうです?それでも僕と誠君がデートをするのを許可していただけないと?」
かえでの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「クバルカ中佐。中佐の考えも分からないでもないですが、今回は中佐には許可を出すしか道は有りません。どうせ神前には日野少佐の思い通りの展開を行うような度胸は有りません。安心して良いでしょう」
誠は目の前の女性達が自分がいかに臆病で奥手かということについて話し合っていることに絶望しつつ、かえでと隣で何を考えているか分からないリンの存在に恐怖を感じながら自分の席に戻った。